関節腔ドレナージ|整形外科

ドレーンカテーテル・チューブ管理完全ガイド』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は関節腔ドレナージについて説明します。

 

平岡久忠
東京逓信病院整形外科部長
酒井宏哉
埼玉医科大学総合医療センター整形外科教授
増田美穂
埼玉医科大学総合医療センター看護部(6階西病棟)

 

《関節腔ドレナージの概要》

 

主な適応
人工関節置換術や、関節鏡視下、前十字靱帯再建術など、関節腔に大量の関節内血液貯留が予想される場合(表1)
目的
術後、関節腔内の異常な貯留液を関節腔外に排出する
合併症
感染、ドレーン引き抜け、ドレーン先端の折損残留
抜去のめやす
通常術後1~2日(術後関節内出血がなくなるまで)
観察ポイント
排液量の増減、性状、ドレーン挿入部の固定、ルート接続部を観察し、異常がみられる場合は医師へ報告する
ケアのポイント
感染対策:閉鎖式ドレナージを保持し、固定部の剥がれや接続部のゆるみに注意する
抜去予防 :体位変換や移動・移乗の際はドレーンの抜去に注意する

 

〈目次〉

 

関節腔ドレナージの定義

関節腔ドレナージとは、正常では無菌の閉鎖腔である関節腔内に穿刺、あるいはドレーンを留置し、腔内の異常な貯留液を関節腔外に排出することである。

 

関節腔内には正常でも少量の関節液(滑液)が貯留している。異常な液の貯留としては、変形性関節症や関節リウマチ、偽痛風など関節内の炎症に伴って大量に貯留する関節液、関節内骨折や靱帯損傷、また関節手術後に貯留する血液、さらには化膿性関節炎の際の膿性関節液などがあり、それぞれの病態に適したドレナージ法がある。

 

本コラムでは、整形外科手術患者において一般的に適応される手術後関節腔ドレナージについて述べる。

 

関節腔ドレナージの適応と禁忌

手術後関節腔ドレナージの適応は、関節腔に手術侵襲が及び、大量の関節内血液貯留が予想される場合である。関節内に大量の血液が貯留すると疼痛が誘発され、術後早期から開始される関節可動域訓練などの手術後療法の妨げとなるため、ドレナージが必要である。

 

関節腔ドレナージの適応を表1に示す。

 

表1関節腔ドレナージの適応

関節腔ドレナージの適応

 

関節腔ドレナージの挿入経路と留置部位

1一般手術後ドレナージ

一般手術後のドレナージでは、ドレーン先端に付いた穿刺針を関節内から関節包、皮下組織、皮膚の順に貫き、ドレーンを関節内から外へ通し、皮膚に(USPサイズ)3−0ナイロン糸を用いて縫合固定する。

 

膝関節においては、膝蓋骨近位外側の皮膚を貫通して留置する(図1)。

 

図1一般手術後の関節腔ドレナージ(膝関節)

一般手術後の関節腔ドレナージ(膝関節)

 

2関節鏡視下手術後ドレナージ

関節鏡視下手術の場合、皮膚を貫通して関節鏡の外筒管を関節腔内に挿入し、その内腔に沿ってドレーン先を関節腔内に挿入する。その後、ドレーン先を関節内に留置したまま外筒管を抜去し、3−0ナイロン糸でドレーンを皮膚に縫合固定する。

 

ナイロン糸は、ドレーンの固定と同時に穿刺孔の縫合を兼ねる。すなわち、ドレーンを抜去する際には、固定糸を中途で切ることでドレーンの固定が解除され、ドレーン抜去が可能となるが、残存糸は穿刺孔の縫合糸として残り、穿刺孔の創治癒後に抜糸する(図2)。

 

図2関節鏡視下手術後の関節腔ドレナージ(膝関節)

関節鏡視下手術後の関節腔ドレナージ(膝関節)

 

膝関節の場合、ドレーンの留置部位は膝蓋骨近位外側が一般的であるが、関節鏡の一般的な穿刺部位である外側膝蓋下穿刺孔(図3)をそのままドレーン留置孔として利用することもある。

 

図3外側膝蓋下穿刺孔をドレナージ孔として利用した症例

外側膝蓋下穿刺孔をドレナージ孔として利用した症例

 

3ドレナージ方法と抜去のめやす

関節腔内は無菌であるので、その環境を維持するために閉鎖式ドレナージを行う。

 

閉鎖式ドレナージでは、関節内に留置した清潔なドレーンの内腔が外気に触れることなく、清潔な排液バックに直接連結される。

 

ドレーン留置期間は、術後関節内出血がなくなるまでの間で通常術後1~2日である。

 

関節腔ドレナージの合併症

1感染

合併症として最も起こりやすく、また重大なものである。ドレーン皮膚穿刺孔からの感染やドレーンを介した逆行性感染などがある。

 

人工関節術後など、関節内インプラントに感染が及んだ場合には治癒が困難となるため、その予防、すなわち皮膚穿刺孔と留置ドレーンの清潔環境維持はきわめて重要である。

 

関節腔内の出血量が多く、排液バックが充満した場合には、バックからの廃液が必要となる。その場合には清潔操作の実施および、いったん流出した排液が関節内に逆流しないよう注意する必要がある。

 

2ドレーンの抜去困難・折損残留

抜去時には、抜去困難やドレーン片の折損残留なども可能性がある。

 

関節腔ドレナージの利点と欠点

利点:術後の関節内出血を関節外へドレナージすることにより、関節内の血液貯留をなくし、関節腫脹による疼痛と術後療法の遅延を防ぐことができる。また、閉鎖式ドレナージを行うことで、開放式ドレナージ(ペンローズドレーンなど)とくらべて感染の可能性を低減できる。

 

欠点:関節腔内にドレーンが留置されている期間は、積極的な関節運動ができない。ただし、持続他動運動(continuous passive motion:CPM)装置を用いた術直後からの他動的関節運動は可能であり、また、術後早期にドレーンを抜去するのが一般的であるため、術後療法への影響は限定的である。

 

関節腔ドレナージのケアのポイント

1ドレーン挿入部・固定の観察

ドレーン挿入部の出血・滲出液があるとき:吸引指示圧になっているかを確認し、滲出量が増えるようなら医師に報告する。

 

ドレーン挿入部の固定:ドレーン挿入部は縫合し、割ガーゼ・ガーゼまたはフィルムドレッシング材で保護している(図4)。テープや保護材の剥がれがあるときは、再度固定する。

 

図4ドレーン挿入部の固定法

ドレーン挿入部の固定法

 

ドレーン接続部の固定:ドレーンと排液バックの接続部は、引っ張りなどの予期せぬ外力によって抜けることがある。ドレーンとバックの接続部が外れると、感染の危険性が高まるため、体位変換時などは注意が必要である。もし外れた場合は、ドレーンをクランプし、ただちに医師に報告する。

 

ドレーンの折れ・ねじれがあるとき:体位変換時はドレーンにゆとりをもたせて行う。また、挿入部から排液バックまで、異常がないかルート全体を指でなぞって確認する。

 

2排液量の観察

術直後は「血性」だが、徐々に「淡血性」~「漿液性」になる。ドレーンからの排液量・性状を経時的に観察する。

 

出血量が多いとき

術後出血やショックを疑い、バイタルサインや採血データなどのアセスメントが必要となる。

 

血圧低下・脈拍増加がある場合は、ただちに医師に報告する。

 

排液量が少ないとき

ドレーン閉塞の場合:ドレーンの折れ・ねじれに注意し、折れ・ねじれがあれば解除する。ドレーン内の血塊が原因である場合、ミルキングで閉塞は解除される。

 

排液バックに空気が貯留する場合:吸引が効いてない可能性があるので、再度指示圧にする。それでも空気が貯留する場合は、医師に報告する。

 

ドレーン挿入部や創部のガーゼ汚染がみられる場合:吸引が効いていない可能性がある。滲出液の状態を観察し、医師に報告する。

 

3移乗・移動時のケア

抜去予防のための工夫

移乗・移動時は、ドレーンが抜けないようにドレーン・排液バックを固定する。その際、ドレーンの屈曲・ねじれに注意する(図5)。

 

図5移乗・移動時の固定法(左前十字靱帯再建術後、プレイビー装具を装着中の例)

移乗・移動時の固定法(左前十字靱帯再建術後、プレイビー装具を装着中の例)

 

創部の上に排液バックを固定すると創痛が増強することがあるため、固定位置に注意する。

 

固定のネットがきつい場合は疼痛が増強し、ゆるい場合は固定が不十分になるため、固定の状態について観察する。

 

ベッドに戻った際は、固定を外す。

 

移乗時のコツ

患肢の安楽保持・転倒予防のため、移乗時は患肢を支えて介助する。

 

患肢は膝可動域に制限がある。さらに、ドレーン抜去は術後2日目が多いため、車椅子への移乗後も患肢が安定し、安楽な肢位となるよう注意する。

 

4患者指導

ドレーンの目的・抜去時期・注意点を説明する。体位変換時や移動の際は、看護師が介助することを説明し協力を得る。

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社

 

[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社

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