BEP療法(看護・ケアのポイント)/精巣腫瘍
この連載では、抗がん剤のポイントや注意点について解説します。
今回は、精巣腫瘍の患者さんに使用する抗がん剤「BEP療法(ブレオマイシン+エトポシド+シスプラチン療法)」について、看護・ケアのポイントについて紹介します。
第1話:『BEP療法(化学療法のポイント)/精巣腫瘍』
和田耕一郎
(岡山大学病院 泌尿器科)
- ポイントA:若い患者さんが多いので、学校や仕事、家庭環境などに配慮して看護しよう!
- ポイントB:副作用の好中球減少症と発熱、腎機能低下、間質性肺炎(肺線維症)に注意しよう!
- ポイントC:長期の化学療法となるので、よい「患者さん-看護師関係」を構築しよう!
〈目次〉
必ず覚えて! BEP療法の注意点
投与前の注意点
患者さんは、精巣を摘除する手術を受けた直後のため、精神的にも不安定な状態です。このことを踏まえて接しましょう。10代~30代の若い患者さんが多いため、精子が減少してしまう化学療法を受ける前に、精子の保存を行っておくこともあります。
BEP療法は輸液が多く、丸一日の点滴を連続5日間行います。患者さんにスケジュールの確認を入念にしておくといいでしょう。
また、シスプラチン(ランダ)の高頻度な嘔気・嘔吐に対する内服の制吐剤(イメンド)がきちんと服用されているかどうかをチェックします。
BEP療法のポイントA
- 若い患者さんが多いので、学校や仕事、家庭環境などに配慮して看護しよう!
投与中の注意点
投与の際には、バイタルサインをチェックして開始します。アナフィラキシー反応など、投与中の副作用の頻度は低いですが、若い患者さんが多いため、精神的にも不安な状態で投与を行います。声掛けなどの細かなコミュニケーションで、患者さんが安心して投与を継続できるよう配慮します。
投与後の注意点
投与直後には、バイタルサインや皮膚の変化をチェックして、自覚症状がないかどうか問診します。頻度の高い消化器症状は投与後数日で出現します。食事摂取量や尿量をチェックして、必要なら追加輸液について主治医に確認します。
また、匂いに敏感になり、味覚も変化します。10日目頃から白血球や血小板数の減少、長期になると貧血に対してG-CSF製剤の投与や輸血が行われます。
腫瘍の急激な崩壊や縮小に伴う電解質異常による不整脈(腫瘍崩壊症候群)や、腫瘍からの出血(肺転移であれば喀血など)に注意が必要です。
BEP療法のポイントB
- 副作用の好中球減少症と発熱、腎機能低下、間質性肺炎(肺線維症)に注意しよう!
BEP療法時の申し送り時のポイント
患者さんの背景や、副作用の種類、重症度を申し送りましょう。特に、副作用に対する投薬や輸液の有無、指導内容が重要です。また、若い患者さんが多いので、学校や仕事、家族についても注意点があれば申し送る必要があります。
BEP療法施行中の申し送り例
精巣腫瘍、リンパ節転移に対して、BEP療法3コース目の11日目の患者様です。
2コース目で発熱性好中球減少症を発症し、今回も9日目からG-CSF製剤(フィルグラスチム〈グラン〉)の投与が行われています。今のところ発熱や咳などの感染症状は認めませんが、手洗いやうがいを励行し、食事は化学療法食(生もの禁止食)となっています。差し入れも、加熱食にしていただくよう母親に伝えています。
食欲不振は改善傾向ですが、匂いに敏感で、しっかり味の付いたカップ麺を取ることが多くなっています。昼食は麺類に変更となり、10割摂取できています。
大学の休学期間について気にしており、母親に八つ当たりすることも多くなっています。相談事があれば極力傾聴してあげてください。
BEP療法時の看護記録に記載すべきこと
まず、現在BEP療法の「○コース目、○日目」なのか、とバイタルサインを必ず記載しましょう。さらに、投与後の副作用の種類と出現時期、対策と現在の状況を記載します。
消化器症状の頻度が高いので、食事摂取量やインアウトバランス、体重変化に関する記載が必要です。また、発熱、呼吸器症状や浮腫など、自覚症状の有無についても必ず記載が必要です。
学校や仕事に関する悩みや家族との関係についても問題があれば記載しましょう。状況により、主治医への報告、臨床心理士やリエゾンチームの介入が奏効することもあります。
患者ケア・看護ケアはココを押さえる
一般的な化学療法の副作用だけでなく、腫瘍の急激な縮小による副作用(腫瘍崩壊に伴う高カリウム血症などの腫瘍崩壊症候群、肺転移の出血による喀血など)にも注意を払う必要があります。
精巣腫瘍は、全身状態が良好で、若い患者さんが罹患することが多いため、悪性腫瘍に罹患しているという現実をすぐに受け入れることができない、ということが往々にして起こります。そのため、周囲へ不満や怒りを爆発させたり、抑うつ傾向となったりすることがあります。
特に、予後が悪い患者さんは長期間の化学療法が必要になるため、十分な精神的ケアが必要となります。その際、家族や学校、仕事などの背景を十分に踏まえて行う必要があり、良好な「患者-看護師関係」を築いておくことが重要です。
BEP療法のポイントC
- 長期の化学療法となるので、よい「患者さん-看護師関係」を構築しよう!
- 第1話:『BEP療法(化学療法のポイント)/精巣腫瘍』
- ⇒『抗がん剤 A・B・C』の【総目次】を見る
[文 献]
[監 修]
齋藤信也
岡山大学大学院保健学研究科 教授
[編 集]
西森久和
岡山大学病院 血液・腫瘍内科
[執 筆]
和田耕一郎
岡山大学病院 泌尿器科
*本連載では、登録商標マーク®の記載はすべて省略しています。