酸素療法の目的は? どういう患者が適応なの?

『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「酸素療法の目的・適応」に関するQ&Aです。

 

露木菜緒
一般社団法人Critical Care Research Institute(CCRI)

 

酸素療法の目的は? どういう患者が適応なの?

 

酸素療法の目的は、低酸素血症の改善です。適応は、PaOが60Torr未満・SaOが90%未満などのときや、循環不全・敗血症など組織代謝亢進したときです。

 

〈目次〉

 

酸素療法の目的・適応

酸素療法は、低酸素血症の治療および予防を目的に動脈血酸素運搬能を高め、組織の低酸素状態を改善させるために行う(1)

 

酸素は、肺で血液中に取り込まれ、ヘモグロビンに結合し、全身に送られてエネルギーであるATP(アデノシン三リン酸)を産生する。そのため、その過程で異常があれば酸素療法の適応となる。

 

したがって、酸素療法は、呼吸不全だけでなく、貧血心筋梗塞などの循環不全や外傷、敗血症など組織代謝が亢進した状態でも適応となる(表1)

 

表1酸素療法の適応

 

  1. 室内気にてPaO<60Torr、SaO<90%
  2. 低酸素血症が疑われる状態
  3. 重症外傷
  4. 急性心筋梗塞
  5. 短期間の治療(例えば麻酔からの回復)

Kallstrom TJ. AARC Clinical Practice Guideline: Oxygen thrapy for adults in the acute care facility-2002 revision & update. Respir Care 2002; 47: 717-720.

 

 

酸素療法の目標設定

酸素療法は、目標値の設定が重要である(表2)。

 

表2酸素療法の目標設定

 

  1. PaO>60Torr
  2. SaO>90%
  3. PaCO:40Torr(Ⅰ型呼吸不全)
         通常PaCO値(Ⅱ型呼吸不全)
  4. 敗血症の場合は乳酸値の正常化を目標とする

 

酸素療法の目標値は、病態によって異なるが、「PaOが60Torrを超えること」「SaOが90%を超えること」の2点が基本となる。

 

1Ⅰ型呼吸不全の場合

呼吸不全(室内気吸入時のPaOが60Torr未満となる呼吸状態)のうち、PaCO4が45Torr未満をⅠ型呼吸不全という。

 

Ⅰ型呼吸不全では、COナルコーシスのリスクが少ないため、酸素化だけを目標にすればよい。なぜなら、Ⅰ型呼吸不全は、FIOと肺実質の障害に左右されるためである。

 

肺実質障害はすぐに改善できないため、FIOを上げることで対応する。

 

2Ⅱ型呼吸不全の場合

呼吸不全(室内気吸入時のPaOが60Torr未満となる呼吸状態)のうち、PaCOが45Torr以上をⅡ型呼吸不全という。

 

Ⅱ型呼吸不全の場合は、COナルコーシスのリスクがあるため、PaCO目標も必要となる。なぜなら、Ⅱ型呼吸不全はもともと換気障害があり、もとのPaCO値をめざす必要があるためである。

 

人工呼吸管理においても、PaCO2は正常値にもっていかないほうがいい。

 

3組織代謝が亢進している場合

敗血症では、乳酸値の正常化を目標とする。

 

敗血症では組織の酸素需要が増進しており、PaOが100Torrあっても足りないこともあり、低酸素症となると、組織では嫌気性代謝が行われ、乳酸が産生されてしまうためである。

 

COLUMN低酸素血症と低酸素症って?

低酸素血症(hypoxemia)とは、動脈血酸素分圧の低下、つまり、動脈血中の酸素含量が減少している状態のことである。低酸素血症の原因は、①肺胞低換気、②換気血流比不均等分布、③拡散障害、④シャントである。

 

一方、低酸素症(hypoxia、組織低酸素)は、生体の組織に十分酸素が供給できず、組織代謝が不十分な状態のことを指す。

 

低酸素症の主な原因は、①低酸素血症、②組織低灌流、③組織酸素利用能の低下、④酸素需要バランスの失調である。

 

つまり、酸素供給量が正常でも、組織への酸素運搬能力が低下している場合や、組織での酸素需要が亢進している場合は、酸素供給が不十分となり、低酸素症となる。

 

【低酸素症の主な原因】

 

低酸素血症:動脈血中の酸素含量が減少している状態。気道狭窄や肺の病変による低酸素や、貧血などによる血液の酸素運搬能力の低下が原因

 

組織低灌流:血流量低下により酸素が組織へ十分に運搬されない状態。血管病変やショック、心不全などが原因

 

組織酸素利用能の低下:細胞の障害により組織が供給された酸素を利用できない状態。硫化水素やシアン化合物による中毒などが原因

 

酸素需給バランスの失調:組織の酸素消費量の増加により、供給された酸素だけでは足りない状態。敗血症や熱射病などが原因

 

(道又元裕)

 

略語

 

  • ATP(adenosine triphosphate):アデノシン三リン酸
  • PaO(arterial O pressure):動脈血酸素分圧
  • SaO(arterial O saturation):動脈血酸素飽和度
  • PaCO(arterial CO pressure):動脈血二酸化炭素分圧
  • FIO(function inspired O concentration):吸入気酸素濃度

[文献]

  • (1)田勢長一郎:酸素療法・酸素療法の適応と中止.丸川征四郎,槇田浩史 編,呼吸管理・専門医にきく最新の臨床,中外医学社,東京,2003:58-60.
  • (2)瀧健治:呼吸管理に活かす呼吸生理 呼吸のメカニズムから人工呼吸器の装着・離脱まで.羊土社,東京,2006:95.
  • (3)Kallstrom TJ. AARC Clinical Practice Guideline:Oxygen thrapy for adults in the acute care facility-2002 revision & update. Respir Care 2002; 47: 717-720.
  • (4)宮本顕二:インスピロンQ&A「より安全にお使い頂くために」 Q10.日本メディカルネクスト株式会社.(2014年11月18日閲覧).

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社

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