睡眠障害に関するQ&A

 

『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。

 

今回は「睡眠障害」に関するQ&Aです。

 

岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授

 

睡眠障害の患者からの訴え

  • ・「眠れません」
  • ・「ぐっすり眠った気がしません」
  • ・「夜中に目が覚めます」
  • ・「明け方に目が覚めます」

 

〈睡眠障害に関連する症状〉

睡眠障害に関連する症状

 

〈目次〉

 

睡眠障害って何?

「夜中にたびたび目が覚める」「熟睡できない」「なかなか寝つけない」など、量、質、パターンの変化など、睡眠に関する異常を総称して睡眠障害といいます。「いつも眠くなる」といった症状も含まれますが、多くは「眠れない」ことのほうが問題になります。睡眠障害は、主に患者本人の訴えによる症状です。

 

眠ることはなぜ大切なの?

眠れない状態が続くと、動物は死んでしまいます。したがって、睡眠は、食事や排泄と並んで、人間が生命を維持するために必要な生理機能であると考えられます。睡眠の目的はを休ませることにあり、積極的な生体防御活動ということができます。

 

また、日常生活活動で消費されたエネルギーを補給し、翌日の活動のためのエネルギーを蓄積するなど、健康を保つうえで欠くことのできない行為でもあります。

 

なお、睡眠は意識喪失と似た状態ですが、覚醒できる能力が常にあるという点が異なります。

 

眠りをコントロールしているのはどこ?

夜になると眠くなり、朝になると目覚めるというように、睡眠と覚醒は一定のリズムに従って行われています。これをコントロールしているのは、視床下部の視交叉上(しこうさじょうかく)にある体内時計です(図1)。

 

この体内時計は、25時間を1日とする周期(概日リズム:サーカディアンリズム)をもっています。25時間ですから、地球の自転の周期である24時間との間に、毎日1時間のずれが生じています。しかし、このずれは、日光を浴びることで調整できるようになっています。

 

図1地球のリズムと概日リズム

 

日光は眠りにどんな影響を与えるの?

朝になると光が差し、夜になると暗くなります。つまり、睡眠と覚醒のリズムには、「光」が大きく影響しています。光の刺激は、視神経から視交叉上核の神経細胞に伝えられます(図2)。これが、朝に目覚め、夜は眠るというリズムを作り出していると考えられています。

 

図2「光」の刺激

 

また、第3脳室の後ろにある松果体(しょうかたい)も光の影響を受け、睡眠と覚醒のリズムに関係しています。松果体から分泌される、メラトニンというホルモンは、分泌が亢進すると眠気を引き起こすことが知られており、メラトニンの合成は光によって低下します。そのため、夜暗くなるとメラトニンが増加して眠くなり、朝がきて明るくなるとメラトニンが減少して目が覚めると考えられています。

 

このように光はサーカディアンリズムの調節に重要な役割を果たしていますが、明暗の周期がない環境下もサーカディアンリズムがみられることから、視交伹上核の神経細胞そのものもリズムを刻んでいると考えられています。

 

ほかにはどんな要素が睡眠に関係しているの?

深部体温も、睡眠に大きく関係しています。図3は、深部体温と眠気の関連を示しています。これでおわかりのように、眠気が起きるときに深部体温は下がります。

 

よく、眠くなる前に赤ちゃんの手が温かくなりますが、これは末梢の血流が増加して脳や深部への血流が減少し、深部体温が下がっている状態です。

 

お風呂で温まると眠くなるのも、同じ原理です。末梢循環がよくなれば、脳や深部に行く血流が減少するため、深部体温が下がって眠くなるのです。

 

図3体温と眠気の関係

体温と眠気の関係

 

睡眠障害にはどんな種類があるの?

ひと口に睡眠障害といってもさまざまであり、寝つけなかったり、すぐに目が覚めてしまう不眠症、日中の強い眠気が問題となる過眠症、覚醒と睡眠のリズムが乱れる概日リズム睡眠・覚醒障害、睡眠時の異常現象がみられるものに分類されます。

 

不眠についてはさらに以下の4つに分けられます。

 

①入眠障害

寝つきが悪く、睡眠に入れない。目安としては、寝つけない状態が2時間以上続くとき。

②中途覚醒

夜中に目が覚めてしまう。1度覚醒すると、なかなか眠れない。

③早朝覚醒

朝早く目が覚めてしまう。高齢者に多い。

④熟睡障害

睡眠時間は取れているが熟睡できず、眠った気がしない。睡眠が浅い。

 

睡眠障害の原因としては、どんなことが考えられるの?

熱や、かゆみなど、病気やそれに伴う症状が刺激になり、睡眠を妨げることがあります。心疾患や肺疾患からくる息苦しさや、頻尿で夜中に何回もトイレに起きることも、睡眠障害の原因になります。むずむず脚症候群(「むずむず脚(レストレスレッグ)症候群(下肢静止不能症候群)」参照)や睡眠時無呼吸症候群は入眠を妨げたり、睡眠の質を低下させます。

 

用語解説 むずむず脚(レストレスレッグ)症候群(下肢静止不能症候群)

むずむず脚症候群とは、下肢(脚)を中心にむずむずする、痛い、かゆい、皮膚に虫がはうような感じがするなどの不快な感覚が生じ、下肢を動かさずにはいられない衝動を伴う病気をいいます。症状は、夕方から夜間の安静時に生じることが多いため、就寝時に症状が悪化して入眠障害を起こすことがあります。また、睡眠中に下肢を中心に頻繁に無意識に足首を背屈させたり、膝を曲げるといった四肢の運動を伴うことが多く、睡眠の質を低下させる可能性もあります。

 

むずむず脚症候群を引き起こす疾患としては、鉄欠乏性貧血が代表的で、その他にパーキンソン病などの神経疾患、関節リウマチなどのリウマチ性疾患、糖尿病甲状腺機能異常のなどの内分泌疾患、腎不全、慢性肝疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)でも発症することがあります。高齢者のなかには、これらの疾患をもっている人も多いので、むずむず脚症候群が見られたら、既往歴を確認してみましょう。

 

カフェインやアルコールの摂りすぎに注意したり、適度な運動習慣を心がける、不規則な睡眠習慣、過労、ストレスを避けることで症状が改善することが知られています。症状が強いときは、軽度の歩行運動、シャワーを浴びる、下肢をマッサージするなども有効です。症状が緩和しないときは、原因疾患の治療や薬物療法の検討が必要になるため受診を勧めることも必要になります。

 

また、枕の高さが合わない、ふとんの中が暑すぎる・寒すぎるといった寝床内環境や、うるさい、暑い、湿度が高い、照明が明るいなどの寝室環境や、精神的ストレスも睡眠を妨げます。

 

さらに、不規則な生活のようにサーカディアンリズムを乱すものがあるときも、睡眠障害の原因になります。時差ボケもその1つです。

 

このほか、カフェインが含まれるコーヒーや緑茶の飲み過ぎや、カフェインやその誘導体が含まれる薬物も、睡眠障害を起こします。

 

睡眠障害はどうやってアセスメントするの?

患者が「眠れない」と訴えたときには、前記の①~④のうち、どのタイプの睡眠障害かをアセスメントします。日中の生活についても聴取して、サーカディアンリズムを乱すような生活を送っていないか確認しましょう。

 

また、いつから睡眠障害が発生したか、現在までどのような経過をたどっているかを聞き、何が睡眠障害の原因になっているのかを推測します。高齢者で利尿薬を服用している場合は夜間のトイレが睡眠を妨げていないか確認します。

 

睡眠中の様子についても確認し、むずむず脚症候群や睡眠時無呼吸症候群など、睡眠を障害するような状況がないかチェックしましょう。

 

睡眠障害のケアは?

睡眠を妨げる原因が明らかな場合は、それを取り除きます。熱や咳、痛みが原因であれば、これらの症状を和らげるようなケアを行います。かゆみに対しては、保湿に努め、必要に応じてクリームなどを塗布します。

 

寝る前に利尿薬を服用しているために夜間のトイレ回数が多くなっている場合は、薬を飲む時間を調整します。なお、高齢者の場合、夜中にトイレに起きなくてもいいように水分の摂取を控えると脱水(「脱水」参照)をまねくこともあるので、注意ましょう。

 

また、昼間、意識的に日光に当たることも効果的です。生活リズムが乱れているときは、日光に当たることでリズムの狂いを戻すことができます。

 

「寝つけない」という訴えに対しては、ぬるめのお風呂に入る、もしくは布団の上で軽く運動をするといったことをアドバイスするといいでしょう。末梢循環がよくなり、深部体温が下がるので、眠気を催すことにつながります。眠りに効果的といわれるトリプトファンを多く含む牛乳を飲むことも効果があると報告されています。

 

寝床内環境、寝室の環境を整えることも大切です。適切な温湿度と静かな環境に配慮するとともに、枕や布団、パジャマなどの寝具回りにも気を配ります。寝具の素材や寝室のダニやカビに対するアレルギーが、かゆみや咳を引き起こしていないかもチェックしましょう。

 

睡眠障害を訴える高齢者に対しては、生活パターンをメリハリのあるものに整えることも大事です。決まった時間に食事を摂り、適度に活動する時間を設けるようにします。また、寝る前に、磨きをして寝具に着替えるなどのパターン化した行動をすると、眠気を誘うこともあります。これを「就眠儀式」といいます。

 

これらの工夫をしても、「眠れない」と訴える場合は、医師に睡眠薬の処方を依頼することも検討してみましょう。その際にも睡眠障害のアセスメントについて情報を提供することが患者にあった睡眠薬の選択に役立ちます。

 

COLUMN 足浴は睡眠障害に有効か

「深部体温が低下するときに眠気が起こる」ことから、足浴も入浴と同じように、末梢循環を改善して深部体温を下降させ、入眠を促すと考えられます。高齢者に夕方、足浴を実施し、中途覚醒が減少したという報告もあります。

 

さらに足浴には、簡便で、入浴ができないような人に対しても行えるというメリットがあります。睡眠障害の患者がいたら試してみてはどうでしょうか。

 

※編集部注※

当記事は、2017年4月23日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック 第2版』 (監修)岡田忍/2024年7月刊行/ サイオ出版

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