白血球数(WBC)の読み方|「細菌感染症の有無・重症度、 敗血症の有無」を読む検査
『エキスパートナース』2015年10月号より転載。
白血球数(WBC)の読み方について解説します。
新井慎平
信州大学医学部附属病院臨床検査部
白血球数(white blood cellcounts、WBC)の基準範囲
- 3.3-8.6×103/μL
上昇↑、低下↓に注意(年齢・性差も考慮する)
白血球数はどんなときに見る?
- 細菌感染症が疑われるとき
- 細菌感染症の重症度を判断したいとき
- 敗血症が疑われるとき
〈目次〉
白血球数とは、白血球数の読み方
血液疾患だけでなく、さまざまな病態を反映する検査
白血球は、外部からの病原体や花粉などのアレルギー物質から私たちの身体を守り、体内で生じるさまざまな炎症に対して免疫反応を示す血液細胞です。
白血球の種類には、体内に侵入した細菌に対して貪食・殺菌作用をもつ好中球、ウイルスに対して抗体を産生して攻撃するリンパ球、異物や体内の細胞を貪食する単球、アレルギー反応や寄生虫感染で増加する好酸球、蕁麻疹や慢性骨髄性白血病などで増加する好塩基球があります。
白血球の数(白血球数)を把握することが大切なのは、白血病をはじめとする血液疾患だけに限りません。細菌感染症をはじめ、悪性腫瘍、膠原病、消化器疾患、内分泌疾患、薬剤性反応などさまざまな病態・疾患を診断するうえで、重大な情報を与えてくれます。
細菌感染症では「好中球」に注目する
白血球数の基準範囲は年齢差や性差もありますが、おおよそ3.3-8.6×103/μLです。
白血球数の増減を認めたときは、どの種類の白血球が増減しているのかを確認することが大切です。表1に白血球数が増減する代表的な病態・疾患を示します。
増減している白血球の種類によって考えられる疾患が変わってきますが、血液中の白血球の半数以上は好中球で占められているため、多くの場合、白血球数の増減は好中球数の増減に一致します。
今回は細菌感染症を例に、白血球(好中球)数の増減について話を進めます。
(手順1)白血球数の増加・減少の経緯を追って見る
1白血球数が「すぐ増加」ならば、感染源となる細菌量は少ない
一般的に、細菌感染症では白血球数が増加することはよく知られていますが、細菌感染症の初期や重症例では白血球数は逆に減少します。
図1に白血球の体内分布を示します。
まず細菌感染症が生じると、血液中の白血球は感染巣に移動して細菌を貪食・殺菌します(消費、図1-①)。つまり、このとき(細菌感染症の初期)には血液中の白血球数は減少します。
1~2時間後、減った白血球を補う形で臓器(肺、肝臓、脾臓など)に蓄えられている白血球が血液中に補充されます(供給、図1-②)。対処すべき細菌量が少なく、供給が消費を上回る場合は、白血球数は増加します。
一方、対処すべき細菌量が多く消費が供給を上回る場合には、白血球数は増加しません。
2「なかなか増加しない」「減少のまま」では、状態はより深刻
さらに12~24時間後には、より大きな供給が骨髄から始まります(図1-③)。臓器からの供給と同じ考え方で、供給が消費を上回る場合には白血球数は増加しますが、消費が上回る場合(重症細菌感染症)には白血球数は増加せず、減少したままです。
細菌感染症が軽快してくれば、白血球の消費も止まり、白血球数は増えてきます。さらに、骨髄からの供給も止まれば白血球数の増加も止まり、白血球数は基準範囲内の数値に戻ります。
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このように血液中の白血球数は、「消費」と「供給」のバランスで決まってきます。検査値を見て病態を把握するうえで重要なことは、ふだんの数値や前回値からの変化です。
一時点での検査値が基準範囲より高い・低いというワンパターンな見方をするのではなく、白血球数の動きの経過を追って、病態を把握します。
(手順2)変動したのが「どの白血球か」を見る(左方移動の有無)
血液像検査で「左方移動」がないかを見る
白血球数が基準範囲を超えた場合や前回値から大きく変動した場合は、どの種類の白血球が増減しているかを確認します。
白血球の割合を調べるのに利用される検査に血液像検査があり、特に細菌感染症における好中球の割合を確認することは大切です。血液像検査では好中球は分葉核球(SEG)と呼ばれる成熟した細胞と、桿状核球(BND)や後骨髄球(MM)、骨髄球(MY)と呼ばれる幼若な細胞に分類されます。
「手順1」で説明してきた白血球数の変動と同様に、細菌感染症の初期にはSEG(成熟した細胞)の割合は下がり(図2-①②)、臓器や骨髄からの供給が始まれば割合は高くなります(図2-③)。体内のSEGのストックがなくなってしまうと、成熟しきれていないBNDの割合が増えてきます(図2-④⑤)。
BNDなどの幼若な好中球が15%以上に増加する現象は左方移動と呼ばれ、体内での好中球の消費が強く、骨髄からの供給が盛んであることを表します。
血液像検査(MY、MM、BND、SEGの数値の確認)で左方移動の有無を判定することは、細菌感染症を判断するうえでとても有効です。
(手順3)細菌感染症時に変動する、その他の検査値を見る
CRP、PCTの変化を見る
その他に、生化学検査項目であるC反応性タンパク(CRP)やプロカルシトニン(PCT)も細菌感染症の診療でよく用いられます(表2)。
ただし、これらの項目は上昇してくるまでのタイムラグがあることや、細菌感染症に限らずさまざまな炎症で上昇してしまうことに注意が必要です。
いずれも単項目のみで判断することは難しいので、白血球数の変動や左方移動の有無も含めて総合的に判断する必要があります。
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細菌感染症を例に白血球数の減少について説明しましたが、白血球数の検査値だけを見て「白血球数の減少=細菌感染症」や「白血球数の減少=炎症の改善」を言うことはできません。白血球数の検査値だけでは鑑別の候補に挙がる疾患はたくさんあり、さらに白血球数は病態によってリアルタイムに変動します。
1つの検査値や一時点の検査値だけで疾患を決定することは困難ですので、関連する複数の検査データを組み合わせることで1つの病態を把握していきます。
[参考文献]
- (1)岡田定:誰も教えてくれなかった血算の読み方・考え方.医学書院,東京,2011:114-123.
- (2)伊藤喜久:3血液検査F白血球数と白血球分類.河合忠,屋形稔,伊藤喜久,山田俊幸編:異常値の出るメカニズム第6版.医学書院、東京,2013:88-95.
- (3)堀内一樹,菅野光俊,新井慎平:Ⅳ.身体所見をとるように血液生化学検査を読んでみよう![細菌感染症1~3].本田孝行編:ワンランク上の検査値の読み方・考え方─ルーチン検査から病態変化を見抜く─第2版.総合医学社,東京,2014:54-69.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有©2015照林社
P.31~「白血球数」
[出典] 『エキスパートナース』 2015年10月号/ 照林社