ウィーニングが進まないときは、どうすればいいの?|人工呼吸ケア
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「ウィーニングの失敗」に関するQ&Aです。
奥田晃久
東京慈恵会医科大学附属病院臨床工学部
ウィーニングが進まないときは、どうすればいいの?
〈目次〉
SBT成功率はおよそ8割
SBT成功率はおよそ8割である。
SBTに失敗する理由として考えられることを表1に示す。これらを除去および治療しないかぎり、再びSBTを実施しても同じことを繰り返す。
呼吸負荷 | ・呼吸仕事量の増加:不適切な人工呼吸器設定 ・コンプライアンスの低下:VAP(人工呼吸器関連肺炎)、心原性or非心原性の浮腫、肺の線維化、肺出血、びまん性肺浸潤 ・気道、気管支収縮 ・低後負荷の増大 ・SBT施行中:気管チューブ ・抜管後:声門浮腫、気道内分泌物の増加、痰の貯留 |
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心臓負荷 | ・既存の心機能障害 ・心機能障害につながる心仕事量の増加:動的過膨張、代謝要求の増加、敗血症 |
神経筋 | ・呼吸中枢ドライブの低下:代謝性アルカローシス、人工呼吸中の鎮静薬、鎮痛薬 ・換気指令伝達の障害:呼吸器系の神経筋の障害 ・周辺機能障害:神経筋疾患、CIPNM(重症疾患多発神経筋障害) |
神経心理学 | せん妄、不安、うつ病 |
代謝 | 代謝障害、コルチコステロイド、高血糖 |
栄養 | 肥満、低栄養、VIDD(人工呼吸器誘発性横隔膜機能不全) |
貧血 |
SBT失敗時は、SBT前の人工呼吸器設定、または十分に呼吸補助できる設定に変更し、呼吸筋の疲労回復を考慮する。
SBT失敗の要因とその対応
人工呼吸器と患者との非同調は、人工呼吸期間の延長に関連するという報告がある(5)。人工呼吸器の不適切な設定の見なおしや、離脱過程を援助する換気モード(表2)への変更を検討する。
- noninvasive ventilation(NIV):非侵襲的人工呼吸
- pressure support ventilation(PSV):圧支持換気
- continuous positive airway pressure(CPAP):持続気道陽圧
- Automatic Tube Compensation(ATC):自動チューブ補正(ドレーゲル社)
- proportional assist ventilation(PAV):比例補助換気
- Adaptive Support Ventilation(ASV):ハミルトンメディカル社
- knowledge-based expert system(SmartCare):ドレーゲル社
- controlled mechanical ventilator(CMV):調節換気(持続強制換気)
- Neurally Adjusted Ventilatory Assist(NAVA):マッケ社
気管チューブの抵抗による呼吸負荷がある場合は、気管チューブのサイズ変更、または気管切開を考慮する。
人工呼吸器を18~69時間使用しただけで横隔膜に筋萎縮が起こる(6)ことからも、筋力低下予防のため、早期にリハビリテーションを導入する。また、気管挿管されたままの歩行も考慮する。
長期人工呼吸器装着患者は、甲状腺機能低下症がある可能性もある。
重症患者では、タンパク異化が亢進し呼吸筋量・呼吸筋力の低下が起こるため、十分な栄養をサポートする。
精神症状は人工呼吸器離脱に影響することから、音楽療法(7)などが試みられている。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)などの慢性肺疾患や高二酸化炭素血症のある患者に対しては、早期に抜管してすぐにNPPVを導入する方法もある(8)。
略語
- VAP(ventilator-associated pneumonia):人工呼吸器関連肺炎
- CIPNM(clitical illness polyneuromyopathy):重症疾患多発神経筋障害
- VIDD(ventilator-induced diaphragmatic dystruction):人工呼吸器誘発性横隔膜機能不全
- COPD(chronic obstructive pulmonary disease):慢性閉塞性肺疾患
[引用・参考文献]
- (1)Esteban A, Alia I, Tobin MJ, et al. Effect of spontaneous breathing trial duration on outcome of attempts to discontinue mechanical ventilation. Spanish Lung Failure Collaborative Group. Am J Respir Crit Care Med 1999; 159: 512-518.
- (2)日本集中治療医学会ICU機能評価委員会:人工呼吸関連肺炎予防バンドル 2010改訂版.(2014年11月18日閲覧).
- (3)佐野裕子:“ 呼吸の異常”に気づく! 今さら聞けない! 呼吸のフィジカルアセスメント.エキスパートナース2011; 27: 12-31.
- (4)NIH NHLBI ARDS Clinical Network. Mechanical Ventilation Protocol Summary.(2014年11月18日閲覧).
- (5)Thille AW, Rodriguez P, Cabello B, et al. Patientventilator asynchrony during assisted mechanical ventilation. Intensive Care Med 2006; 32: 1515-1522.
- (6)Levine S, Nguyen T, Taylor N, et al. Rapid disuse atrophy of diaphragm fibers in mechanically ventilated humans. N Engl J Med 2008; 358: 1327- 1335.
- (7)Hunter BC, Oliva R, Sahler OS, et al. Music therapy as an adjunctive treatment in the management of stress for patients being weaned from mechanical ventilation. J Music Ther 2010; 47: 198-219.
- (8)Burns KE, Adhikari NK, Keenan SP, et al. Noninvasive positive pressure ventilation as a weaning strategy for intubated adults with respiratory failure. Cochrane Database Syst Rev 2010;8: CD004127.
- (9)Boles JM, Bion J, Connors A, et al. Weaning from mechanical ventilation. Eur Respir J 2007; 29: 1033- 1056.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社