嗄声(させい)に関するQ&A
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『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。
今回は「嗄声(させい)」に関するQ&Aです。
岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授
患者からの訴え
- ・声がかすれます
〈嗄声に関連する症状〉
〈目次〉
- 1.嗄声って何ですか?
- 2.声が出る仕組みはどうなっているの?
- 3.声帯が完全に閉じるために必要な条件は?
- 4.声帯の筋肉を動かす神経は何ですか?
- 5.嗄声が起きる原因は?
- 6.反回神経の障害って何ですか?
- 7.嗄声はどうやってアセスメントするの?
- 8.嗄声はどうやってケアするの?
嗄声って何ですか?
「かれた声」や「かすれ声」というような、声の音色に関する異常を、嗄声(させい)といいます。
声が出る仕組みはどうなっているの?
声は、肺から出る呼気が声帯を振動させることによって生じる音です。声帯は、喉頭(こうとう)にあり、甲状軟骨の内側に位置しています(図1)。
声を出すときには、声帯は細いすき間を残して閉ざされます。ここを呼気が通るときに声帯が振動し、それが喉頭や咽頭(いんとう)で共鳴して音になるのです。草笛が鳴るのと同じ原理です。
声帯の閉じ方が不完全だと声帯がうまく振動せず、声がかすれます。これが嗄声です。
図1発声のメカニズム
声帯が完全に閉じるために必要な条件は?
次の3つの条件が揃うことが大切です。
①声帯の形状に異常がないこと。
②声帯の開閉を行う筋肉が正常に収縮すること。
③②の筋肉を支配する神経に異常がないこと。
声帯の筋肉を動かす神経は何ですか?
声帯の動きは複数の筋肉(喉頭筋)によって行われていますが、それらの大部分が、反回神経(下喉頭)によって支配されています。反回神経は、第10脳神経である迷走神経から枝分かれしたものです(「反回神経の障害って何ですか?」参照)。
声帯がきちんと閉じたり開いたりするのは、反回神経を通して声帯に分布する筋肉が収縮するからなのです。したがって、反回神経に異常があると、声帯の開閉が障害されて嗄声が生じます。
嗄声が起きる原因は?
嗄声の原因は、「声帯の器質的異常(声帯の形態が変化する場合)」と「声帯間の異物」、「反回神経の障害」に分類されます(図2)。まず、声帯の器質的異常から説明します。
風邪をひいたときに、声がかすれた経験があると思います。風邪の多くは、ウイルス感染による上気道の炎症です。喉頭が炎症を起こすと、声帯の粘膜にも充血や浮腫が起こり、声帯がぴったりと閉じなくなります。そのため、声がかすれるのです。
過度の喫煙や飲酒で声がかすれるのは、ニコチンなどの有害物質が喉頭粘膜に作用し、声帯の粘膜に慢性的に炎症が起きている状態です。
声帯に腫瘤が形成された場合も、閉鎖が障害されます。代表的な例は、歌手のように声を出す機会が多い人にみられる、声帯ポリープです。大きな声を出して声帯が過度に緊張したり、声帯を振動させている状態が続いたりすると、声帯が炎症を繰り返し、これがポリープの原因になると考えられています。声帯を好発部位とする喉頭癌も、嗄声の原因になります。
「声帯間の異物」は、誤って吸気時に気道に誤嚥された食物などが声帯をふさぐ場合です。
図2嗄声が起きる要因
用語解説 喉頭癌
喉頭に発生する悪性腫瘍。60歳以上の高齢者に発生することが多く、男性の発生頻度は女性の約10倍と、圧倒的に男性に多いがんです。
喫煙や大気汚染、過度の発声や慢性の炎症が原因だと考えられています。ほとんどが扁平上皮癌です。
発生部位により、声帯に発生する声門型、声門上部型、声門下型に分けられ、それぞれリンパ節転移や治療法、予後が異なっています。多いのは声門型で、比較的早くから嗄声が出現します。次いで多いのは声門上型です。症状としては、嗄声よりも、喉の異物感や嚥下痛がみられます。声帯は軟骨で囲まれ、リンパ管が乏しいので、早期に発見できれば放射線照射によって治癒が期待できます。しかし、進行したものでは、喉頭の部分切除や摘出が必要になります。
反回神経の障害って何ですか?
反回神経の最も上位の中枢は大脳皮質で、ここから出た命令は延髄の疑核(ぎかく)を経由して、迷走神経として脳を出ます(図3)。その後、迷走神経は図のように左右の頸動脈に沿って下行し、右側は鎖骨下動脈の位置で分岐して右反回神経に、左側は大動脈弓の高さで分かれて左反回神経になり、大動脈弓を前から後ろに回り込んで気管と食道の間を上行して喉頭へ向かいます。
図3反回神経
このように、脳を出てから反回神経として喉頭筋に至るまでに長い走行路をもつため、その途中に食道癌や肺癌、大動脈瘤などの病変があると、反回神経が障害されることがあります。甲状腺の手術や気管内挿管で反回神経を傷つけてしまうこともあります。
また、延髄の疑核の神経細胞に障害がある場合も、喉頭筋の運動が障害されて嗄声や嚥下困難が生じます。原因としてALS(筋萎縮性側索硬化症)や脳腫瘍、脳血管障害などが考えられます。
COLUMN 食道発声と喉頭人工喉頭
喉頭癌などで喉頭をすべて摘出してしまうと、声を出すことができなくなってしまいます。そのようなときに声を出す代替手段として、食道発声と人工喉頭があります。
食道発声とは、「ゲップ」が出る仕組みを利用して、食道内に取り込んだ空気をうまく逆流させながら、食道入口部の粘膜のヒダを声帯の代わりに振動させて音声を発生する方法です。
人工喉頭は、器具を埋め込んで呼気を利用して発声するものや、声帯の代わりに電気式の音源を顎の下辺りに押し当てて発声するものなどがあります。現在はパソコンなどのチャット機能を利用している人もいます。
嗄声はどうやってアセスメントするの?
まずは、本当に嗄声なのかどうかを確認します。難聴などの聴力障害がある場合、言葉が出にくくなることがあります。嗄声であれば、以下の点を確認し、原因を推測します。
①どのような状況で起きたのか(急性か慢性か)
②声のかすれ方はどうか(重苦しい、出すのがつらそうな声か、ガラガラ声か、金属的な響きはないか)
③嗄声以外の病状はないか(風邪ではのどの痛みや熱、咳があり、異物を飲み込んだ時には呼吸困難がある。食道癌や延髄の障害の場合は、嚥下障害を伴うことがある)
④生活習慣や環境はどうか(喫煙や飲酒の習慣、カラオケなどの趣味、大気汚染にさらされていないか)
⑤職業(歌手や教師など、声を使う職業ではないか)
⑥既往歴(甲状腺疾患などで反回神経を傷つける可能性のある手術を受けたことはないか)これらによって原因を絞り込むことができたら、胸部X線検査、血液検査など必要な検査を行います。
嗄声はどうやってケアするの?
喉頭の炎症が原因のときは、熱いものや刺激物、アルコールやタバコを控えるように指導します。無理をして声を出すと炎症が長引くため、小声で話す、筆談を利用するなど、できるだけ声帯を休めます。炎症を抑える薬剤をネブライザー(「ネブライザー」参照)を用いて投与することもあります。
異物を飲み込んでいるときは、ただちに喀出(かくしゅつ)させます。嗄声は軽くとらえられがちですが、喉頭癌や食道癌が原因で起こることもあります。原因がわからないときには、詳しい検査を受けるように勧めることが必要です。
また、声がうまく出ないと、さまざまな不便がつきまといます。コミュニケーションの仕方を含め、生活上の工夫をアドバイスしましょう。
※編集部注※
当記事は、2016年10月2日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック 第2版』 (監修)岡田忍/2024年7月刊行/ サイオ出版