人工呼吸器の開始基準は?

『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は「人工呼吸器の開始基準」に関するQ&Aです。

 

石井宣大
東京慈恵会医科大学葛飾医療センター臨床工学部技士長

 

人工呼吸器の開始基準は?

 

統一された見解はありません。低酸素血症、呼吸性アシドーシス、理学所見の異常により、人工呼吸器の使用を検討します。

 

〈目次〉

 

人工呼吸器の導入検討時期

  • 組織への酸素供給と二酸化炭素排出が、人工呼吸の大事な目的となる。
  • 酸素化が悪ければ酸素療法、心拍出量の低下が見られれば心不全に対する治療を行い、改善できない場合に人工呼吸器の導入を検討するが、患者や患者家族の意向をふまえて最終的に決定する。
  • NPPV(非侵襲的陽圧換気)などの普及もあり、疾患によっては早期に治療を開始する場合がある。

 

一般的な人工呼吸器の開始基準

一般的な人工呼吸器の開始基準として、以下の3点が挙げられる。

 

  1. 十分な酸素療法下でPaOが60Torr未満
  2. 換気量の低下(急性呼吸性アシドーシス)
  3. 意識レベルの低下、奇異呼吸、呼吸困難

 

表1人工呼吸器開始基準

 

低換気
  • PaCO≧60Torr
    (COPDなど慢性呼吸不全では20Torr以上の上昇)
酸素化能の障害
  • PaO≦60Torr
    (100%酸素10L/分以上の酸素吸入下)
  • SpO≦90%
    (100%酸素10L/分以上の酸素吸入下)
理学的所見などの異常
  • 呼吸回数≧35回/分
  • 呼吸様式の異常(陥没呼吸、翼呼吸、下顎呼吸
  • 高度の呼吸困難
  • 意識レベルの低下

妙中信之:血液ガスから人工呼吸治療へ―人工呼吸が必要になる病態―.クリニカルエンジニアリング2004;15(4):341-347.より引用

 

COPD(慢性閉塞性肺疾患)増悪の呼吸管理

以下の1項目以上が該当すれば、NPPVの適応となる。

 

  1. 呼吸性アシドーシス(動脈血pH≦7.35またはPaCO≧45Torr)
  2. 呼吸補助筋の使用、腹部の奇異呼吸、肋間陥没など、呼吸筋疲労(Column)または呼吸仕事量の増加が示唆される臨床徴候を伴う重度の呼吸困難

 

気管挿管下人工呼吸の適応は、以下が挙げられる。

 

  1. NPPVが受け入れられない、または失敗
  2. 呼吸停止または心停止
  3. 意識低下またはあえぎ呼吸を伴う呼吸停止
  4. 鎮静によるコントロールが不十分
  5. 大量の誤嚥
  6. 気管分泌物を除去できない
  7. 心拍数50回/分未満で、注意力低下を伴う
  8. 循環動態が著しく低下し、補液と血管作動薬に反応しない
  9. 重度の心室性不整脈
  10. NPPVを受け入れられず、生命を脅かす低酸素血症を認める場合

 

COLUMN呼吸筋疲労って?

呼吸筋疲労とは、呼吸筋(主として横隔膜)が、負荷に耐えられない状態のことである。呼吸筋力低下と異なり、休息によって回復しうる。

 

人工呼吸管理中でも、患者の呼吸能力・肺コンプライアンス・気道抵抗と人工呼吸器の換気設定が合致していなければ、呼吸筋疲労が生じる。なかでも呼吸筋疲労は、人工呼吸器の設定変更や抜管後などに生じやすい。

 

呼吸筋疲労の初期には、過換気の状態(呼吸数増加、一回換気量の増加、呼吸パターンの変化)などが見られる。その後、呼吸筋疲労の進行に伴い、異常呼吸パターンが生じる。異常呼吸パターンで代表的なのは、奇異呼吸(吸気時には胸部が過剰に拡張し腹部が陥没。呼気時には胸部が膨隆し腹部が息を絞り出すように収縮する)と交代性呼吸(胸式呼吸と腹式呼吸が互いに休息しながら生じる)である。

 

呼吸筋疲労は、呼吸困難、低酸素血症、全身疲労感、発汗、心拍数上昇などをもたらす。進行すると、チアノーゼや末梢循環障害、不整脈なども生じうることから、注意深い観察・アセスメントが求められる。

奇異呼吸

 

(道又元裕)

 

急性心原性肺水腫の呼吸管理

日本循環器学会のガイドラインでは、急性心原性肺水腫の呼吸管理について「酸素投与で無効な場合(SaO>95%、PaO>80Torrを維持できない)は、NPPVを開始する。NPPV抵抗性、意識障害、痰排出困難な場合は、気管挿管における人工呼吸管理を開始する」(3)としている(表2)。

 

表2急性心不全における呼吸管理(クラスⅠ)

 

  • 酸素投与(SaO>95%、PaO>80Torrを維持):レベルC
  • 酸素投与で無効の場合のNPPV:レベルA
  • NPPV抵抗性、意識障害、喀痰排出困難な場合の気管挿管による人工呼吸管理:レベルC
  • NPPVが実施できない場合の気管挿管による人工呼吸管理:レベルC

 

 

 

日本循環器学会:循環器病の診断と治療に関するガイドライ ン. 急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版).(2014年11月18日閲覧)より引用

 

略語

 

  • NPPV(noninvasive positive pressure ventilation):非侵襲的陽圧換気
  • COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease):慢性閉塞性肺疾患
  • pH(pondus hydrogenii):水素イオン濃度指数
  • PaCO(arterial CO2 pressure):動脈血二酸化炭素分圧

 


[文献]

  • (1)Slutsky AS. Mechanical ventilation. American College of Chest Physicians' Consensus Conference. Chest 1993; 104: 1833-1859.
  • (2)妙中信之:血液ガスから人工呼吸治療へ―人工呼吸が必要になる病態―.クリニカルエンジニアリング2004;15:341-347.
  • (3)日本循環器学会:循環器病の診断と治療に関するガイドライン.急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版).(2014年11月18日閲覧)
  • (4)Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD). Global strategy for the diagnosis, management, and prevention of chronic obstructive pulmonary disease.(updatee2013).(2014年11月18日閲覧)

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社

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