人工呼吸器の目的ってなに?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「人工呼吸器の目的」に関するQ&Aです。
石井宣大
東京慈恵会医科大学葛飾医療センター臨床工学部技士長
人工呼吸器の目的ってなに?
人工呼吸器は、呼吸障害・不全(自発呼吸では酸素を十分に取り込めない、換気が不足する)に対して、呼吸の補助や代行をする機器です。
主な目的は、①肺のガス交換異常の是正、②肺容量の増加、③呼吸仕事量の軽減の3つです。
〈目次〉
- 1.外呼吸と内呼吸
- 2.人工呼吸器を使用する場合
- 3.人工呼吸の目的
外呼吸と内呼吸
・外呼吸:肺にガスを取り込み排出することで肺胞と肺毛細血管でガス交換を行い、酸素を取り込み、二酸化炭素を排出する。
・内呼吸:全身の組織のガス交換を表す。血液に取り込まれた酸素が全身の組織に供給され、二酸化炭素が組織から除去されることをいう。
COLUMN外呼吸と内呼吸って?
酸素や二酸化炭素は、圧が高いほうから低いほうへ流れていく。この圧較差による移動(拡散)によって、肺胞でガス交換が行われる。
外呼吸では、酸素は肺胞から血液へ(肺 胞PO2:100Torr→血液PaO2:40Torr)、二 酸化炭素は血液から肺胞へ(血液PaCO2: 45Torr→肺胞PCO2:40Torr)と移動する。
一方、内呼吸では、酸素は血液から組織の細胞へ(血液PaO2:100Torr→細胞PO2: 40Torr)、二酸化炭素は組織の細胞から血液へ(細胞PCO2:45Torr→血液PaCO2: 40Torr)と移動する。
(道又元裕)
人工呼吸器を使用する場合
- 人工呼吸器は、主に外気と肺のガス交換ができない肺胞低換気や、肺胞と肺毛細血管のガス交換が低下し、血液の酸素化が低下した場合に使用する。
- 人工呼吸を行う間に原因疾患の治療を行い、合併症の発生を抑え、早期に人工呼吸器から離脱することで予後を改善することが、人工呼吸の目標として挙げられる。
人工呼吸の目的
- 人工呼吸の目的を表1に示す。
生理学的な目的 |
|
臨床的な目的 |
|
- 生理的な目的は、①肺のガス交換異常の是正、②肺容量の増加、③呼吸仕事量の軽減である。
- 臨床的な目的としては、低酸素血症の改善、急性呼吸性アシドーシスの改善、呼吸筋疲労の改善など、幅広い適応がある(1)。
1肺のガス交換異常の是正
- 肺胞換気量の低下を改善させることで、肺のガス交換の異常を是正する。
- 外気と肺のガス移動が行えない状態から引き起こる急性呼吸性アシドーシスに対しては、肺胞換気量を増加することで改善する。
2肺容量の増加
- 低酸素血症では、動脈血酸素分圧(PaO2)、動脈血酸素飽和度(SaO2)、動脈血酸素含有量の改善を目的に使用する。組織の酸素化は、酸素含有量だけでなく心拍出量に影響を受けるため、酸素療法や他の治療の効果がない場合に人工呼吸器を選択する。
- 無気肺などの肺内シャントでは、虚脱した肺胞を開放し、肺容量を増加させることで、酸素化が改善する。
3呼吸仕事量の軽減
- 呼吸仕事量は、気道抵抗の増加、呼吸回数の増加などが原因で増加する。
- 呼吸仕事量を部分的に人工呼吸器で代行することで、呼吸筋疲労の軽減や酸素消費量の減少が期待できる。
4その他
- 他に麻酔による鎮静や筋弛緩、心肺蘇生後など自発呼吸がない患者に対する人工呼吸、神経筋疾患に対する人工呼吸などが挙げられる。
- ICP(intracranial pressure):頭蓋内圧
- PaO2(arterial O2 pressure):動脈血酸素分圧
- SaO2(arterial O2 saturation):動脈血酸素飽和度
[文献]
- (1)Slutsky AS. Mechanical ventilation. American College of Chest Physicians' Consensus Conference. Chest 1993; 104: 1833-1859.
- (2)妙中信之:血液ガスから人工呼吸治療へ―人工呼吸が必要になる病態―.クリニカルエンジニアリング2004;15:341-347.
- (3)日本循環器学会:循環器病の診断と治療に関するガイドライン.急性心不全治療ガイドライン(2011年改訂版).(2014年11月18日閲覧)
- (4)Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD). Global strategy for the diagnosis, management, and prevention of chronic obstructive pulmonary disease.(updatee2013).(2014年11月18日閲覧)
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社