チアノーゼに関するQ&A
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『看護のための症状Q&Aガイドブック』より転載。
今回は「チアノーゼ」に関するQ&Aです。
岡田 忍
千葉大学大学院看護学研究科教授
チアノーゼの患者からの訴え
- ・「唇や爪が紫です」
〈チアノーゼに関連する症状〉
〈目次〉
- 1.チアノーゼって何ですか?
- 2.なぜチアノーゼになると紫色になるの?
- 3.ヘモグロビンと酸素の関係は?
- 4.チアノーゼが現れるのはどんな時?
- 5.チアノーゼが現れる場所は?
- 6.チアノーゼの種類は?
- 7.末梢性チアノーゼって?
- 8.中枢性チアノーゼってどんなもの?
- 9.呼吸器疾患によるチアノーゼは?
- 10.心疾患によるチアノーゼって?
- 11.代表的な先天性心疾患は?
- 12.心室中隔欠損ってどんな疾患?
- 13.ファロー四徴症ってどんな疾患?
- 14.チアノーゼの影響は?
- 15.チアノーゼの観察のポイントは?
- 16.チアノーゼの看護のポイントは?
チアノーゼって何ですか?
プールから上がってきたら、口唇が紫色になっていたという経験、どなたもおもちだと思います。このように、皮膚や粘膜が青みがかった紫色になる状態を、チアノーゼといいます。
なぜチアノーゼになると紫色になるの?
肌は、普通ピンクや赤みがかっていますね。皮膚の色は、皮膚の中の色素と皮膚の下を流れる赤血球の量によって決まります。赤みがかって見えるのは、この赤血球中にあるヘモグロビンの色によるものです。
このヘモグロビンは、酸素と結合しやすい性質をもっています。酸素と結合したヘモグロビンの割合が高いと血液は赤く見え、逆に低いと暗く青みがかった色に見えます。
ですから、酸素と結合していないヘモグロビンを多く含む血液が皮膚の下を流れると、皮膚が紫色に見えるのです。
ヘモグロビンと酸素の関係は?
ヘモグロビンは、鉄を含む「ヘム」という物質と、「グロビン」というタンパク質が結合してできていて、ヘムの部分が酸素と結合します。全身の組織に酸素を運ぶという赤血球の働きは、このヘモグロビンによって行われます。
図1を見てください。ヘモグロビンが肺で酸素に触れると、これと結合して酸化ヘモグロビンになります。赤血球が血液に乗って酸素の少ない組織に行くと、ヘモグロビンから酸素が放出されます。この酸素を放出したヘモグロビンのことを、還元型ヘモグロビンといいます。
図1酸化ヘモグロビンと還元型ヘモグロビン
肺で酸素を取り込んだ動脈血が鮮明な赤色をしているのに、体内を回って酸素を放出した静脈血は暗赤色をしているのは、静脈血中では還元型ヘモグロビンが増加し、酸素と結合した酸化ヘモグロビンが減少しているためです。
チアノーゼが現れるのはどんな時?
酸素と結合していない還元型ヘモグロビンの量が、3~5g/dL以上になると、チアノーゼが現れます。
チアノーゼが現れる場所は?
口唇、耳たぶ、爪、指先など、血管が皮膚のすぐ下にあるところです。
COLUMN 一酸化炭素中毒
閉めきった室内でガスや灯油が燃焼すると、酸素が不足して不完全燃焼が起こります。このとき発生するのが、一酸化炭素COです。一酸化炭素が恐ろしいのは、ヘモグロビンと結合する力が酸素の200~300倍もあることです。そのため、一酸化炭素が微量でもあると、ヘモグロビンは酸素ではなく一酸化炭素と結合してしまい、酸素の運搬能力が低下して、酸素欠乏を起こしてしまいます。
神経細胞が酸素欠乏に陥ると、頭痛やめまい、意識障害が出現します。空気中の一酸化炭素濃度が増すとともに症状は強くなり、発現までの時間は短くなります。0.02%では数時間で軽度の頭痛が出現してくる程度ですが、0.16%では2時間、0.32%では30分、1.28%では数分で死亡するとされています。
一酸化炭素には特別なにおいや色、刺激がないので、空気中にあっても気づかず、知らない間に中毒症状を起こす危険があります。
チアノーゼの種類は?
チアノーゼには、静脈血の酸素欠乏による末梢性チアノーゼと、動脈血の酸素欠乏による中枢性チアノーゼがあります。
末梢性チアノーゼって?
わかりやすいケースで説明しましょう。
プールに長くつかっていたときや、冬の寒い日などに手指や足先、口唇が青紫色になることがありますね。寒冷にさらされると、熱の放散をできるだけ少なくするために身体表面の血管が収縮し、血液の循環が悪くなります。その結果として、静脈血が末梢組織に長く留まることになります。
この間にヘモグロビンが酸素を放出してしまい、結果的に還元型ヘモグロビンが増え、チアノーゼが現れます。ただし、これは一時的なもので、循環さえ回復すればすぐに元に戻ります。
中枢性チアノーゼってどんなもの?
大きく分けて、呼吸器疾患によるものと心疾患によるもの、そのほか、異常ヘモグロビンによるチアノーゼがあります。
呼吸器疾患によるチアノーゼは?
肺でのガス交換に問題があると血液中に十分に酸素を取り込めなくなり、チアノーゼが起こります。
高齢者に多い慢性閉塞性肺疾患(COPD)の代表である肺気腫では、肺胞壁が破壊されて肺胞同士が融合し肺胞壁は減少します。肺の内部は弾力性が失われて伸び切った風船のようになります。
その結果、吸った息を完全に吐き出せなくなるために二酸化炭素が溜まり、酸素を取り込みにくくなります。肺胞壁も破壊されるためガス交換ができる肺胞の表面積も減少します。
肺炎や肺水腫では、肺胞腔が滲出物や漏出液で満たされるため、ガス交換が妨げられます。
いずれのケースも、肺でヘモグロビンが十分に酸素と結合できなくなり、動脈血中の酸素が不足してチアノーゼが起きます。
心疾患によるチアノーゼって?
心疾患のなかでチアノーゼが問題になるのは、先天性心疾患や心不全です。先天性心疾患では右房や右室の静脈血が左房や左室の動脈血に混入することが、チアノーゼの原因になります。
また、いろいろな疾患によって心不全になると、心拍出量が低下するために酸化ヘモグロビンを十分に末梢まで供給できなくなり、チアノーゼが起きます。
代表的な先天性心疾患は?
先天性心疾患は、生後すぐにチアノーゼがみられるものと、ある程度成長してからみられるものに分類されます。前者の例としては心室中隔欠損、後者の例としてはファロー四徴症をあげることができます。
心室中隔欠損ってどんな疾患?
心臓は右房、左房、右室、左室の4つの部屋に分かれ、右側は静脈血、左側は動脈血が流れています。
心室中隔欠損では、右室と左室を隔てる心室中隔に孔が開いています。最初は左室の圧が高く、左室の動脈血が右室の静脈血に流れ込むので、チアノーゼは現れません。
しかし、左室から右室に流れ込んだ血液によって肺の血流量が増加して肺の血圧が高くなると、徐々に右室の圧が高まって右室が肥大し、ついに右室の静脈血が欠損孔を通って左室へ流れ込み、大動脈を通って全身へと流れてしまいます。その結果動脈血中の酸素が少なくなり、チアノーゼが起きるというわけです。
ファロー四徴症ってどんな疾患?
ファロー四徴症(図2)は、
①肺動脈弁狭窄(肺に血液を送る肺動脈の入口が生まれつき狭い)
②心室中隔欠損
③右室肥大
④大動脈騎乗(大動脈が右室寄りに存在し、欠損孔を介して右室と左室の両方からの血液を受ける)
の4つの徴候がみられる先天性心疾患で、生まれてすぐに静脈血が動脈血に混じってしまうため、出生時からチアノーゼがみられます。
その理由は肺動脈弁が狭窄していることで、右室に負荷がかかり出生時にはすでに右室肥大があって、右室の圧が高くなっており、右室の静脈血が心室中隔の欠損孔から左室へと流れ込むためです。さらに大動脈騎乗があるため、大動脈に直接右室の静脈血が流れ込むこともチアノーゼを悪化させます。
図2ファロー四徴症
チアノーゼの影響は?
細胞が活動するためには、酸素が必要です。その酸素が届かないとなると、細胞の機能は低下し、その結果として臓器の機能も低下します。
チアノーゼの影響は、急激に起こる場合(急性チアノーゼ)と徐々に起こる場合(慢性チアノーゼ)で異なってきます。脳は酸素不足に最も弱い臓器で、窒息などによる急性チアノーゼの場合は、致命的なダメージを受けてしまいます。
また、慢性中枢性チアノーゼによって酸素不足が続いた場合には、とくに心臓から遠い指先で、結合組織が増加して指先が太鼓のバチのように膨らんでしまう、バチ状指という症状がみられます(図3)。
図3バチ状指
チアノーゼの観察のポイントは?
チアノーゼは最初に口唇や爪に現われるので、その程度を観察します。黒っぽい紫色をしていたら重症です。
急激に出現する場合やチアノーゼの症状が強いときは、バイタルサイン、意識レベルを確認します。子どもや高齢者では、前後の状況から窒息の可能性を考え、誤って飲み込んだ物が気管に詰まっていないかを確認しましょう。
末梢性チアノーゼか中枢性チアノーゼかを見極めることも大切です。
また、他の症状もチェックします。発熱、咳、喀血(かっけつ)を伴って呼吸困難を起こしているときは、肺炎などの炎症性疾患を疑います。「ゼーゼー」と喘鳴を伴うときは、気管支喘息など、気道の狭窄を起こす疾患が考えられます。
パルスオキシメータ(「用語解説 パルスオキシメーター」参照)を用いると、採血することなく、血液中の酸素と結びついたヘモグロビンの割合を連続的に測定でき、酸素不足の程度が客観的にわかります。
チアノーゼの看護のポイントは?
末梢性のチアノーゼの場合は、全身を保温し、軽いマッサージを中枢に向かって行い、血液循環の改善を図ります。急激で重篤なチアノーゼでは、呼吸、循環を確保することが重要で、すぐに医師に連絡し、酸素吸入など必要な処置の準備をします。
心身の安静を保ち、酸素消費量を減らすことも重要です。酸素吸入を行うときは、患者の不安を軽減するように努めましょう。
なお、COPDの患者に高濃度の酸素をむやみに吸入すると、肺胞に二酸化炭素が溜まる障害(「用語解説 CO2ナルコーシス」参照)を起こす危険があるので、注意が必要です。
用語解説 パルスオキシメータ
酸素と結合した酸化ヘモグロビンは、酸素と結合していない還元型ヘモグロビンに比べ、赤い光を吸収しません。パルスオキシメータ(図4)は、この原理を利用して酸化ヘモグロビンの割合(これを動脈血酸素飽和度:SpO2といいます)を測定する装置です。
図4パルスオキシメーター
動脈血中の酸素の量を正確に知るためには、直接動脈血を採取して、酸素分圧を測定することが必要です。しかし、酸素飽和度と動脈血の酸素分圧の間には図5のような関係があるため、酸素飽和度を動脈血の酸素量の指標にすることができます。
図5酸素飽和度と動脈血の酸素分圧の関係
酸素飽和度は、健康な人では95%以上を示します。これに満たない場合は呼吸不全が疑われます。酸素飽和度が90%を下まわると、酸素療法の適用になります。
センサーと測定部が一体化したコンパクトでパルスオキシメータも市販されており、在宅でも簡単に酸素飽和度を測定できるようになっています。
コロナ禍では自宅療養者が呼吸状態の悪化に気づけるよう、自治体から貸し出しも行われました。
※編集部注※
当記事は、2016年8月28日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のための 症状Q&Aガイドブック 第2版』 (監修)岡田忍/2024年7月刊行/ サイオ出版