気道にはどんな働きがあるの?|呼吸器に関するQ&A(4)
『からだの正常・異常ガイドブック』より転載。
今回は「呼吸」に関するQ&Aです。
山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長
[前回]
〈目次〉
気道にはどんな働きがあるの?
空気が肺まで達する経路は、鼻腔から喉頭までの上気道(じょうきどう)と、気管から気管支までの下気道(かきどう)に分けられます。
上気道の役割は、入ってきた空気を加湿、加温し、微細な塵埃(じんあい)を除去することです。低温の空気が入ってくると、鼻腔粘膜の血液から熱が放出されて加温されます。乾燥した空気が入ってくると、同様に鼻腔粘膜の血液から水分が蒸発し、加湿されます。微細なゴミを取り除くのは、鼻粘膜、鼻毛、咽頭のリンパ組織の輪(ワルダイエル咽頭輪<いんとうりん>)、喉頭の咳反射などです。
下気道の役割は、線毛運動(せんもううんどう)による異物の捕捉(ほそく)と喀出(かくしゅつ)です。気道の内側は多列線毛上皮でできています。この細胞がもっている線毛は、40μm以下の微粒子を捕捉し、線毛運動によって上部へと押し出します。これらの微粒子は、同じところに存在する 杯細胞(さかづきさいぼう)から分泌された粘液と混ざり合い、痰として喀出されます。
MEMOワルダイエルの咽頭輪(いんとうりん)
咽頭を取り巻くように位置しているリンパ組織のことで、小児で発達しています。咽頭扁桃、口蓋扁桃、舌扁桃などがあり、微生物の侵入を阻止する役割を担っています。
MEMO線毛運動
線毛を多くもつ細胞が、異物や塵埃(じんあい)を排除するために線毛を咽頭に向けて波打たせる運動を、線毛運動といいます。線毛運動によって1分間に3~10mmの距離を移動させることができます。
上気道で空気を加湿するのはなぜ?
鼻粘膜は1日に約100mLの粘液を分泌しています。
外気が乾燥しすぎていると、鼻粘膜による加湿だけでは間に合わず、空気は乾燥したまま下気道に入ってきてしまいます。その結果、異物や塵埃を排除するために必要な線毛運動が抑制されるほか、粘液の粘稠度も増して粘液が鼻腔に溜まってしまい、気道の清浄化が妨げられます。
冬の乾燥した時期に鼻水が出やすくなるのは、上記のような障害を防ぐための生体の防御反応の1つです。
上気道での空気の加湿不足は、無気肺(むきはい)、細菌感染、肺コンプライアンスの低下などを引き起こす原因になりますので、必要に応じて気道を加湿する吸入療法を行います。
MEMO無気肺
気管支や肺が狭窄したり圧迫されたりして、肺胞の中の空気がなくなる病態の総称。
MEMO肺コンプライアンス
肺コンプライアンスは、肺の弾力性のことです。正常の肺は非常に弾力性があり、1cmH2O(0.735mmHg)の押し広げる力が加わると200mL拡張します。拘束性障害では肺コンプライアンスが低下し、ガス交換に大きな支障が生じます。
MEMO吸入療法
気管支に適度な湿気を与えるとともに、喀痰溶解薬や気管支拡張薬などを患部に噴霧する目的で行われます。吸入療法により、気道内を98~99%湿度に保つことができます。
咳や痰はなぜ出るの?
ほとんどの呼吸器疾患で咳(せき)と痰(たん)がみられます。
咳とは、神経反射によって胸腔(きょうくう)の内圧が高くなり、一気に呼気動作が起きる現象です。声門を閉じた状態で胸腔の内圧を高め、声門を急に開いて高速で呼気を吐き出します。このような咳反射により、気道内に溜まった分泌物の排出を促しています。また、誤嚥した食物や唾液を排出することで、気管支や肺を守っています。
痰は気道粘膜の上皮細胞(じょうひさいぼう)から分泌された粘液に、空気中の微粒子や、炎症が起きている部位から脱落した粘膜上皮、白血球などが混ざったものです。炎症が起きて気道内の粘液の分泌が増加すると、痰として意識されます。
MEMO痰の色
気道の粘液分泌が多くなると、白色で泡状の痰が出ます。気道の感染、とくに多い緑膿菌(りょくのうきん)や連鎖球菌による感染では、細菌の分泌物、細菌 ・ 白血球などが混ざるために、黄白色になります。
COLUMN咳が出る経路
咽頭がむずがゆくなると、どんな経路をたどって咳が出るのでしょう。咳の神経反射を誘発する受容体は、主に咽頭、気管、気管支に分布しています。これらの部分が何らかの刺激を受けると、主に求心性迷走神経を介し、延髄の咳中枢に情報が伝わります。咳中枢からの刺激は、遠心性迷走神経を介し、横隔膜や肋間筋などの呼吸筋に伝達され、呼吸筋が一気に弛緩すると空気が押し出されて咳になります。
咳が出るとき、気道の断面積は通常の1/3以下になります。狭いところを通過して空気が一気に吐き出されるため、咳の速度は160~220m/秒(通常の呼息は6~7m/秒)にも達します。
※編集部注※
当記事は、2016年4月22日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のためのからだの正常・異常ガイドブック』 (監修)山田幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版