ガス交換ってどんなもの?|ガス交換に関するQ&A(1)

『からだの正常・異常ガイドブック』より転載。

 

[前回]

呼吸音にはどのような意味があるの?|呼吸器に関するQ&A(5)

 

今回は「ガス交換」に関するQ&Aです。

 

山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長

 

〈目次〉

 

なぜヒトには酸素が必要なの?

成人は、1日に約2,400kcalのエネルギーを消費しています。自動車や電車やロケットはどのようにして動くか考えてみましょう。

 

自動車はガソリンを空気中の酸素で燃やし、その燃焼エネルギーで動きます。ロケットもロケット燃料を燃やして動きますが、宇宙では空気がない(酸素がない)ため、燃料と一緒に酸素を積んでいきます。電車は電気で動きますが、この電気をつくるために石炭や天然ガスを燃やしています。

 

身体は電車やロケットと同様に、燃料を燃やしてエネルギーを得ています。この燃やすということは、化学的には酸化するといいます。物質が酸化するときにはエネルギーが出ます。私たちも、呼吸によって得た酸素で食物を酸化し、エネルギーを得ています。

 

ヒトの燃料はガソリンや天然ガスではなく、糖(ブドウ糖)、脂肪およびタンパク質です。これを体内で酸化し、ATP(アデノシン三リン酸)という化学物質をつくり出してエネルギーとしているのです。

 

炭水化物からATPをつくり出す場合、酸素がないと分解がピルビン酸や乳酸までしか進まず、2単位のATPしかできません。しかし、酸素があると分解がさらに二酸化炭素と水まで進み、36単位ものATPをつくり出すことができるようになります。

 

ガス交換ってどんなもの?

ガス交換(酸素と二酸化炭素とのやり取り)が行われるのは、肺(空気との外呼吸)と細胞(毛細血管との内呼吸)の2か所です(「外呼吸と内呼吸って何が違うの?」参照)。

 

肺での外呼吸を例にとってガス交換の仕組みを考えてみましょう。

 

肺胞の周囲には、たくさんの毛細血管が網の目のように張り巡らされています。全身の細胞から肺胞に流れてくる血液(静脈血)には酸素が少なく、生命活動を行った残渣(ざんさ)である二酸化炭素が多く含まれています。

 

毛細血管と肺胞の隙間はわずか0.2~0.25μmと薄く、肺胞にある空気の成分と血液の成分は、ここで入れ替わります。これをガス交換といい、酸素を多量に含んだ血液(動脈血)に生まれ変わります。

 

外呼吸によって二酸化炭素が減り、酸素が増えた血液は、循環器系によって全身の細胞まで行き渡ります。全身の細胞では、細胞膜を通して酸素と二酸化炭素の受け渡しが行われます。そして、生命活動によって再び血液中の酸素が減り、二酸化炭素が増えると肺胞でガス交換が行われるという過程が繰り返されます。

 

このようなガス交換は、いずれも拡散という原理を利用して行われています(図1)。

 

図1気管と肺胞(再掲)

気管、気管支と肺

 

 

MEMO肺動脈と肺静脈

心室からは動脈が出ており、心房へは静脈が戻ります。動脈血は酸素が豊富であり、静脈血には二酸化炭素が多く含まれます。肺循環系においては、右心室から出た静脈血は肺動脈を通って肺(肺胞)へ流入します。肺胞で、静脈血中の二酸化炭素と酸素が交換されると、動脈血として肺静脈から心房に戻ります。肺動脈に流れているのは静脈血、肺静脈に流れているのは動脈血です。

 

ガス分圧って何のこと?

空気中には、窒素78.5%、酸素20.8%、二酸化炭素0.04%、水(水蒸気の形で)0.6%、そのほかの気体(アルゴンなど)0.06%の割合の気体が含まれています。

 

また、この空気は1気圧ですから、それぞれの気体の気圧は、窒素0.785気圧、酸素0.208気圧、二酸化炭素0.0004気圧、水(水蒸気)0.006気圧、そのほかの気体0.0006気圧ということになります。これを、それぞれの気体の分圧(ぶんあつ)といいます。

 

この気体の分圧のことを表したのが、ドルトンの法則です。それぞれの分圧を表示するのに、PN2=0.785、PO2=0.208、PCO2=0.0004 と表示します。すなわち、窒素分圧0.785気圧、酸素分圧0.208気圧、二酸化炭素分圧0.0004気圧ということです。この分圧を水銀柱で表すには、上記の気圧に760を掛けます。

 

空気の分圧

窒素分圧 PN2=0.785×760=596.6mmHg
酸素分圧 PO2=0.208×760=158.08mmHg
二酸化炭素分圧 PCO2=0.0004×760=0.304mmHg

 

どうして身体のなかでガスの交換ができるの?

ガス交換は拡散(かくさん)という物理現象を利用して行われます。

 

拡散というのは、2つの液体や気体の成分濃度が異なる場合、高濃度から低濃度の方向へ物質の移動が起こり、一定の成分濃度になるという物理現象です。

 

体内を循環してきた静脈血には、末梢で酸素を放出し、代わりに取り込んだ二酸化炭素が多く含まれています。この二酸化炭素は、肺毛細血管の内皮細胞(ないひさいぼう)と肺胞細胞という二層の細胞層を通して肺胞側へ出ていきます。また、肺胞のなかにある空気中の酸素も、この二層の細胞層を通り、肺毛細血管側へと移動してきます。

 

この二酸化炭素と酸素の移動の原理は気体の拡散という現象です。拡散は気体の膜(細胞層)透過性の違いや、ヘモグロビンとの結合力の違いなどにより決定されます。肺静脈血、肺胞気、肺動脈血それぞれにおける、酸素と二酸化炭素分圧を表1に示しました。

 

表1酸素分圧と二酸化炭素分圧

酸素分圧と二酸化炭素分圧

 

※編集部注※

当記事は、2016年4月29日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 

[次回]

ガス交換がうまくできないと体はどうなる?|ガス交換に関するQ&A(2)

 

⇒〔解剖生理Q&A記事一覧〕を見る

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のためのからだの正常・異常ガイドブック』 (監修)山田幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版

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