排泄ケアの意義とポイントは?
『根拠から学ぶ基礎看護技術』より転載。
今回は排泄ケアのポイントについて解説します。
江口正信
公立福生病院診療部部長
〈目次〉
排泄ケアの意義とは
排泄の生理的意義
排泄は基本的・生理的欲求です。
排泄物は生体の生命活動の産物であるので、健康状態を知るうえで重要な情報となります。また、排泄機能の障害は生体内部環境の悪化をまねくこともあるので、看護者は、排泄の生理・排泄機序をよく理解したうえで援助する必要があります。
排泄の心理的・社会的意義
排泄はきわめてプライベートな部分であり、したがってプライバシーや自尊心への十分な配慮が必要です。
看護者は、対象の疾患の種類・程度、現在の排泄状態や排泄行動への制限を考えて援助する必要があります。
車いす用トイレに行ったときの援助
- ①手すりの位置と便座の位置を確認し、車いすを配置します。
- ②患者に声かけして、動作ごとに協力してもらうようにしましょう。
- ③患者に手すりにつかまってもらい、立位をとってもらいます。
- ④立位を保持してもらい、下着を降ろします。
- ⑤便座に座ってもらいます。
- ⑥終了したら、ナースコールを押してもらうよう説明しましょう。転倒のリスクや認知機能の低下している患者などの場合、トイレの前で待機し、速やかに対応できるようにしましょう。
ポータブルトイレを使用する場合の援助
大部屋の場合、羞恥心や周囲への影響が大きいためできるだけ、車いす用トイレを選択しましょう。治療上やむをえずポータブルトイレを使用する場合は、プライバシーへの配慮をし、速やかに排泄物を片づけましょう。また、ナースコールを手の届く場所に設置しましょう。
便器・尿器を使用する場合の援助
環境に対する配慮
- カーテンを閉め、プライバシーの保護をしながら羞恥心を軽減させます。
- リネン類の汚染を予防するために、防水シーツなどを使用します。
安楽な体位
- 上半身を30°くらい挙上すると、腹圧がかかりやすくなります。
患者に適した物品の選択
- 床上排泄の場合、患者がどのくらい腰を持ち上げることができるか、さらに患者の体格や排泄量、排泄用具の好み(体脂肪のない人はゴム便器を好むなど)などを考慮しながら、便器を選択します(図1)。
- 冷たい便器をあてると不快となるため、保温した便器を用いましょう。
尿器・便器の当て方(図2)
- 感染予防のためにスタンダード・プリコーション(標準予防策)に基づき、看護師はディポーザブルの手袋を使用します。また、必要に応じて看護師2人で介助します。
- 男性用尿器の場合:陰茎の先端を尿器に入れ、排尿を促します。
- 女性用尿器の場合:尿器の受け口先端を会陰(腟と肛門の間)に密着するように当てます。・膝を立てて腰部を挙上してもらい、便器を挿入します(図3)。
- 肛門部が便器の受け口の中央になるように差し込みます。身体が安定しているかどうかを確認します。
- 便器の中央にトイレットペーパーを敷いておくと、排便の片づけ際にスムーズです。
- 女性の場合は、陰部にトイレットペーパーを当て、恥骨上部を押さえます。
- 自力で腰部を挙上できない場合は、側臥位をとってもらい便器を当てます。
- 便器挿入後は、露出を避けるためバスタオルなど掛け物をかけましょう。
- 排泄時は患者を1人にし、終了したら呼んでもらうようナースコールを手元に置き一度退出します。
排泄後の清潔
- 女性の場合は排泄が終了したら、尿路感染予防のため尿道から肛門に向かって拭きます。
- 排便後は拭き残しがないかを確認し、必要に応じて陰部清拭や陰部洗浄を行い、清潔を保ちます。
- 尿器・便器を外し、ふたをしてカバーをかけます。
- 排泄後は手を洗うという生活習慣を尊重し、手浴やおしぼり、ウェットティッシュなどを用い、患者の手を清潔に保ちます。
- 必要に応じて、換気をして環境を整えます。
排泄後の観察
- 排泄物の量や性状、残尿・便感、排尿時痛、肛門痛などの有無を観察します。また、尿量測定や畜尿、検体採取が必要な場合もあるので確認して片づけます。
オムツ使用時の援助
- ①尿意と便意をキャッチして徐々にトイレでの排泄に向けていきます。
- ②ADLに応じた紙おむつのタイプを選択し、パンツ式、テープ式、尿とりパッドの組み合わせで使用します(図4)。
- ③排泄物の漏れを防ぎ、装着時の安楽を得るために、患者の体型に合ったサイズを選択します。
- ④テープ式オムツの場合、腹部の圧迫を避けるためにまず下側のテープをとめて、上側のテープを留めます。
- ⑤陰部殿部の清潔を保ちます。
・陰部洗浄をする場合、微温湯で洗い流します。ガーゼなどで洗浄することによって皮膚粘膜への刺激が加わり、真皮が剥離し、オムツかぶれが悪化する場合があるので注意が必要です。
・石鹸を使用する場合は、弱酸性のものをよく泡立て、泡でやさしく洗うようにします。また石鹸成分をよく洗い流します。
・洗浄後は、排泄物の皮膚への付着を最小にするため、撥水性皮膚保護クリームなど皮膚や便の回数
・性状に合わせて選択し塗布します。
失禁時の援助
- ①腹圧性尿失禁
・骨盤底筋訓練を進めます(図5)。
・下着に尿とりパッドを当てます。 - ②機能性尿失禁
・排尿チャートをつけて、時間誘導します。 - ③切迫性尿失禁
・薬物療法・排尿チャートをつけて、膀胱訓練を行います。 - ④溢流性尿失禁
・残尿除去(間欠的導尿、持続的導尿)
排泄ケア時の注意事項
看護師の不用意な言葉や態度は、ときに患者の自尊心を傷つけ、その後の患者の排泄行動に影響を及ぼすことがあります。排泄援助を受ける患者の気持ちも考慮して援助しましょう。
尿意や便意の訴えがあった場合、速やかに対応し、確実な技術で援助することが重要です。
夜間から明け方の排泄場面においては、高齢者はとくに転倒・転落事故が起こりやすくなるため注意しましょう。夜間覚醒直後は、歩行バランスが崩れふらつきやすくなるためです。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 根拠から学ぶ基礎看護技術』 (編著)江口正信/2015年3月刊行/ サイオ出版