胃の消化作用|消化吸収

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。

 

[前回の内容]

咀嚼と嚥下|消化吸収

 

今回は、胃の消化作用について解説します。

 

片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授

 

〈目次〉

 

Summary

  • 底腺の主細胞はペプシノーゲンを分泌する。
  • 胃底腺の壁細胞は胃液および内因子(ビタミンB12の吸収)を分泌する。
  • 胃底腺の副細胞は胃液による自己消化を防ぐ粘液を分泌する。

 

胃の消化作用について

胃は蠕動(ぜんどう)運動により食塊を攪拌(かくはん)して、胃液(gastricjuice)と混和させることにより消化する。

 

胃液は、1日に約2L分泌される。胃液に含まれる主成分は、塩酸(hydrogen chloride)とペプシノーゲン(pepsinogen)でタンパク質を消化する。ペプシノーゲンは、不活性前駆体(チモーゲン)(zymogen) の1つで、それ自身にはタンパク質消化作用はない。

 

塩酸の作用でペプシノーゲンがペプシン(pepsin)になって初めて消化作用を示す。胃液に含まれる塩酸は、タンパク質を分解したり、胃の中で異常発酵が起こるのを抑える作用もある。胃酸(gastric acid)は塩酸であるからpH1~2で胃そのものを消化してしまう危険性がある。実際にそれが起こったものが胃潰瘍(gastric ulcer) である。

 

胃は粘液(mucu)を分泌して、自己消化を防衛している。粘液の主成分は、糖鎖を含むムチン(mucin)やプロテオグリカン(proteoglycan)などで網目状の構造を形成し、胃酸の攻撃を防いでいる。胃底腺(fundus glands)の分泌をまとめると表1のようになる。

 

表1胃底腺の分泌物

胃底腺の分泌物

 

胃は、ペプシンや胃酸でタンパク質を消化しているが、吸収についてはアルコールを吸収する程度である。ビタミンB12は回腸遠位部で吸収されるときに胃の壁細胞から分泌される内因子(intrinsic factor)が必要である。ビタミンB12が欠乏すると赤血球の成熟が妨げられる悪性貧血(perinicious anemia)になる。

 

胃酸分泌の促進および抑制因子(図1)

図1胃酸分泌の促進要因と分泌抑制薬

胃酸分泌の促進要因と分泌抑制薬

 

壁細胞の管腔側にあるプロトン(H)ポンプ(H/KATPase)によりHがKとの交換で管腔に分泌、ClがClチャネルを通って管腔に分泌され胃酸(HCl)ができる。プロトンポンプを活性化して胃酸分泌を促進する因子は、ガストリン(gastrin)、ヒスタミン(histamine)およびアセチルコリン(acetylcholine)である。胃酸分泌亢進には、ガストリン産生腫瘍(ゾリンジャー-エリソン症候群)〔Zollinger-Ellison syndrome〕が原因の場合もある。

 

胃酸分泌の抑制因子はプロスタグランジンprostaglandin(PG)である。胃酸分泌の抑制薬としてヒスタミンのH2受容体を阻害するH2ブロッカー(Hblocker)やプロトンポンプを阻害するプロトンポンプ・インヒビター〔proton pump inhibitor〕(PPI)などがある。H2ブロッカーとしてはシメチジン、PPIとしてはオメプラゾール(omeprazole)などがある。

 

消化性潰瘍

消化性潰瘍(peptic ulcer)には、胃潰瘍十二指腸潰瘍(duodenal ulcer)がある。消化性潰瘍の攻撃因子としては、胃酸過多、ペプシンの過剰、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)(ピロリ菌)の感染、非ステロイド系抗炎症薬〔nonsteroidalantiinflammatory drug〕(NSAID)の投与などがある。

 

NSAID(エヌセイドとよぶ)は、アラキドン酸(arachidonic acid)のカスケード反応(cascade reaction)におけるシクロオキシゲナーゼ〔cyclooxygenase〕(COX、コックスとよぶ)を阻害して、胃酸分泌の抑制因子であるPGの産生を減少させ、胃酸分泌を亢進させる(『発熱物質』参照)。NSAIDによる消化性潰瘍をNSAID潰瘍という。

 

NursingEye

ピロリ菌の検査で被験者の苦痛もなく、精度も高い方法が尿素呼気試験(urea breath test)である。被験者に安定同位体の13Cでラベルした尿素を飲んでもらい、これがピロリ菌がもつウレアーゼで分解されると呼気中に13CO2が現れるのでピロリ菌の有無が分かるという検査である。

 

13Cは年代測定などに用いられる14Cと異なり放射線を出さないので安全である。ピロリ菌が認められれば3剤混合の抗生物質による除菌を行う。ピロリ菌は主に幽門部に生息する(pyloriは、ギリシャ語で幽門の意味がある)。

 

ピロリ菌は胃がんとの関連も指摘されている。山形県は日本有数の胃がん多発県で、県立中央病院の医師を中心にピロリ菌の除菌療法が積極的に行われている。

 

[次回]

小腸における消化吸収|消化吸収

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版

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