小腸における消化吸収
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、小腸における消化吸収について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
Summary
〈目次〉
管腔内消化、膜消化、細胞内消化
胃でペプシンおよび胃液と攪拌された液状の消化物が十二指腸に達すると、アルカリ性の膵液(pancreatic juice)が放出され中和される。この膵液の分泌は、消化管ホルモンのセクレチン(secretin)によって促進される。胃から送られてくる酸性の消化物が十二指腸内腔に触れ、pHが4.5以下になるとセクレチンが分泌される。神経万能説が支配的であった20世紀初頭にベイリス(Bayliss)とスターリング(Starling)が神経刺激とは無関係に膵液の分泌を亢進させる物質の存在を証明し、セクレチンと名づけた。
中和された消化物は空腸に進むが、この段階ではまだ中間的消化しか行わない。これを管腔内消化〔lumenal digestion〕(中間消化intermediatedigestion)という。最終的な消化を膜消化〔membrane digestion〕(終末消化terminaldigestion)とよび、これは空腸の栄養吸収細胞の微絨毛(microvillus)の先端にある刷子縁(brush border)の間で行われる。糖質およびタンパク質はこのような2段階の消化が行われる。
糖質およびタンパク質は、管腔内消化でそれぞれオリゴ糖(oligosaccharide)およびオリゴペプチド(oligopeptide)まで分解される(表1)。
oligoは、ギリシャ語で少ないという意味。オリゴ糖およびオリゴペプチドは、それぞれ単糖(グルコース)およびアミノ酸が3~10個程度つながった化合物である。タンパク質はアミノ酸として吸収される他に、ジペプチド(dipeptide)あるいはトリペプチド(tripeptide)の形でも吸収される。
細胞内にアミノペプチターゼ(aminopeptidase)があって、細胞内でジペプチドやトリペプチドをアミノ酸まで分解する。このような消化を細胞内消化(intracellular digestion)という。
脂質は2段階の消化ではなく、リパーゼ(lipase)の作用で中性脂肪が脂肪酸(fatty acid)とグリセロール〔glycerol〕(グリセリンglycerin)に分解されて吸収される。
小腸粘膜の表面積
小腸を長さ6m、直径3cmの滑らかな管と考えると、その内側の表面積は約5,700cm2になる。小腸の内面は、実際には滑らかでなく多数の輪状ヒダ(circular folds)がある(図1)。
この輪状ヒダは〔Kerckring〕(ケルクリング)のヒダ(Kerckring folds)とよばれる。このヒダは栄養吸収の主要な場である空腸に多く、回腸にはほとんど存在しない。1本1本のヒダの上には無数の絨毛villiがある。この絨毛の表面を細かくみると六角柱の形をした栄養吸収細胞で覆われている。
この栄養吸収細胞の表面(管腔側)には微絨毛があり刷子縁という構造を形成している。微絨毛の表面積は、2,000,000cm2にもなり、これは単純な管として計算した表面積の実に300倍以上である。肺胞の表面積も約100m2と広いが、小腸微絨毛の表面積はその2倍も広く、体内で最も広い表面積である。
腸内細菌について
pH1~2という胃の中にも細菌(ピロリ菌)が生息しているくらいであるから、小腸や大腸には膨大な数の腸内細菌が存在する。それを腸内細菌叢(intestinal bacterial flora) という。200m2以上という広大な表面積を有する小腸および大腸には100種類以上、100兆個にも及ぶ細菌が生息している。
このうち大腸内に99%以上の細菌が存在している。大腸内は酸素がない完全に嫌気的な状態なので、そこに生息する細菌は偏性嫌気性菌(obligate anaerobe)である。糖質およびタンパク質の消化が管腔内消化と膜消化と2段階になっているのは、腸内細菌が生息する管腔内では細菌に摂取されないオリゴ糖あるいはオリゴペプチドまでの消化に留めておくためである。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版