血液凝固(2)|血液と生体防御

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。

 

[前回の内容]

血液凝固(1)

 

今回は、血液凝固についての解説の2回目です。

 

片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師

 

Summary

1. 血管が損傷を受けなくても生体内で血栓を生じ血管を閉塞することを血栓症という。
2. 血液凝固抑制剤には、①Ca2+除去剤、②ヘパリン、③クマリン誘導体がある。
3. Ca2+除去剤は生体外における血液凝固抑制剤として用いる(採血などに用いられる)。
4. ヘパリンは、生体内でも生体外でも有効な血液凝固抑制剤である。しかし、肝臓で壊れるので、経口投与しても無効である。
5. クマリン誘導体(ワルファリン)は、ビタミンK代謝に拮抗し、肝臓におけるビタミンK依存性血液凝固因子(第II、VII、IX、X因子)の生合成を抑制する。したがって生体外で使用した場合、血液凝固を抑制しない。また、ワルファリンによって血中に遊離する PIVKA(Protein induced by Vitamin K absence or antagonist)という生物学的に不活性な第II因子(プロトロンビン)が増加することにより抗凝固作用・血栓形成抑制作用を発現する。

 

〈目次〉

 

血液凝固抑制剤(抗凝固剤)

血液凝固を阻止する作用をもつ物質を、血液凝固抑制剤または抗凝固剤という。抗凝固剤には、作用機序から大きく3種類に分類できる。

 

(1)クエン酸ナトリウム、シュウ酸ナトリウム、EDTA(エチレンジアミン四酢酸: ethylenediaminetetraacetic acid )

これらは血液凝固に必須なCa2+を除去することによって凝固を阻止する。Ca2+除去であるので、静脈内投与してはいけない。

 

(2)ヘパリン

生体内では、ヒスタミンと結合して肥満細胞中に存在するムコ多糖類である。ヘパリンはさまざまな段階で凝固因子の働きを抑制することにより、血液凝固を抑制する。ヘパリンは、生体内投与でも生体外投与(採血など)でも凝固阻止作用を発揮するが、肝臓で破壊されるため、経口投与(内服)しても無効である。

 

(3)クマリン誘導体(ワルファリン)

II、VII、IX、X凝固因子が肝臓で合成される際には、ビタミンKを必要とする。クマリン誘導体は構造上ビタミンKと似ているため、肝臓のビタミンK利用に際し、拮抗薬として作用する。

 

このため、この薬を服用すると、これらの凝固因子が合成されず、血液凝固が抑制される。ヘパリンと異なり経口投与できるという利点があるが、ワルファリンの作用発現には投与後8~12時間を要する。また、試験管内では凝固抑制作用をもたないという欠点がある。

 

血液凝固試験

出血時間

耳朶にメスで長さ2mm、深さ3mm の傷をつけた後、30秒ごとに濾紙で血液を吸い上げ、血液斑が直径1mm 以下に縮小するまでの時間(≒止血するまでの時間)を測定する(Duke 法)。1~5分が基準値で、一次止血能(血小板機能)を評価するための検査である。アスピリンなどの血小板機能を阻害する薬剤を使用している場合や、外来患者などで耳が冷えている場合には出血時間が延長する。

 

プロトロンビン時間(prothrombin time:PT)

外因系と共通系凝固機序を総合的に評価するスクリーニング検査である。PTとAPTTと組み合わせ、血液凝固異常のスクリーニングに用いられる。正常血漿のPTは、9~12秒の範囲にある。試薬により結果が異なる。

 

そのため、試薬の互換性を持たせるために International Normalized Ratio(INR)として補正したものがPT-INRで、その基準範囲は1.0±0.1である。ワルファリン使用時のモニターとしてPTを使用する場合、血栓性疾患の予防と治療に推奨されるPT国際標準比(PT-INR)は、2~3である。

 

活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time:APTT)

内因系と共通系凝固機序を総合的に評価するスクリーニング検査である。リン脂質とCa2+を加え、フィブリンが形成されるまでの凝固時間を測定する。正常血漿のAPTTは、30~40秒の範囲にある。なお、生体内では、内因系凝固機序よりも外因系凝固機序の方が止血に重要だと考えられている。

 

NursingEye

ワルファリンとビタミンKを多く含む食物との組み合わせに要注意せよ!

ワルファリン服用中、ビタミンKを多く含む食品(納豆など)の摂取は、ワルファリンの作用を減弱させるので避けるべきである。

 

※編集部注※

当記事は、2016年7月8日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 

[次回]

血液型(1)

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版

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