血液凝固(1)|血液と生体防御

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。

 

[前回の内容]

血小板の働き-血小板凝集

 

今回は、血液凝固についての解説の1回目です。

 

片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師

 

Summary

  • 1. 血漿中に溶けているフィブリノゲンがトロンビンの作用を受けてフィブリンに変わると、線維状のフィブリンが血球を取り囲み、血餅をつくる。これが強固な血栓をつくり傷口をふさぐ(二次血栓)。
  • 2. 血液凝固反応は、傷ついた血小板や組織からトロンボプラスチンの放出、コラーゲン表面に血液凝固因子が結合することによって始まる。
  • 3. 血液凝固因子のほとんどは肝臓で産生される。血液凝固因子(II、VII、IX、X)が肝臓で合成されるには、ビタミンKが必要である。
  • 4. 血液凝固反応の過程にはCa2+が必要である。
  • 5. 血液には、凝固した血液を溶解する線溶系という機構がある。これは、プラスミンというタンパク分解酵素がフィブリンを溶解することによる。

 

〈目次〉

 

はじめに

血管が傷つき出血した場合、傷口が小さければ、血液は間もなくゼリー状に固まり(血餅<けっぺい>)、傷口をふさぐ。この現象を血液凝固という。血液凝固は二次血栓ともよばれ、血小板凝集による剥がれやすい血栓をより強固なものにする。

 

血液凝固機序

血漿中に溶けているフィブリノゲン(線維素原)が、トロンビンの作用を受けてフィブリンに変わると、線維状のフィブリンが血球を取り囲み血餅をつくり、強固な血栓をつくり傷口をふさぐ。

 

血液凝固反応は連鎖的に進む(図1)。

 

図1血液凝固と線維素溶解反応(線溶系)

血液凝固と線維素溶解反応(線溶系)

A 血液凝固反応系。血液凝固は、血小板や傷ついた組織からトロンボプラスチン(TPL)が放出されることにより始まる系(外因系)とコラーゲン表面に凝固因子が結合することにより始まる系(内因系)の2つの系により連鎖的に反応が進む。
TPL:トロンボプラスチン、PL : ホスホリピッド、各凝固因子にaがついているのは、活性化された因子を示す。
B 線溶系。プラスミノーゲンがウロキナーゼやトロンビン、カリクレインなどで活性化されるとプラスミンになる。プラスミンはフィブリンを溶解する。

 

この反応には次の2つの系(内因系と外因系)がある。1つは、血管のコラーゲン表面に凝固因子が結合することにより始まる系(内因系)で、もう1つは、血小板や傷ついた組織からトロンボプラスチンが放出されることにより始まる系(外因系)で、トロンボプラスチンが血漿中の凝固因子やCa2+と作用し、血漿中のプロトロンビンをトロンビンに変える。このトロンビンが、フィブリノゲンをフィブリンに変え、血餅をつくることによって血液凝固は完成する。

 

血餅は、数時間経つと収縮して小さくなる。収縮して血餅の隙間から滲み出てくる黄色の液体が血清である。血清にはフィブリノゲンが含まれないので、もはや凝固しない(「血清と血漿」参照)。

 

血液凝固因子

血液凝固に関係する因子には数十種類あり、そのほとんどは肝臓で産生される血漿タンパク質である。凝固系は、凝固因子の複雑な化学反応によって行われる。II、VII、IX、X凝固因子が肝臓で合成される際には、ビタミンKを必要とする。ビタミンKが不足した場合も凝固能力は低下する。また、凝固過程にはCa2+が必要である。

 

線維素溶解(線溶)

凝固した血液を数日間放置すると、再び液体になる。凝固した血液が液体化すると二度と凝固することはない。この現象を線維素溶解現象(線溶)という。これも生体に備わっている生理機構である(図1)。凝固と線溶は一連の流れである。

 

血栓症と塞栓症

血管が損傷を受けていなくても、何らかの原因により生体内で血栓を生じて血管を閉塞することがある。これを血栓症という。血栓は血液の流れを止めるため、その下流の組織が死んでしまったのが梗塞である。で起これば脳血栓脳梗塞、冠血管で起これば心筋梗塞をもたらす。血栓が剥がれて流れ、血管を詰まらせることがある。これを塞栓という。

 

NursingEye

出血した部位を圧迫すると早く止血するのは、血管切口を圧迫することになり、また凝固がしやすくなるためである。

 

※編集部注※

当記事は、2016年7月3日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 

[次回]

血液凝固(2)

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版

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