血小板の働き-血小板凝集|血液と生体防御
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、血小板の働きについて解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師
Summary
- 1. 血管が傷つき出血した場合、①損傷血管の収縮、②損傷部位への血小板凝集による血栓形成(一次血栓形成)、③血液凝固(二次血栓形成)の3つの機構が働き止血される。
- 2. 血小板の主な働きは、血小板凝集による止血作用である。
- 3. 血管内腔の内皮細胞が剥がれるとコラーゲンが露出する。露出したコラーゲンに血小板が接触すると血小板は活性化され、内容物が放出し、凝集反応が促進する。
〈目次〉
血小板の形態
血小板は直径約3μmの最も小さい血球で、核をもたない。血小板は血液1μL中に約15~35万個あるが、5万/μL以下になると止血障害が起こる。血小板の寿命は7~10日であり、主に脾臓で処理される。血小板は密顆粒(濃染顆粒)、α顆粒、密小管系、開放小管系をもつ(図1)。
図1血小板の構造
(大地陸男:生理学テキスト.第4版、p.240、文光堂、2003より改変)
密顆粒は血小板凝集促進物質(ATP、ADP、Ca2+、セロトニン)を含む。密小管系はCa2+貯蔵庫である。開放小管系は血小板が刺激を受け、活性化されるとCa2+の流入と顆粒内容物放出の通路となる。
血小板の働き-止血作用
血管が傷つき出血した場合、血液は血管の傷口に接触することによって、次の3つの機構が働き、血管損傷部位に血栓が形成され止血される。
①損傷血管の収縮
②損傷部位への血小板凝集による血栓形成(一次血栓形成または血小板血栓形成)
③血液凝固(二次血栓形成または永久血栓形成)
この止血機構は生体防御の重要な機構である。止血機構の最初に働くのが血小板である。
血小板のコラーゲンへの粘着
血管が傷つき、血管内皮細胞が損傷するとコラーゲンが露出する(図2)。
血小板の活性化
血小板はコラーゲンに接触すると活性化され、血小板凝集機構が開始される(図2)。
図2血小板凝集による止血過程
A:健常血管、血管内腔は1層の内皮細胞で覆われている。内皮細胞は血小板の凝集反応や過剰な血管収縮反応を抑制するよう働く。
B:血管損傷等により内皮細胞が剥がれ、コラーゲンが露出した状態。
C:露出したコラーゲン部位に血小板が接触し、活性化が始まる。血小板顆粒内容物の放出、TXA2の産生放出によりますます凝集反応が促進する。血小板のコラーゲン部位への粘着、血小板同士の凝集により血栓が形成される(一次血栓または血小板血栓)。
(1)顆粒内容物の放出
血小板が活性化されると密顆粒内容物(ATP、ADP、Ca2+、セロトニン)が放出される。放出された ATP、ADP、Ca2+やセロトニンは血小板凝集を促進する。またα顆粒に含まれる内容物も血漿中に放出され、これらも血小板凝集を促進する。
(2)トロンボキサンA2の産生
細胞膜を構成するリン脂質にはアラキドン酸という炭素数20個の不飽和脂肪酸がエステル結合している。血小板膜も例外ではなく、血小板膜が活性化され、血小板内のCa2+濃度が高まるとホスホリパーゼA2(phospholipase A2、PLA2)が活性化される。
すると、加水分解酵素である PLA2はリン脂質に結合しているアラキドン酸を放出する(図3)。アラキドン酸にシクロオキシゲナーゼやトロンボキサン合成酵素が働くと、トロンボキサンA2(thromboxane A2、TXA2)が産生され、血小板外に放出される(図3)。
図3アラキドン酸代謝経路
アラキドン酸は膜の構成成分であるリン脂質に結合している。細胞内のCa2+濃度が高まると、PLA2が活性化され、これがアラキドン酸を遊離させる。遊離したアラキドン酸にシクロオキシゲナーゼ(酵素)が作用するとPGG2、PGH2が生成され、これにトロンボキサン合成酵素が働くとTXA2が、PGI2(プロスタサイクリン)合成酵素が働くとPGI2が、PGE2合成酵素が働くとPGE2が生成される。
一方、アラキドン酸にリポキシゲナーゼが作用するとロイコトリエン(LT)が生成される。アラキドン酸代謝産物はさまざまな生理機能、病態生理機能を発揮する。
R:受容体、G:Gタンパク質、PG:プロスタグランジン( prostaglandin )、TXA2:トロンボキサンA2、LT:ロイコトリ エン、PLA2:ホスホリパーゼA2、PLC:ホスホリパーゼC、DG:ジアシルグリセロール、HPETE:ヒドロペルオキシイコサテトラエン酸、PIP2:ホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸
TXA2は、強力な血小板凝集作用を惹起し、また強力な血管収縮作用をもつ。すなわち、TXA2は損傷部位の血栓形成を促進すると同時に、血管平滑筋を収縮させ、止血を促進する。
しかし、血栓による止血は強固なものではなく、剥がれやすい。止血をより強固にするのが、血液凝固反応である。
血小板の粘着
血小板は von Willebrand 因子を介し、血管損傷部位のコラーゲンと結合する。また、血小板同士の粘着が起こる。このようにして血小板血栓を形成し、傷ついた血管をふさぐ。
※編集部注※
当記事は、2016年7月1日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『図解ワンポイント 生理学 第2版』 (著者)片野由美、内田勝雄/2024年7月刊行/ サイオ出版