心房細動(Af)|P波が見つからない心電図(2)
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看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。
[前回の内容]
今回は、心房細動について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
〈目次〉
心房細動とは
図1の心電図をいつもの順序で解読しましょう。
図1心房細動(Af)の心電図
まず全体を見てみましょう。QRS波の出現間隔が不定ですね。P波はあるでしょうか。はっきりしませんね。PP間隔も計測不能です。
では、基線は電位のない状態でフラットかというとそうでもなく、波打ってユラユラしていますね。
QRS波の幅は3コマ以内で、同じ形ですから正常です。RR間隔を見ると、各心拍に1つとして同じ間隔がありません。これが心房細動(atrial fibrillation:Af)という不整脈です。
心房が痙攣して細かく震えている、まさに細動している状態です。活動している心房筋からは電気が発生しますので、心房のあらゆる場所から無秩序に電気信号が発生します。
心房から休みなく電気信号が出るわけですから、基線が直線になることはなく、ユラユラと波のようになり、このユラユラ波のことをf波(fibrillation波)と称します。
f波は、心房細動の発症直後はゆれが大きく、経過が長いと波が小さくなる、V1誘導が心房に近いためはっきり見えるという特徴があります。
心房全体で1分間に600~800回の信号が出ています。洞結節にはこの心房の電位が休みなく入り続け、リセットを繰り返して沈黙しています。また、600~800回/分の信号は、とりあえずすべて房室結節に入り心室に抜けようとしますが、房室結節は不応期が長いので、すべての信号を伝導せずに適当にブロックしながら心室に伝えます。
ヒス束に伝導された信号は、両脚~プルキンエ線維を正常に伝導して心室を興奮させますから、QRS波は幅が狭くいつもと同じ形になります。
ただし、心房の信号は無秩序に発生して、さまざまなタイミングで心室に伝導されますので、RR間隔は不定です。RR間隔が1心拍として同じではないため、心房細動のことを絶対性不整脈ともいいます。
このように心房から高頻度に信号が発生した場合、心室の心拍数は何によって決まるのでしょう。これは、房室結節の伝導能力で決まります。
房室結節が一度信号を伝導した後に、しばらく伝導できない時間を不応期といいますが、この不応期が短ければ、短時間に多くの信号を心室に伝導しますから、心拍数は上がり、逆に不応期が長ければ、伝導間隔が長くなって心拍数は下がります。
交感神経の亢進、アドレナリン、アドレナリン製剤(ドパミンなど)、アトロピン(迷走神経を抑える薬)は、房室結節の不応期を短縮し、心房細動の場合心拍数を上昇させます。一方、迷走神経の亢進、ある種の薬剤(ジギタリス製剤、カルシウム拮抗薬、β遮断薬など)は、房室結節の不応期を延ばし、心拍数は低下します。
では、日本列島新聞でイメージしてみましょう。
心房北海道は暴動が起こって、さまざまな地域から好き勝手に新聞が発行されています。
このすごい数の新聞は、すべて房室接合部青函トンネルを通過しようとしますが、もともと房室結節ゲートオジさんは多すぎる新聞は通過させない(不応期が長い)という性質をもつため、能力の範囲内で適当にブロックしながら、ヒストンネルに通します。
心室本州は、届いた新聞は忠実に配達し、新聞の流れは正常ですが、トンネルからの周期が無秩序なため、本州の情報を受け取るサイクル(RR間隔)も一定ではありません。
この間隔は、なんで決まるかといえば、ゲートオジさんの処理能力です。ハイな体調なら多くの新聞を通過させ、心室本州心拍数は上昇し、ヤル気のないときはブロックすることが多くなり、心拍数も低下します。
しかし、あまり多くの命令を伝えずに適正な頻度の命令を伝えるというのは、本州心室筋にとってはよいことです。遅すぎず、早すぎず適度な間隔で情報が入ってくるということですから。
発作性心房細動と慢性心房細動
普段は洞調律で、ときどき心房細動をきたす場合を発作性心房細動といい、心房細動が固定してしまって洞調律に戻らない場合を慢性心房細動といいます。
心房細動は病気のない健康な人にも見られる不整脈ですが、心疾患(とくに心房に負荷がかかる疾患)や脱水、全身状態不良時、電解質異常、甲状腺機能亢進などがある場合は、起こりやすくなります。対応は、心房細動によるデメリットを考えて行う必要があります。心房細動によって生じるデメリットは次の3つです。
- ①心房細動は頻脈になりやすい
心房からの電位が600~800回/分で、房室結節に入るわけですから、心拍数が上昇しやすくなります。とくに発作性心房細動の場合は、正常な脈が突然乱れて頻脈となりますので、動悸、胸部不快感といった症状が出て、苦しいために交感神経の亢進やアドレナリンの分泌が起こって、さらに頻拍が悪化するという悪循環をきたします。150~200回/分の心拍数も珍しくありません。
心拍数を低下させるためには、房室結節の不応期を延ばして房室間を通りにくくします。ジギタリス製剤やカルシウム拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)、β遮断薬は、この房室結節の伝導抑制作用があり、心房細動の心拍コントロールに投与します。
- ②ポンプ機能が低下する
ポンプ機能のうち、心房はその20%程度を担っているといわれています。補助ポンプとはいえ、その機能が失われるわけですから循環機能が弱まります。正常の心臓であれば、予備能力があるのですぐに心不全になることは普通ありませんが、心室筋の収縮能力の低下や、弁膜症などによる循環機能低下がある場合は、頻脈+補助ポンプ機能低下によって心不全をきたすことがあります。
- ③心房内に血栓ができやすくなる
心房が痙攣していますから、血液がよどんで血栓ができやすい状態です。血栓を予防する薬剤を投与することがあります。
以上のデメリットを考えると、洞調律のほうがよいと思うでしょう。発作性心房細動は、自然に停止する場合も多いのですが、抗不整脈薬による治療を行うこともあります。
より確実に洞調律に復帰させる方法は、電気的除細動です。ただし48時間経過した心房細動に除細動を行う場合は、血栓ができている場合もあるので、ワルファリンという抗凝固薬で血栓を予防してから除細動することが勧められています。
慢性の場合は、心拍コントロールと、血栓予防の治療を行います。病棟、外来などで心房細動が見られた場合は、それが慢性か発作性かを病歴などで確認し、心拍コントロール、洞調律へ復帰させる治療、あるいはその両方を行うか、さらに抗血栓治療はどうするかという点を医師は判断します。
心房細動のまとめ
- P波がなく、基線が揺れているようなf波がある。
- RR間隔は不定で、頻脈傾向が強い(f波がはっきりしなくても、P波がなくRRが不定ならば心房細動と判断してよい。
- 頻脈傾向、ポンプ機能の低下、血栓形成傾向のデメリットがある。
- 発作性、慢性があり、発作性なら洞調律に復帰させる治療を選択することもある。慢性であれば心拍コントロールとともに血栓予防を行う。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版