貧血|貧血の種類と原因

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。

 

[前回の内容]

赤血球の働き(2)

 

今回は、貧血について解説します。

 

片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師

 

Summary

  • 1. ヘモグロビン量の減少(成人男性:Hb < 13g/dL、成人女性:Hb < 12g/dL)により、血液の酸素運搬能力が低下した状態を貧血という。貧血の症状には、易疲労感・めまい・起立性低血圧・動悸・収縮期心雑音などがある。
  • 2. 貧血には、鉄欠乏性貧血、巨赤芽球性貧血(悪性貧血)、再生不良性貧血、腎性貧血、溶血性貧血がある。
  • 3. 成分の増殖や成熟には、造血ビタミン(ビタミン B12、葉酸)が必要である。

 

〈目次〉

 

貧血の種類

ヘモグロビン(Hb)量の減少(成人男性:Hb < 13g/dL、成人女性:Hb < 12g/dL)により、血液酸素運搬能の低下した状態を貧血という。

 

臨床的には、血液の単位容積あたりのHb量の減少を貧血の指標としている。貧血の原因は、赤血球成分の不足によるもの、造血機能の低下によるもの、赤血球の破壊亢進によるもの、多量の出血に大別される(表1)。

 

表1貧血の種類、主な原因および治療薬

貧血の種類、主な原因および治療薬

 

鉄欠乏性貧血

貧血で最も多いのは鉄欠乏性貧血である。鉄が不足すると赤血球は小さくなりHb含有量も低下する(小球性低色素性貧血)。このため、酸素の運搬能力が低下する。

 

Hb合成には、鉄が不可欠である。摂取された鉄はで吸収可能な形になり、小腸(十二指腸、空腸上部)で吸収され、肝臓に貯蔵される。貧血の際にレバー(肝臓)を食べることを勧められるのは、レバーが鉄を多く含んでいるからである。

 

また、手術で胃を摘出した人は、鉄の吸収率が低下するので、鉄欠乏性貧血になりやすい。血液中の鉄の量が低下したときは、肝臓の鉄の貯蔵も枯渇している。したがって、鉄欠乏性貧血の治療では貯蔵分の鉄まで補給する必要がある。

 

巨赤芽球性貧血(悪性貧血)

赤血球の合成には、鉄のほかに、ビタミンB12と葉酸などの造血ビタミンが必要である(図1)。

 

図1赤血球の成熟過程と必要成分

赤血球の成熟過程と必要成分

 

赤芽球は分裂速度が速く、DNAを大量につくっているため、DNA合成に必要なビタミンB12と葉酸が不足すると、赤血球の合成に影響を及ぼす。したがってビタミンB12や葉酸が不足しても貧血になる。

 

この場合は、赤血球が大きくなるので、巨赤芽球性貧血ともいう。かつてビタミンB12不足による貧血は、原因も治療法も不明なため悪性貧血とよばれた。胃切除した人では、胃の壁細胞でつくられる内因子が不足するため、ビタミンB12が内因子と結合できず、肝臓に貯蔵されたビタミンB12を使い果たす数年後には巨赤芽球性貧血を起こすことがある。

 

なお、ビタミンB6はヘモグロビンのタンパク質合成に必要であり、この不足はヘモグロビンの生成を妨げ、貧血を起こす。

 

再生不良性貧血

骨髄機能の低下(骨髄の造血幹細胞の減少)による再生不良性貧血は、赤血球、白血球血小板のすべての減少(汎血球減少)をもたらす難治性の造血障害である。

 

腎性貧血

腎臓が障害されるとエリスロポエチンの産生が低下し、これが原因で貧血となることもある(腎性貧血)。腎臓で合成されるエリスロポエチンは、赤血球産生に重要な役割を果たす造血因子である。

 

組織の酸素分圧が低下すると、腎臓でエリスロポエチンが産生され、放出される。これが、骨髄の幹細胞から前赤芽球への分化を促し、赤血球産生を促進する。

 

溶血性貧血

赤血球の破壊が亢進し、造血がそれに追いつかない場合も貧血となる。このような貧血を溶血性貧血という。

 

貧血に用いられる指標

貧血にはいろいろな種類があり、それぞれHb値や赤血球数が特徴的に変化する。そのため、貧血の診断には、MCV(平均赤血球容積)MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)が用いられることが多い。

 

※編集部注※

当記事は、2016年6月19日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 

[次回]

白血球の働き

 

⇒〔ワンポイント生理学〕記事一覧を見る

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版

SNSシェア

看護ケアトップへ