貧血|貧血の種類と原因
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、貧血について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
Summary
〈目次〉
貧血の種類
血液の酸素運搬能の低下した状態を貧血という。臨床的には、Hb、赤血球数、Htなどの低下を貧血の指標としている。貧血の原因は、赤血球成分の不足によるもの、造血機能の低下によるもの、赤血球の破壊亢進によるもの、多量の出血に大別される。
鉄欠乏性貧血
貧血で最も多いのは鉄欠乏性貧血である。鉄が不足すると赤血球は小さくなりHb含有量も低下する(小球性低色素性貧血)。このため、酸素の運搬能力が低下する。
Hbの合成には、鉄が不可欠である。摂取された鉄は胃で吸収可能な形になり、小腸で吸収され、肝臓に貯蔵される。貧血の際にレバー(肝臓)を食べることを勧められるのは、レバーが鉄を多く含んでいるからである。
また、手術で胃を摘出した人は、鉄の吸収率が低下するので、鉄欠乏性貧血になりやすい。血液中の鉄の量が低下したときは、肝臓の鉄の貯蔵も枯渇している。したがって、鉄欠乏性貧血の治療では貯蔵分の鉄まで補給する必要がある。
巨(大)赤芽球性貧血(悪性貧血)
赤血球の合成には、鉄のほかに、ビタミンB12と葉酸などの造血ビタミンが必要である。赤芽球は分裂速度が速く、DNAを大量につくっているため、DNAの合成に必要なビタミンB12と葉酸が不足すると、赤血球の合成に影響を及ぼす。したがってビタミンB12や葉酸が不足しても貧血になる。
この場合は、赤血球の形が大きくなるので、巨(大)赤芽球性貧血ともいう。かつてはビタミンB12不足による貧血は、原因も治療法も不明なため、悪性貧血とよばれた。胃切除した人では、胃の壁細胞でつくられる内因子が不足するため、ビタミンB12が内因子と結合できず、巨(大)赤芽球性貧血を起こすことがある。
なお、ビタミンB6はヘモグロビンのタンパク質合成に必要であり、この不足はヘモグロビンの生成を妨げ、貧血を起こす。
再生不良性貧血
骨髄機能の低下による再生不良性貧血は、赤血球、白血球、血小板のすべての減少をもたらす難治性の造血障害である。
腎性貧血
腎臓が障害されるとエリスロポエチンの産生が低下し、これが原因で貧血となることもある(腎性貧血)。腎臓で合成されるエリスロポエチンは、赤血球産生に重要な役割を果たす造血因子である。
組織の酸素分圧が低下すると、腎臓でエリスロポエチンが産生され、放出される。これが、骨髄の幹細胞から前赤芽球への分化を促し、赤血球産生を促進する。
溶血性貧血
赤血球の破壊が亢進し、造血がそれに追いつかない場合も貧血となる。このような貧血を溶血性貧血という。
貧血に用いられる指標
貧血にはいろいろな種類があり、それぞれHb値や赤血球数が特徴的に変化する。そのため、貧血の診断には、MCV(平均赤血球容積)、MCH(平均赤血球ヘモグロビン量)、MCHC(平均赤血球ヘモグロビン濃度)が用いられることが多い。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版