腹部超音波検査|消化器系の検査
『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、腹部超音波検査について解説します。
高木 康
昭和大学医学部教授
〈目次〉
- 腹部超音波検査とはどんな検査か
- 腹部超音波検査の目的
- 腹部超音波検査の実際
- 腹部超音波検査前後の看護の手順
- - 腹部超音波検査に関する患者への説明
- - 腹部超音波検査に準備するもの
- - 腹部超音波検査後の管理
- 腹部超音波検査において注意すべきこと
- 腹部超音波検査現場での患者との問答例
- 腹部超音波検査現場での患者への説明資料
腹部超音波検査とはどんな検査か
腹部超音波検査とは、腹部に探触子(プローブ)を当て、超音波を体外から投射することにより反射・吸収させ、臓器の形態を画像化する検査である。装置にはパルス法とドプラ法などがあり、ドプラ法では血流や機能の評価をすることも可能である。患者に苦痛の少ないことからスクリーニングとして多く活用されている。
腹部超音波検査の目的
腹部臓器の形態学的診断(図1)
- 肝臓:肝炎と肝硬変の鑑別、脂肪肝、肝血管腫、肝囊胞、肝癌
- 胆囊:胆石、胆囊炎
- 胆管:総胆管結石、胆管炎
- 膵臓:膵炎、膵囊胞、膵癌
- 腎臓:腎囊胞、腎癌、尿路閉塞
- 骨盤内:子宮筋腫、子宮癌、卵巣囊腫、卵巣癌
- その他:腹水の有無
腹部超音波検査の実際
- ①仰臥位または半座位とし、上肢は頭の方へ上げておく。上半身は裸とし、女性の場合は必要時以外、胸にタオルをかけておく。下肢にはタオルをかけ保温する。
- ②患者の右側に施行者が座り、腹部に広範囲にゼリーを塗り、プローブを皮膚に密着させ空気の介入がないように走査する。ゼリーが不十分な場合は画像が悪くなるため、多めに塗る。また、多少温めておくと不快感が少ない。
- ③部位によっては大きく息を吸う、息を吐くなどが必要なため、患者に声をかけ協力を得る。画像を取り込む際には息を止めるよう声をかける。繰り返し行うが、その都度声をかける。
- ④臓器の位置により体位を変えながら走査する(肝臓はやや左側臥位・腎臓は左右側臥位で行うことが多い)。体位を維持することが難しい場合は枕などを使用する。また走査の手順をあらかじめ説明するとよい。
- ⑤終了後はゼリーをよく拭き取り、衣類を整える。
腹部超音波検査前後の看護の手順
腹部超音波検査に関する患者への説明
- 腹部臓器の形や機能を調べる検査である。
- 腹部にゼリーを塗りプローブを皮膚表面に当てて動かす検査であり、苦痛や負担は少ない。
腹部超音波検査に準備するもの
・超音波装置 ・ゼリー ・タオル
腹部超音波検査後の管理
1)検査前日
- 21時以降は禁飲食とし、空腹の状態で検査が実施できるようにする。
- 消化管ガスが貯留している場合や便秘の場合は、就寝前に下剤を投与する。
- 数日前から消化管のバリウム検査は行わないようにする。
- 検査の目的・方法を説明し同意を得る。
2)検査前
- 検査終了まで禁飲食とする。
- 体位は仰臥位または半座位とする。
- 暑さや寒さを感じない程度の室温とする。上半身裸で行うため、他の部位はタオルをかけ保温する。
- 骨盤内臓器の検査を行う場合は、検査終了まで排尿しないよう説明する。
- 室内が暗いことを説明し、理解を得る。
3)検査中
- 患者が体位を整えやすいよう声をかけながら、必要時介助する。
- 枕などを使用し苦痛のないよう援助する。
- 呼吸法はその都度説明しながら行い、患者の協力を得る。
4)検査後
- 腹部にプローブを当てて強く押すことがあるため、腹部症状の有無を確認する。症状がある場合は医師に報告する。
腹部超音波検査において注意すべきこと
- 検査当日に消化管バリウム検査や上部消化管内視鏡検査がある場合は、腹部超音波検査を先に行う。
- 内服薬のある場合は中止する必要はなく、通常通り内服させる。
- 内服の血糖降下薬・インスリン注射は禁飲食のため中止する。
- 腹腔鏡検査後の場合は、1週間程度たってから行う。
- 午後に検査を行う場合は、朝食は軽くとらせ、6時間程度たってから行う。
腹部超音波検査現場での患者との問答例
明日は腹部超音波検査を行います。
どのような検査ですか。
お腹にゼリーを塗り、超音波の探触子(超音波を出し、エコーを受信する小さな装置)を当てるだけです。
痛くはないのですか。
注射をされるなどのように痛いことはありません。お腹に探触子を当てるため、押されたりすることはあります。息を吸ったり吐いたり必要な時は協力してください。
何か準備をしておくことはありますか。
今日の夜9時以降から検査が終わるまでは食べたり飲んだりしないでください。明日は朝の薬を飲む時だけお水を飲んでもかまいません。検査が終わったら制限はありませんので、普段どおりにしてください。
はい。
腹部超音波検査現場での患者との問答例
腹部超音波検査を受ける方へ
この検査は超音波を体外から当て、腹部臓器の形態や機能を調べるものです。検査時間は15~30分程度です。
【注意事項】
- 検査前日は普段どおりの生活をしていただいてかまいません。
- 検査当日は、朝食・水分を摂らないでください。
- 朝の内服薬は、検査の2~3時間前までに少量の水でお飲みください。
- 検査2時間前は、可能な限り排尿しないでください。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版