胸腔穿刺|呼吸器系の検査

『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、胸腔穿刺について解説します。

 

高木 康
昭和大学医学部教授

 

〈目次〉

胸腔穿刺とはどんな検査か

胸水(胸膜液)は、正常ではごくわずか(約1~20mL程度)存在し、呼吸運動による胸膜の摩擦を緩和する潤滑液として働く。主に壁側胸膜の毛細血管から間質液がしみ出すことで産生され、主に壁側胸膜のリンパ管に吸収される。毛細血管透過性、静水圧、膠質浸透圧の3つの要素に影響される(Starlingの法則)。何らかの原因により産生と吸収のバランスがくずれると、胸水が過剰に貯留する。胸腔穿刺は、胸水貯留の原因を調べるために、胸水を採取するための胸壁の穿刺である。

 

胸腔穿刺の目的

  • 採取して胸水検査を行い、胸膜、肺、胸部臓器の異常を調べる。
  • 胸水の除去による症状緩和。
  • 気胸における一時的な脱気。
  • 胸膜生検

 

胸腔穿刺の実際

胸腔穿刺の適応

  • がん性胸水
  • 血胸
  • 膿胸
  • 心不全
  • 自然気胸
  • 外傷性気胸
  • 医原性気胸

 

臨床所見

  • 大量の胸水では、胸水貯留部において打診で濁音(正常部は清音)、聴診で肺胞呼吸音減弱のほか、声音振盪減弱の所見が得られる。
  • 少量の胸水では、身体所見に乏しいが、ときに聴診で胸膜摩擦音を聴取することがある。
  • 原因が明らかであるとき(心不全、肝硬変、がん性胸膜炎-がんの再発・進行の場合など)は、胸水検査を行わず原因疾患に対する治療を行って経過をみることも多い。
  • 胸水の性状(蛋白質、LDH 値)により滲出性と漏出性に大別される(表1)。
  • 胸水が膿性であれば膿胸、胸腔内に貯留しているものが血液であれば血胸、乳び液であれば乳び胸と呼ぶ。

表1滲出性胸水と漏出性胸水の鑑別

滲出性胸水と漏出性胸水の鑑別

 

胸腔穿刺の必要物品

皮膚消毒セット(イソジン液、綿球、鑷子膿盆) ・穿刺針(16~21Gサーフロー針またはハッピーキャス) ・注射針(23G、18G) ・シリンジ(10mL、20mL、50mL) ・延長チューブ ・三方活栓 ・滅菌排液バック ・局所麻酔薬(1%キシロカイン) ・術者用:滅菌ガウン・滅菌手袋・マスク・キャップ ・滅菌ガーゼ ・滅菌穴あき覆布 ・処置用シーツ ・滅菌試験管 ・ハイポアルコール液 ・固定用絆創膏 ・注入する薬剤 ・超音波装置

 

胸腔穿刺の方法

  1. あらかじめ胸部X線、CT検査、超音波検査を行い、胸水貯留部の把握を行う。
  2. 患者に検査・処置の必要性、目的、方法、注意点を十分に説明する。
  3. 施行前に排尿を済ませ、ベッドに処置用シーツを敷いて体位をとる(座位、ファラー位、仰臥位)。
  4. バイタルサインの測定と全身状態の観察を行う。
  5. 必要物品を清潔操作でワゴンに用意する。
  6. 穿刺部位を決定し、皮膚消毒を行う。
  7. 局所麻酔を行う。
  8. 座位で行うときは、第7または第8肋間の後腋窩線上を、仰臥位では第4~第6肋間後腋窩線上を穿刺する。
  9. 気胸の脱気目的の場合は、第2肋間鎖骨中線より穿刺する(図1)。
  10. 胸腔内液の流出を確認後、延長チューブおよび三方活栓と連結し、刺入部を固定して液を採取し、滅菌試験管に入れる。
  11. 必要時、薬剤注入を行う。
  12. 排液量、性状を観察する。
  13. 終了後、抜針して刺入部の消毒を行い、余分な消毒液をハイポアルコールに浸したガーゼで拭き取り、滅菌ガーゼを厚めに当てて絆創膏固定を行う。
  14. バイタルサイン測定と全身状態の観察を行う。
  15. 患者の病衣を整え、注意事項の説明を行う。
  16. 医師の指示により30分~ 1時間の安静をとる。
  17. 翌日までバイタルサイン・出血・感染徴候・注入薬の副作用などを定期的に観察する。

図1胸腔穿刺部位

胸腔穿刺部位

 

胸腔穿刺において注意すべきこと

  • 胸腔穿刺・ドレナージや胸膜生検の処置中に、迷走神経反射によるショック(血圧低下などの循環不全)をきたすことがある(胸膜ショック)。壁側胸膜に分布する求心性の知覚神経への刺激により起こる。発症予防のためには、十分な局所麻酔が重要である。処置前に抗コリン剤(硫酸アトロピン)の投与を行うこともある。処置中・処置後のバイタルサインや全身状態の観察に留意が必要。
  • 肋骨の下縁に並ぶ血管と神経の損傷を避けるため穿刺針は肋骨上縁に対して直角に進入させる。
  • 皮膚や壁側胸膜や肋骨骨膜には知覚神経が豊富にあるため、局所麻酔薬を十分に浸潤させ、肋骨上縁から穿刺を行う。

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版

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