冠動脈インターベンション(PCI)|循環器系の検査
『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、冠動脈インターベンション(PCI:percutaneous coronary intervention)について解説します。
高木 康
昭和大学医学部教授
〈目次〉
- PCIとはどんな治療か
- PCIの方法
- PCIの適応と禁忌
- ・PCIの適応
- ・PCIの禁忌
- PCIの実際
- ・PCIの穿刺部位の選択
- ・PCIの手順
- PCI前後の看護の手順
- ・PCIに関する患者への説明
- ・PCI前処置
- ・PCI後
- ・PCIの必要物品
- PCIにおいて注意すべきこと
- PCI現場での患者との問答例
PCIとはどんな治療か
虚血性心疾患は、心筋梗塞や狭心症といった心筋の栄養血管である冠動脈の内腔が動脈硬化や血栓により狭窄または閉塞することによって、心筋が虚血状態(酸素不足)となり、やがては心筋が壊死に陥る疾患である。
PCIは、これらの冠動脈狭窄性病変に対してカテーテルを用いて拡張を行う治療である(図1)。
PCIの方法
- まずガイドワイヤーを病変の末梢まで通過させる。通過したガイドワイヤーを用いて種々の拡張器具を病変部に挿入し、狭窄部の拡張を行う。
- 現在使用可能な拡張器具には、バルーン、ステント、高速回転アテレクトミー(Rotablator)、などがある。
- バルーンで拡張後にステントを留置するのが現在の標準的な方法である。最近では、再狭窄(拡張した病変部が再度狭くなること)が極めて少ない薬物溶出ステント(DES)を使用することが多い。
- アテレクトミーは、冠動脈の動脈硬化巣を切除して拡張する方法である。
- 高速回転アテレクトミーは石灰化病変に有効で、著明な石灰化によりバルーンやステントの拡張が困難と予想される場合に用いられる。
- 病変の評価および治療効果の判定に冠動脈造影だけでなく、血管内超音波(IVUS)や光干渉断層法(OCT)が拡張前後に用いられる。
PCIの適応と禁忌
PCIの適応
1)狭窄に関する適応について
基本的に冠動脈に実測50%以上の狭窄があり、その灌流域に心筋虚血が証明されている場合に適応となる。75%以上の狭窄があっても心筋虚血が認められないものは、一般的に適応にはならない。
心筋虚血の評価法として、これまで運動負荷試験や負荷心筋シンチグラムが用いられてきたが、最近はプレッシャーワイヤーを用いた冠血流予備量比(FFR)が注目されている。
2)病変枝数に関する適応について
バルーン形成術が主流であった時代には、1枝病変はカテーテル治療、2枝病変は病変や患者の状態に合わせてカテーテル治療かバイパス手術(CABG)のどちらかを選択、3枝病変はCABGといった選択がなされていたが、ステントやアテレクトミーが使用可能となった現在は、3枝病変に対しても積極的にPCIが施行されるようになっている。
PCIの禁忌
バルーン形成術の時代は、保護されていない左主幹部病変、2枝閉塞の残りの1枝、危険にさらされた側副血行路派生血管の病変は禁忌とされてきたが、病変枝数の適応と同様に、現在は適応が拡大されており、禁忌であった病変にもPCIが施行されるようになっている。
PCIの実際
PCIの穿刺部位の選択
- 大腿動脈ないしは橈骨動脈穿刺で行われる。
- 大腿動脈穿刺では挿入できる使用器具に制限がないが、術後の安静が必要となる。
- 橈骨動脈穿刺では使用器具に制限があるが、術後の安静が不要となる。
- 患者や病変の状態により、穿刺部位が選択される。
PCIの治療手順
- ①検査室に患者が入室したら、バイタルサインや症状の観察を行いながら、治療の流れについて簡単に説明する。
- ②穿刺部位が不潔にならないように陰部にガーゼを当て、隅々をテープで固定する。
- ③清潔な台の上に必要物品を清潔操作で広げる。
- ④医師が穿刺部位を広範囲に消毒後、清潔な布片で覆い、局所麻酔を行うため、その介助を行う。
- ⑤医師は血管穿刺後、カテーテルを挿入し、冠動脈造影によって病変部位を確認する。気分不快の有無や血圧、脈拍などをモニターする。
- ⑥つづいて医師は治療を行うが、その際、胸痛や血圧低下、不整脈などの異常をきたす場合がある。そのため、バイタルサインや自覚症状、心電図変化の有無などを観察し、異常時は医師の指示に従い対処する。
- ⑦最後に、バイタルサインや自覚症状、心電図変化、カテーテル刺入部の状態などを観察し、異常がなければ寝衣などを着用させ、病棟へ帰室させる。
- ⑧治療終了後、橈骨動脈穿刺の場合は直ちにシースを抜去する。大腿動脈穿刺で圧迫止血を行う場合は、通常ヘパリンの効果が消失する3時間後以降にシースの抜去を行う。止血デバイス(Angioseal®やPercloseAT®など)を用いる場合は手技後、直ちに抜去可能である。
- ⑨拡張不良症例や血行動態が安定しない場合は、大動脈バルーンパンビング(intra-aorticballoonpumping:IABP)が大腿動脈から挿入、留置される場合がある。また、急性心筋梗塞や心機能低下症例においては、終了後に心内圧測定や心機能評価のために静脈からスワンガンツ・カテーテルが留置される場合がある。その際は、穿刺部位を再度消毒し、ガーゼで保護した後、テープで固定する。その後、患者に検査の終了を伝え、カテーテル挿入部位を屈曲しないように注意を促す。
PCI前後の看護の手順
PCIに関する患者への説明
- 医師から治療の必要性、方法、合併症(急性冠閉塞、冠動脈解離・穿孔、不整脈、穿刺部位からの出血、血腫など)などについて説明し、同意を得る。
- 看護師は、パンフレットなどを用いて治療の流れや注意事項などについての補足説明を行ったり、患者の不安や疑問に対応する。
PCI前処置
- ①カテーテル穿刺部位の剃毛:感染防止のため、カミソリは使用せず、可能な限り治療当日に行う。大腿動脈の高度な石灰化、蛇行、狭窄などによって穿刺が困難な場合は穿刺を反対側に変更することがある。また緊急時にはIABPを使用することもあるため、両鼠径部を剃毛しておく。
- ②穿刺部位やそれより末梢の動脈触知の有無や程度、左右差の有無について確認しておく。
- ③点滴ルートの確保および指示輸液の投与:大腿動脈穿刺部位と反対側の上肢に確保する。
- ④尿道カテーテルの挿入:前張りをして両鼠径部にかからないように固定する(図5)。右側からアプローチされることが多いため、尿管は左大腿に固定する。
- ⑤検査着とT字帯への更衣と装着物、貴重品の除去(指輪、へアピン、義歯、ネックレス、時計など)。
- ⑥禁飲食:緊急治療でなければ、午前中予定の治療では当日の朝から禁食、午後なら当日の朝食は半量摂取、昼食から禁食とする。ただし、内服薬の中止については医師に確認する。
- ⑦心電図やバイタルサイン、一般状態の観察と記録を行う。
PCI後
PCIの必要物品
1)治療前
・剃毛用具 ・尿道カテーテル挿入用具 ・点滴ルート確保用具 ・検査着 ・T 字帯
2)治療時
・シースイントロデューサー・キット ・ガイドカテーテル ・インデフレーター ・アクセサリーキット(Yコネクター、トルカー、インサーター) ・局所麻酔薬 ・ヘパリン生食 ・注射器(10cc、20cc)・1-0絹糸 ・布片 ・穴あき布片 ・術衣 ・滅菌手袋・消毒薬 ・ガーゼ ・固定用テープ ・除細動器(必要時スワン-ガンツカテーテル、ペーシングカテーテル、IABP)・薬剤:ニトロール、ヘパリン、昇圧薬、抗不整脈薬など
3)治療後
スワンガンツ・カテーテルおよび動脈圧ライン・モニタリングキット、ヘパリン生食、圧バッグ、水準器
PCIにおいて注意すべきこと
- PCI施行中、一時的な冠血流の途絶により、胸痛や血圧低下、不整脈などの異常をきたすことがあるので、急変時の対応の準備をしておく。
- 治療後、大腿動静脈にシースが留置された場合、それによる末梢血流障害の出現時は保温に努め、末梢動脈の触知が困難な場合は直ちに医師に報告する。
- 治療後は抗凝固療法を行うことも多いため、治療直後やシース留置中は刺入部位からの出血や血腫の出現に注意するとともに、患者に挿入側の下肢を屈曲しないように説明する。必要時、患者および家族に説明して、下肢の抑制を行う。
- 治療後も、残存狭窄や冠動脈内血栓、冠動脈の痙攣などにより狭心発作を引き起こす場合があるので、医師から治療所見を聞き、あらゆる偶発症を予測し、自覚症状や心電図所見に注意する。
- 患者は治療中や治療後も臥床を強いられるため、腰背部痛を生じやすい。適宜、体位変換やマッサージ、鎮痛薬の使用などにより緩和に努める。
- シース留置中は、刺入部の観察を行い、ドレッシング材に応じた消毒を行う。また、予防的に抗生物質が投与されることもある。
PCI現場での患者との問答例
これからPCIという治療を行います。
どんな治療ですか。
足の付け根からカテーテルという管を心臓の血管まで通して、細くなっている所を風船で広げて血流をよくする治療です。
痛くないですか。どれくらいで終わりますか。
最初に局所麻酔の注射をするので、そのとき少し痛いですが、麻酔が効いてくれば痛くなくなります。治療中、会話はできるので、何かあったらすぐに看護師や先生に声をかけてください。治療時間はだいたい1時間くらいです。
分かりました。終わったらすぐに歩けますか。
治療後、足の付け根に管を入れたままになるので、それが抜けるまではベッドの上に寝たままで安静にしていただきます。管は心臓の状態が落ち着いたら早いうちに抜けます。
わかりました。
略語
- PCI:percutaneous coronary intervention(冠動脈インターベンション)
- DES:drug eluting stent(薬物溶出ステント)
- CABG:coronary artery bypass graft(冠動脈バイパス術)
- IABP:intra-aortic balloon pumping(大動脈バルーンパンビング)
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版