感染症 ゆく年くる年

忽那賢志忽那賢志

感染症専門医

 

看護roo!をご覧の皆さん、こんにちは。
大阪大学の忽那です。

 

年末の慌ただしい時期ですが、いかがお過ごしでしょうか。
今年もいろんなことがありました…。

 

反ワクに罵倒されたり、反ワクになじられたり、反ワクに誹謗中傷されたり…。

 

そんな2023年も終わろうとしています。
それでは、今年1年の感染症を振り返ってみましょう。

ラクダにまたがり放蕩の旅に出る筆者(鳥取砂丘で撮影)

 

新型コロナウイルス感染症 5類感染症へ

感染症業界では今年はなんといっても「新型コロナの5類への移行」が最大のニュースと言えるでしょう。

 

ワクチン接種者や既感染者が増えたこと、広がっているのが比較的重症度の低いオミクロン株であること、治療薬の選択肢が増えたことなどから、2023年5月より、これまでの感染症法上の「新型インフルエンザ等感染症」という位置付けから5類感染症に変更となりました。

 

一般社会ではマスク着用も個人の判断となり、自治体が主導する入院調整も基本的には行われなくなりました。
そして、10月からは抗ウイルス薬などの治療薬も最大9,000円の自己負担が発生することになりました。

 

図1 5類化前後のCOVID-19の定点あたり報告数の推移

5類化前後のCOVID-19の定点あたり報告数の推移

内閣官房HPより1)

 

さて、5類感染症になって現場では予想通り大きな混乱が…意外と起こってないですね。
少なくとも私の働く吹田市周辺では特に大きな混乱もなく5類に移行したように思います。

 

図1は5類移行前後の定点あたりの報告数の推移ですが、5類になってから初めての流行となった第9波のピークは8月下旬〜9月上旬で、定点あたり約20でした。
5類になる前は全数報告でしたが、遡って同じように定点あたりの報告数で数えてみると、第8波のピークは2022年12月中旬~下旬で30を越えていました。

 

日本では海外と異なり、流行を経るごとに波の規模が大きくなるということを繰り返してきていましたが、ここにきてようやく波の規模が小さくなりました。

 

まあ実際には、5類感染症になってからは、症状があっても病院を受診しない人や、受診しても検査を希望しない人が増えていることから、本当の感染者数は第8波より大きい多い可能性はあります。

 

現在、また徐々に感染者が増えてきています。

 

このまま第10波の流行となった場合に、その規模がどれくらいになるのかによって、今後の日本国内のCOVID-19の流行がある程度予測できるのではないかと思います。

 

個人的には、日本国内でも海外のように流行の規模は徐々に小さくなっていくのではないかと思っています。

 

図2 2023年7月〜8月時点でのN抗体陽性率調査における年齢別の陽性者の割合2)

2023年7月〜8月時点でのN抗体陽性率調査における年齢別の陽性者の割合

 

厚生労働省が行った2023年7月〜8月におけるN抗体陽性率調査では、51.1%が陽性という結果でした。

 

これはつまり、日本国民の半分以上がCOVID-19に少なくとも1度以上感染したことがあるということになります。

 

※N抗体…COVID-19に感染した場合に産生される抗体

 

日本の場合、COVID-19に感染した人の大半は「オミクロン株になってから感染した人」ですので、これらの方々はオミクロン株に対する感染予防効果が、少なくとも半年程度はあります。

 

海外では、N抗体陽性者が増えるのに合わせて流行の規模が小さくなっていますので、日本でも同じような状況になることが期待できます。

 

ただし、このシナリオは新しい変異株の出現によって大きく書き換えられてしまう可能性があります。

 

もしオミクロン株とは大きく異なる変異株が出現した場合には、再び大きな流行が起こり得ます。

 

2024年も引き続き変異株の動向については注視しなければなりません。

 

コロナ以外の感染症の増加

この原稿を執筆している2023年12月17日現在(ちなみに原稿の締め切りは過ぎています)、国内ではCOVID-19よりもインフルエンザが大流行しています。

 

図3 過去10年の日本国内におけるインフルエンザの流行状況 3)

過去10年の日本国内におけるインフルエンザの流行状況

 

すでに夏の時期(34週目は2023年8月21~27日)からインフルエンザがパラパラと報告されていましたが、減ることなくそのまま秋以降も増加しており、過去10年に例がないほどの勢いで感染者が増加しています。
病院内でもCOVID-19よりもインフルエンザの感染対策に追われている状況です。

 

同様に、COVID-19以外の感染症が最近やたらと増えている現象が確認されています。

 

図4 日本国内におけるRSウイルス感染症の流行状況4)

日本国内におけるRSウイルス感染症の流行状況

 

2021年の冬には、RSウイルスが過去に例のない規模で大流行しました。
通常、RSウイルス感染症は1歳未満〜1歳くらいの年齢層が半分以上を占めていますが、2021年の流行では2歳、3歳、4歳以上の年齢層の感染者が半分以上を占めるという現象が観察されています5)

 

同様に、2023年は咽頭結膜熱も日本国内で流行していますが、感染している年齢層が例年よりも高くなっていることが指摘されています6)

 

これはつまり、COVID-19の流行以降に感染していなかった子どもたちが、今になって猛烈な勢いで感染していることを意味しています。

 

これらの現象はなぜ起こっているのでしょうか?
推測される機序としては

 

新興再興感染症の流行

社会における感染対策の強化

特定の感染症に対する集団免疫の低下

感染対策緩和や人流増加に伴う感染症の増加

 

というものです。

 

COVID-19が流行することによって、特に流行初期において社会全体が徹底した感染対策を行いました。
それによりCOVID-19だけでなく、他の、特に飛沫感染によって伝播する感染症(インフルエンザ、RSウイルス、咽頭結膜熱など)も流行が抑えられました。

 

これ自体は良いことなのかもしれませんが、その影響で普段であれば特定の感染症(例えば感染症Aとします)に感染する年齢層で感染することなく経過してしまったことで、感染症Aに対する免疫を持たない子どもたちが増えてしまいました。

 

COVID-19の感染対策が緩和され、人流が増加すると感染症が伝播する機会が徐々に増えてきますが、その際に感染症Aに感受性のある子どもが例年よりも多いことから、伝播が起こりやすく、流行の規模が大きくなってしまっている状況と考えられます。

 

2023年11月に中国の北京や遼寧省において小児の肺炎アウトブレイクとしてるという報道がありました7)
当初は「すわ!また新しい感染症か!?」と心配されましたが、どうやらマイコプラズマ肺炎などの既知の呼吸器感染症のようです。

 

この事例についても、前述の日本国内におけるRSウイルス感染症や咽頭結膜熱などの現象と同じものではないかと推察されます。

 

2022年には世界中で原因不明の小児の急性肝炎が報告されました8)
多くの症例からアデノウイルスが見つかっているのですが、もしかしたらこの急性肝炎についても、こうした現象のうちの一つなのかもしれないと思っています。

 

COVID-19が私たちに与えるインパクトは徐々に小さくなってきていますが、COVID-19以外の感染症が私たちを困らせています。

 

これもまたCOVID-19の影響によるものと考えると、やはりCOVID-19のパンデミックが社会に与える影響というのはとんでもないなと思わざるを得ません。

 

2024年の感染症はどうなるのか

最後に、2024年の感染症の動向について忽那氏の予想を申し上げます。

 

COVID-19が5類感染症になって以降、海外からの観光客が凄まじい勢いで増えています。すでに2023年10月の旅行者はCOVID-19の流行前の2019年の同時期よりも多くなっています。これには円安も大いに影響していると考えられます。

 

現在は中国の団体旅行が制限されている状況であることから、中国人の旅行者はまだそれほど多くありません。
しかし、今後制限が緩和され、中国人旅行者が増えればオーバーツーリズムの状況はさらに加速すると考えられます。そうすると、COVID-19の流行以降は減少していた、海外から日本に持ち込まれる感染症も再び増加してくることになるでしょう。

 

海外渡航歴をしっかりと聴取して、輸入感染症を見逃さないようにしましょう。

 

ということで、足早に2023年の振り返りと2024年の予想を述べてみました。

 

皆さんが1年間健康に過ごされることを願っております。

 

 

執筆

大阪大学医学部附属病院 感染制御部 / 感染症内科 教授忽那賢志

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。

 

編集:林 美紀(看護roo!編集部)

 

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