医師の働き方改革ではない!働かせ方改革だ!!

 

医師の働き方改革の一環で、長時間労働を減らす動きになっています。

 

2024年4月からいよいよ新制度が施行され、時間外労働の上限規制が適用され、労務管理の推進、タスクシフト/シェアの推進に向かうわけです。

 

この流れそのものには賛同しつつも、ちょっとひっかかりを覚える部分もあるので、今回は医師の働き方改革について述べます。

 

医師の働き方改革

 

多くの医師は「働かされて」いる!

まず、「医師の働き方改革」と言いますが、僕はこの日本語は正しくないと考えています。医師法19条にある応召義務を盾にされ、断ることを許されずに働き続けている医師ですが、時代とともに実情が変わってきています。

 

医師法が作られたのは昭和23年(1948年)。戦後復興の最中のことです。
医師は医業の業務独占をしており、生命・身体の救護をしなければ社会の根幹が揺らいでしまうという状況の中、職業倫理を求めるための訓示的規定として応召義務が制定され、医療体制構築を目指してきたのです。

 

このころは多くの医師が開業医で、医療提供体制が整っていない時代に作られた法律といえます。

 

時は代わり現在、多くの医師は勤務医です。
医療が高度化するにつれ、そして高齢化が進むにつれ、業務内容は広がり、業務量も増えてきました。

 

診療も個人で責任を持てるようなものではなくなり、病院全体で患者の診療に当たっています(もちろん最終的に診断して侵襲的治療を行うのは医師なのですが)。
病院として患者の求めに応じていると言っても過言ではないでしょう。

 

こういった時代の変化により、医師の働き方には大きな違いが生じました。

 

これまで、地域のために、診療所であっても求めがあればできる限り応えていた医師も多くいたと思います。

 

しかし、今は、同じようにその地域のために働いているとしても、直接患者の求めに応じるというよりは、病院の求めに応じて働いていますし、また、どれだけ働いても診療報酬が直接実入りになることはないです。

 

能動的に患者の求めに応じて働いているのではなく、医師も駒の一つであり、病院の指示で働いているのが実情なのです。したがって、働き方を自分で決めている医師は少数派で、多くの医師は働かされています。

 

こんな状況なので、「働き方」を改革しようと思っても改革はできません。改革をしなければいけないのは「働かせ方」です。医師はみんな裁量権を持っているかのような言葉を流布しないでいただきたい…。

 

僕は雇用者側ですが、できる限り被雇用者サイドに立った考え方で改革に臨みたいと思います。働かせ方改革を迫られていると自覚しております。

 

時間外労働に「お墨付き」ってどゆこと?

さて、ちゃぶ台返しはこれくらいにして、ちょっとぐぬぬという点を2つ述べたいと思います。

 

1つ目はまず、「時間外」の勤務時間について

 

勤務時間が長くなることが問題だとして、時間外労働の上限が設定されました(表1)。そして連続勤務時間は28時間までで、必ず次の勤務まで9時間のインターバルを設けることとされました。

 

表1 医師の働き方改革の時間外労働についての変更点

医師の働き方改革

 

基準ができることは大変ありがたいと思いそうになるのですが、騙されてはいけません

 

これまでの労働時間の上限は週40時間で、時間外労働の上限は1か月45時間です。一部の組織で労働基準法を無視して働かせていただけです。

 

そこへ、単純計算で月80時間から155時間まで時間外労働を認めるという意味不明な法律表1)ができたので、「医師は時間外労働をする生き物」というお墨付きをもらってしまった構図になります。

 

正規の労働時間の2倍くらいまで働いていいという、労働基準法ってなんだったのかと聞きたくなるような数字です。

 

看護師のみなさんから見ても意味不明な労働時間ではないですか?
「連続勤務は28時間までね!あと年1860時間までは余分に働けますよ!」と言われて喜ぶ人間がいるでしょうか…。

 

医師以外の職業では、一般的に被雇用者の場合原則月45時間、年360時間が上限とされますから、社会から相当大きな期待をされていることが伺えます。

 

こうして時間外労働の上限が明確化てされ(これまでも明確化されていたのに雇用者がごまかして…ゴニョゴニョ)たのですが、これでは勤務時間が超えてしまう人が続出する、特に宿直とか日直で勤務時間がかさんでしまうと地域医療が崩壊するということで、宿日直許可をとる病院が増えてきました。
宿日直は通常勤務時間にカウントされないというアドバンテージ(?)があります。

 

宿日直の許可基準は、一般的な宿日直の許可基準は、定期の巡視や非常事態に備えた待機など「ほとんど労働する必要のない勤務のみ」とされています1)

 

とはいえ、医療業界はやや特殊なので、医師については次のような軽度の、短時間の業務を含む場合に限り許可されるとあります(表21)

 

表2 医師の宿日直の業務1)

医師の宿日直

 

療養病棟などを想定しているのではないかと思うのですが、急性期病院においてこれはちょっと難しい気がします。

 

例えば救急告示病院については、その要件に「救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること」とあります。
常時診療に従事している医師がいるはずの救急告示病院において、夜間宿直医師が一人だけだとしたら、救急診療に従事できない医師しかいなくなってしまい制度が崩壊します。

 

集中治療室での宿直許可を実際に許可された病院もあるのですが、ちょっとどうかしているとしか思えません。

 

こうしたオフホワイトな宿直許可をとって勤務時間をごまかす病院がたくさんあるとは思っていないですが、ごまかしを受けた医師のモチベーションは果たして上がるでしょうか?

 

実は医師の中には、長時間労働はやむなしというか、必要に応じて積極的に働きたいと考えている人もいます。医師は他の職種よりも高収入であることが多いと思いますが、それはこの長時間労働に起因していることでもあるからです。

 

時間外労働と認めて、きちんと賃金が支払われれば何の問題もないですが、きちんと時間外労働が認められず、賃金が支払われていなかったり、宿直扱いになって拘束時間の割に低賃金になったりすると、モチベーションはむしろ下がってしまうのではないかと懸念しています。

 

「特定行為」は本来、患者さんのためのもの

2つ目はタスクシフトについて思うところを。

 

看護師の特定行為研修制度が進んでおり、当院でも特定行為が可能な看護師が勤務しています。
本来なら医師がしなくてはならない業務を看護師に分担することで、医師の労働負荷を軽減し、働き方改革に寄与できるものとして厚労省が期待を寄せています。

 

看護師特定行為は大変個人的にも助かっているし、いつも患者さんのそばにいる看護師が迅速に処置することで、患者さんの負担軽減にもつながるだろうと思う一方で、ぶっちゃけた話、医師の労務改善にはそこまで寄与しないのではないかという気持ちもあります。

 

例えば動脈血採血。
どうやっても採血することが困難な場合や、動脈血の評価をしたいという時は訪れます。医師がすぐに捕まれば良いですが、何かほかの業務をしていたら、それだけ検査が遅れるのです。そんな時、その手技が可能な人員が組織内に増えると、迅速に患者さんに必要な医療が提供できます。

 

医師の宿日直

 

そう、基本的に特定行為は本来患者さんのためにあるもので、医師の負担軽減はあくまでも副次効果です。それぞれの手技はそんな何時間もかかるようなものではないので、医師の勤務時間短縮にはあまり寄与しないのではないかとすら思います。

 

もちろん、たびたび呼ばれるということは減るでしょうから、医師のストレス軽減には大いに働きます。限りある時間を、より有効に使うことにつなげられるのはありがたいことです。

 

昨今、医師から看護師へのタスクシフトといえば特定行為みたいに言われがちですが、それ以外にもたくさん工夫できることはあります。
特定行為については、本来の患者さんのために存在するものとして推進してほしいと願っています。

 

それに、すでに多忙な看護師に新たな負荷をかけに行くことは、必ずしもハッピーな結果につながらないかもしれません。働き方改革の一環で行うタスクシフトは、より効果的な方策を考えた方が良いと考えています。

 

長くなってきたので、次回はタスクシフトの具体例を挙げて紹介してみましょうか(需要があれば)。

 

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執筆

薬師寺慈恵病院院長薬師寺泰匡

富山大学卒。初期臨床研修中に日本の救急医療の課題や限界に触れつつ、救急医療の面白さに目覚め、福岡徳洲会病院ERで年間1万件を超える救急車の対応に勤しむ。2013年から岸和田徳洲会病院の救命救急センターで集中治療にも触れ、2020年から薬師寺慈恵病院に職場を移し、2021年1月からは院長として地方二次救急病院の発展を目指している。週1回岡山大学の高度救命救急センターに出入りして、身も心もどっぷり救急に浸かっている。呼ばれればどこにでも現れるフットワークの軽さが武器。呼んで。

 

編集:林 美紀(看護roo!編集部)

 

 

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