輸血看護の基礎のキソ|いまさら聞けない!ナースの常識【33】
輸血看護を落ち着いて自信をもってできるように、ここだけは押さえておきたいポイントをまとめました。
執筆:梅木智美(聖マリア病院 臨床輸血看護師)
監修:大崎浩一(聖マリア病院 輸血科診療部長)
目次
輸血の手順
よく使われる赤血球製剤をもとに、輸血の手順を1つずつ説明していきます。
まずは、必要物品を準備し、輸血製剤の照合確認を行います。
準備段階では、輸血製剤の受け渡し時とナースステーションでの準備時の2回、照合確認を実施します。
1 事前説明&バイタル確認
患者さんにこれから輸血を行うことを説明し、バイタルサイン(体温、血圧、脈拍、SpO2)を測定します。
意識がない患者さんへの輸血では、施設のルールに従いましょう。
★point★
たとえば、「これから赤血球製剤を投与します。最初はゆっくり開始し、その後少しスピードを速めて、2時間くらいかけて輸血します」というように、どの血液製剤を、どのくらいの時間をかけて輸血するのかを伝えます。輸血中は状態の観察を継続的に行うため、輸血前にトイレなどを済ませておくよう促すと良いでしょう。
2 異常時の主治医への連絡体制
輸血後副反応の症状が出た場合など、異常時にすぐ主治医へ連絡が取れるように、連絡先や連絡方法、所在を確認しておきます。
3 副反応の対応&必要物品チェック
輸血後副反応が発生した場合に備え、マニュアルなどで対応を確認し、救急カートなど必要物品の置き場所をチェックしておきましょう。
4 患者さんへの副反応の説明
患者さんに、輸血後副反応で見られる症状について説明します(詳細は輸血の副反応を参照)。
体調に変化があった場合には、すぐ看護師に知らせるよう伝えておきましょう。
5 輸血ルートの確保
輸血のためのルートを確保します。
交差試験や輸血前感染症検査のための事前の採血で、一緒に輸血用のルート確保を行う場合もあります。
★point★
細い穿刺針(留置針)を用いると、輸血時の抵抗が高くなり、溶血の恐れがあるため、20Gの太めの穿刺針を使用します。
血管が細い患者さんの場合でも、できるだけ22G以上の太さの穿刺針にします。
6 輸血開始前の照合確認
輸血を開始する前に、3回目の照合確認をベッドサイドで行います。
その際、患者さんと看護師2名で確認します(オーダリングシステムとの照合でもOK)。
患者さん本人と照合し、さらにオーダーや輸血のタイミングに誤りがないかを電子カルテなどと照合します。
1)患者さん本人と照合
患者さん本人に「フルネーム」と「血液型」を言ってもらい、適合票と照合。
輸血を受ける患者さんと同一人物、同一血液型であることを確認します。
2)電子カルテと照合
電子端末を用いてネームバンドと照合し、本人確認や輸血する血液型が一致しているか確認します。
多くの病院では、輸血実施の最終確認として承認システムを導入しています。
★Point★
輸血事故を防ぐため、以下のことを守りましょう!
命にかかわる不適合輸血が起こる原因には、次のようなものがあります。
- 採血する患者さんの間違い
- 検査検体の間違い
- 血液型検査の判定間違い
- 依頼血液製剤の血液型の間違い
- 患者さん・血液製剤の照合間違い
7 輸血の開始
生理食塩水のみ混注が許されていますが、輸血は単独投与で実施するのが基本です。三方活栓などを使って他の輸液と混注してはいけません。
輸血と輸液の両方の投与指示がある場合は、医師へどちらの投与を優先するかを確認しましょう。
また、輸液が投与されていたラインから輸血を行う場合は、先にしっかりと生理食塩水でフラッシュしておきましょう。
輸血中の観察・看護
1 輸血開始
輸血セットは、輸血時の抵抗を減少させ、溶血を防ぐため、輸液セットよりもチューブの内径が太くなっています。
そのため、一気に血液製剤が流れてしまいますので、クレンメはゆっくり開放しましょう。
輸血開始時の滴下速度は成人の場合は1mL/分で投与します。
2 5分後まで
患者さんのそばを離れず、副反応の症状がないかをしっかり観察しましょう。特に、穿刺部痛や血管灼熱感など、不適合輸血の症状に注意します。
輸血開始5分後の時点で、バイタルサイン(体温、血圧、脈拍、SpO2)を再度測定し、カルテに記載します。
★point★
この時点で不適合輸血を発見できれば、体内への投与量を5mL未満に抑えることができ、救命の可能性が高くなります。
3 5~15分後まで
引き続き、成人の場合は1mL/分で継続投与します。
患者さんに異常がなければ、患者さんのそばを離れても構いません。
★point★
患者さんのそばを離れる時は、変化を感じたら看護師にすぐ知らせるように説明し、患者さんの手元にナースコールを設置しましょう。
4 15分後
バイタルサイン (体温、血圧、脈拍、SpO2)の確認や状態の観察をし、異常がなければ、医師から指示された滴下速度に変更します。
5 15分後~輸血終了まで
少なくとも30分ごとに、輸血速度の確認と患者さんの状態の観察を行います。
6 輸血終了
輸血セットのクレンメを閉じ、患者さんの状態を観察します。
患者さんに輸血が終わったことを伝え、「輸血が終了してからも体調に変化があるかもしれませんので、いつでも呼んでくださいね」などとお声掛けしましょう。
輸血の副反応
輸血後副反応は、早期に発見し、早期に対処することで重症化を防ぐことができます。
次のチェックリストにある症状を見逃さないようにしましょう。
1 副反応を見つけた時にすべきこと
直ちに輸血を止め、バイタルサイン測定・症状の確認を行い、医師へ報告します。この時、患者さんのそばを離れないようにしましょう。
1)針は抜かない!
副反応に対する治療で薬剤投与を早急に行うため、針は抜かないようにしましょう。
副反応で末梢血管が収縮・虚脱している場合にはルートの再確保が困難となる可能性があるからです。
2)輸液セットにチェンジ!
ライン内に残っている輸血が投与されないように、輸血セットを輸液セットに変えておく必要などがあります。ただちに医師の指示を仰ぎましょう。
また、医師の指示に従い、生理食塩水や乳酸リンゲル液などを投与します。生理食塩水以外の薬液を使用する場合は生理食塩水でフラッシュします。
3)救急カートを準備!
重篤な副反応が起こった場合のために、その場を離れず、救急カートなどの準備を依頼しましょう。
2 副反応の種類
輸血後副反応は大きく分けると、溶血性副反応と非溶血性副反応の2種類あります。
1)溶血性副反応
溶血性副反応とは、おもに輸血した赤血球の膜が破壊されて起こる副反応のことです。
最も注意しなければならない不適合輸血(ABO型不適合、異型輸血ともいう)もその一つ。
輸血開始5分以内に生じる、血管痛、胸腹部不快感、胸痛、腹痛、輸血している血管に沿った灼熱感などの症状に特に注意しましょう(症状発生時の対応は「副反応を見つけた時にすべきこと」参照)。
★point★
早期の発見が予後を左右します。輸血開始5分以内は患者さんのそばから離れてはいけません。また、輸血開始直後、5分後、15分後のバイタルサインの確認や観察はとても重要です!
2)非溶血性副反応(アレルギーなど)
非溶血性副反応とは、溶血性副反応以外のもので、最も多いのはアレルギー反応です1)(症状発生時の対応は「副反応を見つけた時にすべきこと」参照)。
使用する血液製剤の種類によって、どんな反応が起こりやすいか、チェックしておきましょう。
副反応の発症頻度は、血小板製剤、赤血球製剤、新鮮凍結血漿の順に多くなっています。
3 覚えておきたい輸血後副反応8つ
それぞれの輸血後副反応の発症時期や症状を理解しておきましょう。
表輸血後副反応の発症時間目安と症状
※太字は該当副反応時の必須症状で、それ以外は随伴症状
日本輸血・細胞治療学会「輸血副反応の診断項目表」より引用改変
副反応 | 発症時間目安 ※輸血開始後 |
症状 |
---|---|---|
急性溶血 | 輸血直後~24時間以内 |
●発熱(38℃以上・輸血前から1℃以上上昇) |
遅発性溶血 | 1~28日以内 |
●発熱(38℃以上・輸血前から1℃以上上昇) |
重症アレルギー反応 (アナフィラキシー反応) |
輸血直後~24日以内 |
●血圧低下(収縮期血圧≧30mmHgの低下) |
輸血関連急性肺障害(TRALI) | 6時間以内 |
●呼吸困難(チアノーゼ、喘鳴、呼吸状態悪化など) |
輸血関連循環負荷 |
6時間以内 |
●呼吸困難(チアノーゼ、喘鳴、呼吸状態悪化など) |
細菌感染症 | 4時間以内 |
●発熱(38℃以上・輸血前から1℃以上上昇) |
輸血後GVHD | 1~6週間 |
●発熱(38℃以上・輸血前から1℃以上上昇) |
輸血後紫斑病 |
5~12日 |
●出血斑 |
呼吸困難の症状が出る「TRALI(トラリ)」と「TACO(タコ)」は、聞きなれない用語かもしれませんが、輸血の副反応としては有名かつ重要ですので、覚えておきましょう。
よく使われる血液製剤
よく使われる赤血球製剤、新鮮凍結血漿、血小板製剤、アルブミン製剤の4つを紹介します。
日本赤十字社から払い出される血液製剤は放射線照射を行っているもの、行っていないものがあります。
1 赤血球製剤(RBC)
2 新鮮凍結血漿(FFP)
新鮮凍結血漿のバッグは凍った状態では非常にもろく、少しの衝撃でも破損しやすいため、落としたりぶつけたりしないように注意しましょう。
また、電子レンジでの融解はNGです。
ビニール袋に入れたまま、恒温槽やFFP融解装置を用いて30~37℃の温湯にて融解します。
3 血小板製剤(PC)
★point★
血小板は静置保存したままにすると、血小板の代謝によって生じる乳酸によりpHが低下し、品質が低下します。そのため、振とう保存(揺り動かしながら保存)をしなければなりません。
輸血中は振とうする必要ありません。
★point★
スワーリングとは、血小板の状態が良好に保たれているときに見られる、渦巻き状のパターンです。蛍光灯などにかざしながら確認しましょう。
細菌の混入や不適切な保管でスワーリングが消失することがあります。そのような場合は使用しないで輸血部門へ報告しましょう。
スワーリングあり(写真:日本赤十字社)
スワーリングなし(写真:日本赤十字社)
4 アルブミン製剤
アルブミンは瓶に入っているため、空気針を使用しましょう。
まとめ
輸血は、唯一、看護師が最終実施者となる「臓器移植」です。
輸血において看護師は、輸血医療の最終ステップである「輸血製剤の投与実施、そして投与中~投与後の観察」を担い、輸血の安全性を担保する最後の砦として求められるものが大きくなっています。
安全な輸血の実施に取り組んでいきましょう。
編集:看護roo!編集部 坂本朝子(@st_kangoroo)
参考図書
- 1)日本赤十字社血液事業本部技術部学術情報課.輸血情報2208-177.日本赤十字社.(2022年12月1日閲覧)
- 2)輸血情報.平成25年.日本赤十字社.
- 3)輸血副反応の症状項目.日本輸血・細胞治療学会.(2022年12月1日閲覧)
- 4)輸血副反応の診断項目表.日本輸血・細胞治療学会.(2022年12月1日閲覧)
- 5)医薬品情報.日本赤十字社.(2022年12月1日閲覧)
- 6)(照射)赤血球液-LR「日赤」の有効期間変更のお知らせ.日本赤十字社(2023年1月6日閲覧)
- 7)厚生労働省医薬・生活衛生局.血液製剤の使用指針.平成31年3月,厚生労働省.(2022年12月1日閲覧)
- 8)輸血療法の実施に関する指針.平成31年3月,厚生労働省医薬・生活衛生局.
- 9)輸血関連書式例(同意書など).輸血・細胞治療参考資料.日本輸血・細胞治療学会.(2022年12月1日閲覧)
- 10)輸血用血液製剤取り扱いマニュアル.2019年12月改訂版.日本赤十字社.(2022年12月1日閲覧)
- 11)学会認定・臨床輸血看護師制度カリキュラム委員編.看護師のための臨床輸血 学会認定・臨床輸血看護師テキスト.第3版.中外医学社,2022,144p.
- 12)大久保光夫ほか.よくわかる輸血学.第3版.羊土社,2018,207p.
- 13)岩尾憲明.看護現場の疑問にこたえる Q&Aでわかる 輸血ケア.医歯薬出版,2018,132p.
- 14)村上美好監.写真で分かる輸血の看護技術 輸血療法を安全に、適正に実施するために.インターメディカ,2008,100p.
- 15)大阪顯通編著.実践! 輸血療法Q&A.中外医学社,2021,174p.
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