中国の研究者「ゲノム編集で女児誕生」と発表|ヒトゲノム編集の国際サミットでの講演内容を詳報

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久保田文=日経バイオテク

 

中国Southern University of Science and Technology(南方科技大学)の研究者であるJiankui He(賀建奎)准教授は、2018年11月28日、香港で開催されている第2回ヒトゲノム編集に関する国際サミット(Second International Summit on Human Genome Editing)で講演。

 

 

ゲノム編集技術であるCRISPR/Casを用いて、CCR5遺伝子に欠失変異を誘導した2個の受精卵から、2人の女児が生まれたと主張した。さらに現在、ゲノム編集した別の受精卵を移植した女性が、妊娠している可能性があるという。

 

これまでの研究から、HIVが感染する際の共受容体であるCCR5遺伝子に、32塩基の欠失変異(CCR5-Δ32)を持つホモ接合体のキャリアでは、HIVが感染しにくく、感染しても予後が良好であることが分かっている。

 

そこでHe准教授は、出生後にヒト免疫不全ウイルス(HIV)に感染しないようにするため、男性(父親)がHIV感染者で、女性(母親)は非感染者の夫婦を対象として、CRISPR/Casを用いて、CCR5遺伝子に32塩基の欠失変異を人為的に導入した受精卵を作製。受精卵を女性に移植して、子どもを出生させる臨床試験を立案したと説明した(詳細は末尾別掲記事)。

 

講演後の質疑応答では、今回の臨床試験の意義を問う質問が相次いだ。男性(父親)がHIV感染者で、女性(母親)が非感染者であっても、HIVに感染せずに子どもを出生したり、HIVの感染を防ぐ方法は他にあるためだ。

 

それに対してHe准教授は、「CCR5遺伝子がよく研究されており、自身の経験から感染者の多い村などに生まれた子どもは(出生時に感染していなくとも、その後)高い確率でHIVに感染するため、ワクチンも無い中で予防が必要だと考えた」と説明。

 

ただし、「私はエンハンスメント(増強的介入)には反対だ」とも発言し、今回の臨床試験がエンハンスメントではないとの認識を示した。

 

質疑応答では、臨床試験の実施するに至ったプロセスの不透明さや患者からの同意取得の在り方について指摘する質問も多く出た。

 

He准教授は、「米国や中国の専門家による審査を受けた」、「非公式に2時間、公式に1時間、2回にわたって説明を行い完全な同意を得ている」などと説明したものの、秘密裏に臨床試験を実施した理由については明らかにならなかった。

 

質疑応答では他にも、広く免疫系に関与するCCR5遺伝子を編集したことで、ウエストナイルウイルスなどの感染リスクを高めたり、など全身に悪影響を及ぼしたりする可能性を指摘する質問もあった。

 

ただ、He准教授は「長期にわたって2人のモニタリングを行う予定だ」などとするにとどまり、そうしたリスクに対する見解は示されなかった。

 

He准教授によれば、今回の臨床試験は在籍していた大学の研究費や自らの研究費で賄っており、公的資金や民間企業からの支援は受けていないという。

 

被験者の夫婦に対しては、医療費以外、謝礼などの支払いもしていないという。

 

今回の臨床試験について、He准教授は「多くの子どもが救える技術であり、実施できたことを誇りに思っている。もし私が今回の夫婦と同じ立場なら、まず1番に試すだろう」とコメント。

 

現在、He准教授は執筆した論文を複数の論文誌に投稿中だという。

 

国際サミットに参加した、ゲノム医学研究センター遺伝子治療部門門長の三谷幸之介教授は、「CCR5遺伝子を選んだことについて、説得力のある説明もなく、その悪影響も考慮していない。重篤な遺伝病の遺伝子を直したわけでもなく、CCR5遺伝子ノックアウト人間を作る人体実験だ。治療というよりエンハンスメントのカテゴリーとも言えるのではないか」と臨床的意義がないことを指摘。

 

実施までのプロセスについても、「He准教授はしかるべき機関の倫理審査を受けたようなことを言っていたが、その過程があいまいで、研究者の意向が影響しそうな形で同意も取られている。その上、『臨床試験はもう止める』といった言葉もなく、今後についても非常に心配である。オフターゲット変異が全く生じていなかったというHe准教授の説明に、『それならばよかった』という雰囲気になるのも恐ろしい」と話し、多くの点で疑問や不安の残る講演だったと振り返った。

 

今回の臨床試験に関しては、He准教授が臨床試験の実施施設として研究室のウェブサイトに公表している、中国深センのHarMoniCare Shenzhen Women's and Children's Hospitalが、一部報道で臨床試験の実施を否定するなど、実施医療機関も明確になっていない状況で、本当に実施されたのかどうかも不透明。

 

一部報道によれば中国政府は、ヒトの受精卵の取り扱いを定めた指針に違反している疑いがあるとして、本格的に調査に乗り出す方針だ。

 

JiankuiHe准教授、「オフターゲットの発生は認められず」


He准教授は、CCR5遺伝子に32塩基の欠失変異を誘導するに当たり、過去に作製され、良好な結果が得られたgRNAを参考にgRNAを設計。マウス、カニクイザルの受精卵などを使った前臨床試験を実施し、重篤なオフターゲットは生じないと確認。その上で、臨床試験を実施した。

 

臨床試験の対象は、エイズウイルス(HIV)に感染しかつ臨床的に安定している男性(父親)と、HIV非感染の女性(母親)から成る中国の夫婦。対照年齢は22歳から38歳。

 

臨床試験の実施に際しては、米国の倫理や生物学を専門とする研究者や、中国科学院(Chinese Academy of Sciences)の研究者など2段階で審査を受けた上で、開始したとしている。

 

He准教授によれば、臨床試験には完全な同意を得た8組の夫婦を組み入れ、その後、1組が脱落。7組の夫婦から、31個の受精卵にゲノム編集を実施した。ゲノム編集できた確率は70%程度だったという。

 

その上で、着床前診断(PGD)として、受精卵から3細胞から5細胞を採取して、次世代シーケンサー(NGS)を使った全ゲノムシーケンス、サンガーシーケンスを実施し、オンターゲットにより、標的遺伝子が編集されているか、重篤なオフターゲット、大きな遺伝子の欠失が生じていないかなどを確認。

 

1組の夫婦由来の2個の受精卵を、女性(母親)の子宮に移植し、2人の女児(双子)が出生した。「女児は2人とも健常に生まれ、健康だ。今後、18年間モニタリングを行う」(He准教授)という。

 

妊娠中は、3回にわたり、出生前診断として母体血に含まれる胎児由来のcell-freeDNA(cfDNA)を採取。NGSのパネルを用いたシーケンス、609個の癌遺伝子を標的としたultra-deep sequenc-ingを実施し、オフターゲット、オンターゲット、癌遺伝子の状態などを調べた。

 

出生後は、臍帯血、へその緒、胎盤を採取し、NGSのパネルを用いたシーケンス、全ゲノムシーケンス、サンガーシーケンスで、ゲノム編集の効果などを確かめた。He准教授によれば、2人の女児にオフターゲットによる新たな変異の発生は認められなかったという。

 

なお、標的となったCCR5遺伝子の欠失変異については、1人がホモ接合体、もう1人はヘテロ接合体だったとみられる。

 

今回被検者として臨床試験に参加し、女児を得た夫婦は、HIV感染者の有志団体に所属。被験者登録に際しては、関係者同席の下、2度にわたり、He准教授らが説明を行った。

 

具体的には、臨床研究について説明した資料を渡した上で説明を行い、質問にも応じて完全に同意を得たという。

 

He准教授は「夫婦は、きちんと教育を受けており、臨床試験のリスクもベネフィットもよく理解している」と話していた。さらに現在、被験者となった別の夫婦由来の受精卵を移植した女性が妊娠している可能性があるという。

 

なお、He准教授からは、今回の臨床試験を中止する主旨の発言はなかった。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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