将来の懲戒処分リスクが高い医学生の行動とは|これってコンプライアンス違反?医学生の問題行動
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態度面で問題行動のある医学生は、そうではない学生に比べて、医師になってからコンプライアンス違反などで懲戒処分を受けるリスクが3倍も高まるという。
そうした言動を評価した上で、医学生のうちから法令、社会規範について個別に指導しようとする動きが出てきている。
では、「アンプロフェッショナルな行動」と称される問題行動とはどんなものなのか――。
この領域の第一人者である京都大学医学教育・国際化推進センターの錦織宏氏に、日本の現状を聞いた。
――先生方が「アンプロフェッショナルな行動」に注目されたのはなぜですか。
錦織:私も指導医として経験がありますが、市中病院などで研修している研修医の中には、このまま医師を続けていっていいんだろうかと心配になる人がいます。また以前、研修管理委員会などで、問題を起こした研修医について「こんなの医者にしちゃだめだよ」という発言を聞いたこともありました。でも、「こんなの」という判断基準はあいまいなのです。そこで、系統的に評価して指導していくためにはどうしたらよいのか、という視点で研究に取り組んでいます。
――あくまでも教育的観点からの研究ということですね。
錦織:そうです。医学教育のテーマの1つである、プロフェッショナリズムとも表現される態度面の教育を、より良いものにすることが目的です。
問題行動を指摘しても改善が見られない
――先行研究からは、どのような知見が得られていますか。
錦織:まず、2005年のPapadakisの研究があります(N Engl J Med.2005;353:2673-82.)。これは、アンプロフェッショナルな行動の評価の研究では必ずと言ってよいほど取り上げられる論文です。
米国の臨床実習における観察記録と医師のプロフェッショナリズムに関する研究の結果、指導医から「無責任」あるいは「自己改善能力が低い」と評価された学生は、そうでない学生に比べて、卒業後にアンプロフェッショナルな行動によって懲戒処分を受ける確率が3倍も高かったことが報告されています。
――3倍ですか。高いですね。
錦織:こうした論文を機に、アンプロフェッショナルな行動や態度を示す医学生や研修医に対する評価と指導が、近年、医学教育の研究で注目されるようになりました。我々は、こうした先行研究を探索し、それによって明らかになった知見をまとめて、日本医学教育学会で発表しました。例えば、先ほどのPapadakisの論文では、アンプロフェッショナルな行動をカテゴリー別にまとめています(表1)。
表1 アンプロフェッショナルな行動のカテゴリー
■欠席・遅刻するなど責任感がない
■看護師との人間関係に問題がある
■指摘しても改善が見られない
■患者や家族との人間関係に問題がある
■未熟
■不安や緊張感に伴うアンプロフェッショナルな行動
■他の学生・研修医や教員との人間関係に問題がある
(出典:Disciplinary Action by Medical Boards and Prior Behavior in Medical School. N Engl J Med.2005;353:2673-82.)
――人間関係に問題があるケースが目立ちますね。
錦織:現代的な問題としては、ソーシャルメディアに関連するものがあります。米国の996人の外科研修医のフェイスブックを検索したところ、39人(12.2%)が明らかにアンプロフェッショナルな内容を投稿していたという報告もあります(Education.2014;71(6):e28-32.)。
――12%というのは多い。
錦織:アンプロフェッショナルな行動のレベルも整理されてきています(表2)。問題点の指摘や指導に対して、受け入れるのかどうか。変わろうとする意志が見られるのかどうかなどで、3段階に分けられています。
表2 アンプロフェッショナルな行動のレベル
Class1:規則に従わない。フィードバックすると誤りであることを認める。改善のため自分で助けを求める。
Class2:実習に積極的に参加せず、しばしば欠席する。コミュニケーションも不足している。フィードバックをすると異なる視点と捉える。変わろうとする意志はある。
Class3:対人コミュニケーションやチームワークに問題がある。他者から得られた情報を理解していない。敬意を持って他者に接していないことに、本人は気付いていない。フィードバックを受け入れられない。
(出典:Distinguishing Three Unprofessional Behavior Profiles of Medical Students Using Latent Class Analysis.Academic Medicine.2016;91(9):1276-83.)
臨床実習の学生の行動を観察
――こうしたアンプロフェッショナルな行動を評価する仕組みはあるのでしょうか。
錦織:例えばニュージーランドのオークランド大学では、指導医が自由記載で報告する方式で運用しています。自由記載に加えて、問題行動を「軽微」「問題あり」「重大な問題あり」の3段階で評価しているのが特徴の1つです(Med J.2014;127(1405):70-7)。
――どのような結果が出ているのでしょうか。
錦織:2005年から2013年に157件の報告がありました。そのうちアンプロフェッショナルに関する問題は137件でした。
――8年間で137件ですから、年間17件ほどの頻度です。
錦織:17人の学生で2件以上の報告があり、そのうち2人が退学しています。退学という結果は、当然、指導があった上でのことです。
――こうした研究の知見を踏まえ、先生方は日本国内でアンプロフェッショナルな学生の評価を実施されています。
錦織:京都大学では2014年から、アンプロフェッショナルと考えられる学生の評価を運用しています。まず、アンプロフェッショナルな学生の定義を決めました。それは「診療参加型臨床実習において、学生の行動を臨床現場で観察していて、特に医療安全の面から、このままでは将来患者の診療に関わらせることができないと考えられる学生」としました。
――運用方法はどのようなものですか。
錦織:指導医が任意に記入する報告書のフォーマットを定め、対象の授業は、臨床実習に限定しました。報告は自由記載の形式です。診療におけるインシデントリポートに近いイメージです。図1は、文部科学省の定める医学教育モデル・コア・カリキュラム(以下、コアカリ)に掲載されているものです。
図1 提出用のフォーマット |
――報告があった場合のその後は。
錦織:これもコアカリに掲載されている内容を引用しながら説明します。まず、大学の臨床実習倫理評価小委員会の委員長が、「精神疾患の可能性」と「問題の重大性」について検討します。情報は医学生のメンターとも共有します。検討の結果、前者であれば、委員長あるいは精神科の委員が面談して精神科などを受診するよう指導します。
後者については、異なる2つの診療科から2枚(2件)以上の報告があった場合、同委員会による指導を行います。異なる3つの診療科から3枚(3件)以上の報告があった場合は、原則としてそれまでの臨床実習の合格を取り消すことになります。
――日本で明らかになった医学生のアンプロフェッショナルな言動は、どのようなものでしょうか。
錦織:表3が具体的なアンプロフェッショナルな医学生の例になります。これまでに国内外の大学医学部においてアンプロフェッショナルと評価された行動などを参考に、あくまでも評価をする際に参照する目的で作成したものです。ですから、京都大学医学部医学科に、このような学生が在籍しているというわけではないことにはご留意ください。
表3 アンプロフェッショナルな医学生の例
【事例1】初日の集合時間(朝9時)に、連絡なく大幅に遅刻して午後(13時)にしか出てこなかった。さらに、以後毎日、病院の職員が学生宿舎まで迎えに行かなければ、実習に出てこなかった。
⇒診療チームの一員としての責任感の問題
【事例2】診療チームの一員として、毎朝、担当患者さん(1名)を回診して、9時からの指導医回診でその状況を報告する役割を与えているが、全く患者さんのところに行かないばかりか、指導医回診で虚偽の報告を行った。
⇒診療チームの一員としての責任感+誠実な行動の問題
【事例3】臨床実習にほとんど出席せず、遅刻した症例発表会での発表内容、症例報告レポートの内容が非常に乏しかったため、追加レポートを求めたところ、真夜中に病棟に現れて、カルテのプリントアウトを大量に行った。プリントアウトの最中にナースステーション内でゲームをしていたため、夜勤の看護師が指摘したところ、素直に従わないどころか、「看護師のくせに偉そうなことを言うな」と逆ギレした。
⇒診療チームの一員としての責任感+知識・技能の向上に対する努力+他職種との協働+患者に関する情報の守秘義務の問題
【事例4】実習中にどこで何をしているのか分からない上に、PHSで連絡をしてもつながらない。なんとか見つけだして担当患者さんの病状説明(癌の告知)に同席させたところ、居眠りをしてしまい、患者さんが激怒した。
⇒診療チームの一員としての責任感+患者さん/家族に対する態度の問題
【事例5】実習中に、連絡なく欠席・遅刻を繰り返した。最終日に、レポートの内容が乏しいことを指摘すると、ふてくされた態度になった。無断欠席・遅刻に関して医学生としてふさわしくないことを伝えると、謝るどころか、無言のままでプイとそっぽを向いて部屋を出て行った。
⇒診療チームの一員としての責任感+知識・技能の向上に対する努力+指導医/教員の指摘を受け入れる姿勢の問題
【事例6】指導医・他の医療スタッフに対して、基本的な挨拶(おはようございます、ありがとうございました、すみません、など)が全くできず、また十分なコミュニケーションもとれない。担当患者さんに対しても同様の態度であったため、患者さんからクレームが来た。そのことを学生に伝えると、「あんな患者は○○病院に来なくていい」と言い出した。
⇒患者さん/家族に対する態度+指導医/教員の指摘を受け入れる姿勢+礼儀と基本的な挨拶
【事例7】臨床実習で担当した外国人の患者から、担当学生の態度がよくないとのクレームがあった。これを学生に伝えたところ、「こんなことで文句言うなんて絶対おかしい。あいつら○○人って、やっぱり、価値観、変」と、ナースステーションで、患者さんに声が聞こえることも気にせずに大声で叫んだ。
⇒患者さん/家族に対する態度+社会的カテゴリーに基づく差別
【事例8】ツイッターに「○○病院の呼吸器内科で実習中なう。めっちゃまれな○○病の患者さんの担当になったので勉強が大変(> <)。でも若い女の子(しかも家が下宿の近所!)なのでいつも以上に頑張っています!」とツイートし、さらにはフェイスブック(自分の下宿の住所が閲覧可能)に友達限定で同じ内容をレントゲン写真つきでアップした。
⇒患者に関する情報の守秘義務の問題
【事例9】ある勉強会に参加したところ、製薬会社が後援しており、とても高価な弁当をごちそうになった。以後、製薬会社の後援する弁当付き勉強会に診療科を問わず全て出席した。さらに、どの製薬会社がどの程度の値段の弁当を提供しているかについてのランキング表を写真付きで作り、「こんな弁当がただで食べられるなんて、やっぱ医者ってすげー。でも○○製薬さんにはもうちょっと頑張ってもらわないとね」とのコメントをつけて自身のブログにアップした。
⇒利益相反による弊害
【事例10】一緒に住んでいる甥が3日前に病院でインフルエンザと診断された。昨日から自分も熱が出てきたが、次の実習先の診療科は厳しいとの評判を聞いていたので、休まずに臨床実習に出席し、担当患者さん(免疫抑制状態)のベッドサイドに毎日足を運び、看護師とのカンファランスにも積極的に出席した。「熱っぽいの?大丈夫?」と指導医に言われたが、「大丈夫です」とだけ答えた。
⇒院内指針の遵守の問題
【事例11】○○診療科では、毎朝、担当患者を診察して、その内容をカルテに記録し、指導医に内容を確認してもらうことになっていた。ある日、寝坊して、朝、病院に行けなかった。指導医にはたまたま(寝坊したことが)見つからなかったが、患者さんは検査に行ってしまって、朝の回診はできなかった。その診療科の教授がとても怖いという評判だったので、電子カルテの記載時間を修正して(調整して)、午前中に診察したかのように電子カルテに記録した。
⇒不正行為への関与
【事例12】朝のカンファレンスにギリギリにやってきたかと思えば、寝ぐせだらけの頭に無精髭、ダメージジーンズ、裸足にクロックス、実習が始まってから1回も洗濯に出していなさそうな白衣を羽織って前のボタンも留めずに現れた。患者さんやスタッフから苦情が来たため、服装を正すように本人に伝えたが、本人は気にしている様子は全くなく、実習中、ずっと同じような格好で病棟に現れた。
⇒服装+指導医/教員の指摘を受け入れる姿勢の問題
(注)以上の例は、これまでに国内外の大学医学部においてアンプロフェッショナルと評価された行動などを参考に、あくまで評価をする際に参照する目的で作成したもの。京都大学医学部医学科にこのような学生が在籍しているというわけではない。
――守秘義務の違反や不正行為の例もありますが、その一方で軽微なものも散見されます。
錦織:事例によって重大性に濃淡がありますが、こうしたアンプロフェッショナルな事例を「見える化」できたことが、大きな成果だと思っています。
――京大のアンプロフェッショナルな学生の評価方法は、他の大学にも広がり始めているようです。
錦織:我が国においては、医学部の入試、医学部での試験、さらに医師国家試験や専門医試験など、いずれのプロセスにおいても、プロフェッショナルとしての態度の総括評価は行われていません。その一方で、臨床現場に「この人、医者としてどうなのだろう?」と思わざるを得ない医師が存在するのも事実です。
ではどうすればいいのか――。我々が行っているアンプロフェッショナルな学生の評価は、その「解」を見出すための第一歩になればいいと考えています。
<掲載元>
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