4月から有給取得義務化、あなたの職場は大丈夫?|残業規制だけではない「働き方改革」
【日経メディカルAナーシング Pick up!】
服部 英治(社会保険労務士法人名南経営)
働き方改革関連法が2018年6月に成立し、マスメディアで働き方改革についての記事や、それを商機にしようとするシステム会社の広告を目にすることが多くなった。
働き方改革では、長時間労働の抑制を軸に今までの働き方を抜本的に変えていくことが求められるが、中でも「労働時間の上限規制」(残業規制)と「年次有給休暇5日間の取得義務化」への対応は急務となっている。
このうち残業規制については、医師は、改正法施行後5年間は規制の対象外とされている。これに対し「年次有給休暇5日間の取得義務化」は、医師を含むすべての職種につき、2019年4月から実施される。
有給の取得義務化は、年次有給休暇が10日以上付与される職員に対して、付与日から1年以内に5日間取得させることを義務化するものである(「付与日」の考え方については後述する)。
スタートまで残り数カ月となり、今のうちから対応策を検討しておかなければならないのだが、働き方改革では残業規制の方が大きくクローズアップされていることもあり、十分な知識や情報を得ていない医療機関や事業所は少なくない。
中には誤った認識を持っているケースもあり、正しい知識を有して運用をしなければ現場が混乱する恐れもある。そこで本稿では、年次有給休暇の取得に関し、今改正への対応のポイントを紹介したい。
職種や常勤・非常勤にかかわらず適用
年次有給休暇の取得義務化の対象者は、年次有給休暇が10日以上付与される職員全てとなる。医師、看護師といった職種は問わず、パートタイマーであっても、年次有給休暇が10日以上付与される人は対象となる。
法律上は、正職員では勤続6カ月以上であれば10日以上付与することが義務付けられ、パートタイマーでは勤続期間と週所定労働日数が一定の基準を満たす場合に、年次有給休暇の付与が義務付けられている(表1)。
パートタイマーの場合、1週間に3日以上勤務している人であれば、勤続期間によっては今回の義務化の対象となる。
表1 労働基準法上の年次有給休暇の付与日数 |
付与のパターンは、大きく分けて次の3つがある(図1参照)。
図1 年次有給休暇付与の3つのパターン |
(1)職員本人の申請による取得
まず、職員自身が年次有給休暇の取得日を決め、自らの申請によって取得するパターンがある。これにより5日間取得するのであれば、以下の(2)(3)の形で使用者が別途、取得させる必要はない。
(2)使用者側からの時季指定による取得
職員自身が業務多忙のため取得日を決めることが困難と考えられる場合には、使用者側が時季を指定して取得してもらうことになる。
仮に職員が自ら申請し、3日間取得していれば、残りの2日間は使用者側の指定によって取得してもらうといった具合だ。その際、使用者側が「〇月〇日に取得してください」と時季を指定することも可能だが、あらかじめその旨や時季について職員に伝えて意見を聞くことが必要となる。
(3)労使間の協定に基づく計画的付与
年次有給休暇は、あらかじめ労使によって協定書を締結することで時季を定めて計画的に取得してもらうこともできる。これは、年次有給休暇の計画的付与といわれる方法で、以前から制度上、認められている。各職員や部門ごとに、日を決めて取得してもらう方法である。
なお、人手不足などを理由に、年次有給休暇を5日間取得させないことは認められない。法改正への対応を無視するような行為が見られれば、罰則の適用(30万円以下の罰金)を受ける可能性がある点に注意しなければならない。
また、年次有給休暇として事前申請をしたものの、業務が多忙で当日に出勤せざるを得なくなったような場合、この「5日間」にはカウントできないため注意したい。
まずは現在の取得状況の確認から
2019年4月からの運用開始を前に、各職場の管理者がまず行っておきたいのが、現状の年次有給休暇の取得状況の把握だ。
様々な部門がある場合は、部門によって取得率が大きく異なっていないかをチェックしておきたい。ばらつきがあれば、例えば取得率が高い部門では職員自身による時季指定を優先し、取得率が低い部門では計画的付与とするなど運用方法を変えることも選択肢となる。
実際に運用する際、ポイントの1つになるのが「付与日」(基準日)の管理だ。冒頭に述べたように、今回の改正は、年次有給休暇の「付与日」(基準日)から1年以内に5日間取得させることを義務化するものである。
前掲の表1に示したように、正職員、パートタイマーを問わず、年次有給休暇は新規採用後6カ月が経過した時点から付与され、その日が基準日となる。そのため、中途採用者が多い医療機関では、各スタッフの基準日が異なり、管理が煩雑になりやすい。
そのため、管理の簡素化を目的として、新制度のスタートに合わせて全職員の基準日を4月1日とする方法を検討している施設もあるかもしれない。しかし、基準日を統一する場合、基本的に付与を前倒しすることになり、不公平感が生じやすい点に注意しなければならない。
例えば、1月10日に入職した職員は、本来であれば7月10日から年次有給休暇が付与されるが、付与日を統一させるためにその3カ月前の4月1日から付与すると、他の職員が「そんなに早くから有給を取らせるのか」と不満に思う可能性がある。
管理が簡素化され、かつ不公平感が生じにくい方法として、月の途中に入職したとしても管理上はその月の1日に入職したものと見なす手法がある。これだと、例えば同じ月の1日と10日に入職した職員がいても基準日はともに1日となるため、管理業務の効率化につながる。中途採用者が大半を占める医療機関では、こうした方法を取り入れてもよいだろう。
また、今回の義務化に伴って、年次有給休暇の管理簿を作成し3年間保存することが新たに求められる。この管理簿にはスタッフ別に基準日、付与日数などを記載することが必要となる。
これから2019年3月ごろにかけて、給与システムや勤怠システムに機能が追加される可能性があるため、各医療機関のシステム担当者は、現状のシステムで対応可能かどうかシステム会社に確認するとよいだろう。
仮にシステム上の対応がないとしても、労働局などのウェブサイトで管理簿のサンプルが続々と公開されると思われ、そちらを参考にして運用できるようにしておくとよいだろう。
スムーズに取得できるよう工夫を
前述のように、年次有給休暇の付与には
(1)職員本人の申請による取得
(2)使用者側からの時季指定による取得
(3)労使間の協定に基づく計画的付与
の3つのパターンがあるが、このうち(2)(3)では、設定日によっては労働条件がむしろ悪くなり、職員から不満が出ることも考えられる。
例えば、年次有給休暇とは別に、「特別休暇」として夏季休暇を設定してきた事業所は少なくない。こうしたケースで4月以降、それまで特別休暇としていた日を年次有給休暇として消化してもらう形に変更すると、本来有していた特別休暇が存在しなくなるため労働条件はマイナスに改定される。
こうした変更は、労働条件の不利益変更といわれ、労働契約法第9条では、労働者との合意を伴わない不利益変更を禁止している(第10条に例外規定あり、図2参照)。
図2 労働契約変更の際の注意点(厚生労働省資料から引用) |
年次有給休暇の取得日を決める際、無床診療所であれば、特定の日に全員一斉に取得してもらう方法も取り得るが、当日を休診とする分、診療所の収入が減少してしまう。そのため、各スタッフがそれぞれ異なった日に取得してもらうようにするが現実的だろう。
休みやすい環境を整えるために、職員自身の誕生日またはその前後の日に休暇を取得してもらう「バースデイ休暇」や、子の運動会、授業参観日などに休んでもらう「家族イベント休暇」、あるいは自身が入職した日を記念する「入職記念日休暇」を設けるなど工夫を凝らすと年次有給休暇の取得が進み、かつ求人の際のPR材料になるため一石二鳥ではないだろうか。
医療機関における年次有給休暇の取得状況を見ると、そもそも取得することが風土となっている医療機関か、人手不足を背景にほとんど取得が進んでいない(取得率が低い)医療機関か、両極端の印象を受ける。
特に後者の医療機関では、年次有給休暇の管理が煩雑になる上、対象者がしっかり有給を取ると人手不足になりかねないとして、今回の義務化への対応に消極的なケースも少なくない。
しかし、年次有給休暇の取得率の高い医療機関では、職員の定着率が高かったり、人材確保面で有利になるなど、経営的にもプラスになることを理解しておきたいところである。
労働力人口がさらに減少することは様々な統計データからも明白であり、今回の改正に消極姿勢を貫くのではなく、将来を見据えて早々に対応の波に乗ることが得策ではないだろうか。
【著者プロフィール】
服部英治●はっとり えいじ氏。
社会保険労務士法人名南経営および株式会社名南経営コンサルティングに所属する社会保険労務士。医療福祉専門のコンサルタントとして多数の支援実績を有する。
<掲載元>
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