「高血圧治療ガイドライン2019」の骨子明らかに|高血圧の基準値は下げず早期からの積極介入強調
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来春の発表に向け、我が国の「高血圧治療ガイドライン2019」(JSH2019)の編集作業が佳境を迎えている。この9月に開催された日本高血圧学会では、基準値を140/90mmHgに据え置きつつも、早期からの生活習慣改善など積極介入を強調した草案が提示された。
降圧効果に優れる多様な降圧薬が登場しているにもかかわらず、高血圧患者の多くが、いまだに降圧目標を達成していない─―。
世界的に問題になっている、こうした「Hypertension Paradox」と呼ばれる状況を打破すべく、ここ1~2年に改訂された欧米の高血圧ガイドラインでは、早期からの積極的な介入をより強調した。
2017年に改訂された米国のガイドライン(ACC/AHA2017)では、ランダム化比較試験(RCT)だけでなく観察研究の結果も加味して、高血圧基準値を従来の基準より収縮期血圧・拡張期血圧ともに10mmHg低い130/80mmHgに引き下げた。
患者数が激増するという批判を承知の上での判断は、生活習慣改善を中心とした早期からの積極介入により、さらなる血圧上昇を食い止めようという狙いがある。実際、130~139/80~89mmHgで心血管イベントのリスクが一定以下なら、推奨される治療は薬物治療ではなく生活習慣改善だ。
また今年8月に改訂版が正式発表された欧州のガイドライン(ESC/ESH2018)では、基準値は140/90mmHgに据え置いたものの、降圧目標は原則130/80mmHg以下に設定。薬物治療の対象患者に対しては初期から降圧薬2剤の併用療法を推奨するなど、目標血圧への達成率を高める方針を打ち出した。
Hypertension Paradoxは我が国でも大きな問題で、4300万人とされる高血圧患者中、治療目標を達成している患者は1200万人という。それだけに、JSH2019ではどのような方針を提示するのか、注目されていた。
基準値は140/90mmHgを維持
そのJSH2019の草案が、第41回日本高血圧学会総会(9月14~16日、開催地:北海道旭川市)で発表された。
高血圧の基準値は140/90mmHgから変更せず、I~III度の高血圧の分類も従来通りだが、140/90mmHgより低い血圧区分について、定義の一部変更を提案した(表1)。
JSH2019作成委員会委員長を務める梅村敏氏(横浜労災病院[横浜市港北区]院長)は、「現行のガイドラインであるJSH2014と同様、降圧薬による心血管リスク抑制効果を検証したRCTの結果を重視し、高血圧基準値は変更しない方針とした」と話す。
一方、140/90mmHgより低い血圧区分について、JSH2014では130~139/85~89mmHgを「正常高値血圧」と定義していたが、JSH2019案では130~139/80~89mmHgを「高値血圧」とした。
梅村氏は「高血圧に分類されない範囲でも血圧上昇に伴うリスクは増大していることを示すため、JSH2014の『正常高値血圧』から『正常』の語を削除した。130/80mmHgを超えれば、もはや正常とは言えない血圧であり、多くの人に生活習慣改善に取り組んでもらうのが狙い」と説明する。
この変更に伴い、収縮期120~129mmHgかつ拡張期80mmHg未満が「正常高値血圧」、120/80mmHg未満が「正常血圧」となった。なお、一部の境界値は、関連学会など外部の意見聴取を踏まえて変更する可能性があるという。
表1 JSH2019案における血圧区分(血圧の単位はmmHg)
降圧目標は従来より一段低く
降圧目標は、合併症のない75歳未満の成人では、診察室血圧で130/80mmHg未満(家庭血圧では125/75mmHg未満)に引き下げた(表2)。
RCTのメタアナリシスによる、130/80mmHg未満への降圧が有意に予後を改善するとのエビデンスが根拠となった。また、75歳以上の高齢者は140/90mmHg未満、冠動脈疾患患者は130/80mmHg未満へと降圧目標を強化し、大部分の患者に対して従来より厳格な降圧を推奨した。
表2 日米欧の高血圧ガイドラインにおける代表的な降圧目標値(血圧の単位はmmHg)
JSH2019案では、いずれの血圧区分でも、まず生活習慣改善などの非薬物治療を行うとしている。特に、未治療で血圧が「高値血圧」にある場合、生活習慣改善の強化を推奨した。
なお、降圧目標は下げたが、一部の高リスク患者以外はJSH2014と変わらず140/90mmHg以上が薬物治療の対象となるため、降圧薬を新規処方される患者数が大幅に増加することはないとしている。
自動診察室血圧測定は採用せず
JSH2019案での血圧測定法は、従来通り家庭血圧を重視し、診察室血圧との結果が異なる場合は家庭血圧の診断を優先する。欧米の新しいガイドラインでも診察室外血圧重視の方針を打ち出したが、日本は既にJSH2014から提唱している。
また、120/80mmHg未満への積極的な降圧の有用性を示したSPRINT試験で用いられた自動診察室血圧測定(AOBP)は、採用しない見込み。
AOBPの評価を行ったSPRINT-Jパイロット研究の結果、同法の精度は従来の血圧測定法を上回らないことが判明(関連記事)。求められる測定環境の確保も難しいことから、我が国の実臨床で標準的な測定法として推奨するのは現状では困難と考えられたためだ。
今回提示されたJSH2019案について、自治医科大学循環器内科学教授の苅尾七臣氏は「より低い降圧目標を設定し、診察室外血圧を指標とする高血圧診療を浸透させる方向性は、実地診療にも生かしやすく、欧米のガイドラインとも共通する。
高血圧による影響が大きい脳卒中と心不全が多いアジアにおいて、高血圧管理指針のモデルにできるガイドラインとなるだろう」と評価する。
今後、年内に外部評価委員や関係学会の意見を聴取し、来年1月ごろにはパブリックコメントを募集することになっている。
梅村氏は「9月に提示したJSH2019案は、ガイドライン作成委員会内の議論に基づいたもの。外部からの意見聴取を踏まえて最終調整を行った上で、2019年春には公開する予定だ」と話す。
<掲載元>
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