入院再編で看護師の「売り手市場」に変化の兆し |ナースのための2018診療報酬改定【3】
「増えすぎたベッド数を減らす!」という方針が掲げられてきた「7対1病床」。
2018年4月からの診療報酬改定では、入院医療の枠組みが大きく再編され、これまで小幅な減少で推移してきた7対1の病棟がいよいよ減るかもしれないとも言われています。
気になるのが、これによって売り手市場が続いていた看護師の採用事情にも変化が生じる可能性があるということ。
再編のポイントを押さえながら、記事後半では、これからの看護師の採用動向についても考えてみます(「完全な売り手市場」は間もなく終了?)。
入院医療の再編 2018改定のポイント
1)入院患者の状態や提供する医療によって、3つの機能に整理される
2)入院に対する診療報酬は「基本部分」と「実績部分」の組み合わせで決まる
入院医療は3つの機能に整理される
今回の診療報酬改定で、入院医療の機能は次のように整理されました。
現行の一般病棟の入院基本料(7対1、10対1、13対1、15対1)は、「急性期一般入院基本料」と「地域一般入院基本料」の大きく2つに分かれることになりました。
※入院基本料=入院医療に対して病院に支払われる基本報酬のこと。看護師の配置数や医療機能などによって決まっています。
最大のボリュームゾーン「急性期一般入院基本料」
とりわけ注目なのが、急性期一般入院基本料。現行の7対1と10対1を統合した新しい入院料です。
7対1病棟は、日本の病院で最も届け出数の多い病棟。約89万床ある一般病床のうち、およそ4割(約37万床)を占めています。次に多いのが10対1病棟(約17万床、一般病床のおよそ2割)です。ベッド数だけでなく、急性期を担うこの2つの病棟には、入院患者7人あるいは10人に対して看護師1人と、看護師の数も手厚く配置されます。
出典:中央社会保険医療協議会総会(第347回)入院医療(その2)・PDF(厚生労働省)
つまり「7対1または10対1病棟に勤めている人」が看護師の中で最大のボリュームゾーン。それだけに看護師採用への影響も大きいというわけです。
急性期の看護配置は10対1がベースに
急性期一般入院基本料では、7対1と10対1の「中間」がつくられ、7段階の評価になりました。
病院に支払われる報酬は「基本部分」と「実績部分」の組み合わせに変更されます。
「実績部分」は、医療ニーズの高い重症患者をどれだけ受け入れているかによって7段階が設定され、「基本部分」に上乗せするイメージです。
ここで注意したいのが看護配置。最も高い「急性期一般入院料1」には現行と同じ7対1の基準が定められましたが、ほかの6つの入院料は10対1の看護配置でもいいということになっています。
7対1から10対1へ「階段」が増えて降りやすく…!?
中間のステップ(入院料2、入院料3)が増えたこと、そしてその看護配置が10対1に定められたことで、どんな変化が考えられるのでしょうか?
それは、7対1の病院が10対1に降りやすくなるということです。
「増えすぎた急性期、特に7対1病棟を減らしたい」というのが、2025年に向けた国の大方針。高齢化するにつれてニーズが減る急性期のベッドは削減し、代わりに必要になる回復期や慢性期、在宅医療にヒト・モノ(病床)・カネを回したいと考えています。
しかし、7対1病棟の削減はなかなか進んでいません。その原因の一つが、診療報酬の差です。
10対1病棟で重症患者を多く受け入れて「看護必要度加算3」を算定したとしても、患者1人当たりの入院料は7対1に比べて204点(2040円/日)低くなります。300床の病院でベッド稼働率80%と仮定すると、1日で50万円近い収入差。1カ月で約1500万円、1年では約1億8000万円の減収になるということです。
7対1から10対1に移行しても「すぐにリストラして人件費を削減」なんてできません。10対1に移行した場合の診療報酬の差は、病院経営にとって“大怪我”になりかねず、「なんとか7対1にとどまりたい!」と考える病院が多かったのです。
そこで「7対1の階段から降りるときの衝撃」を小さくすることで、「うちの病院は7対1(=入院料1)じゃなくてもいいかも…」と移行を誘導する――。これが、急性期の入院医療の再編の狙いです。
あなたの病院は当てはまる? 7対1から移行するのはこんな病院
7対1から「入院料2」などへの移行を考えるのは、どんな病院で、どのくらいあるのでしょうか。
病院経営をサポートするコンサルタント、船井総合研究所の北里淳さんは、そんな病院の特徴を次のように指摘します。
「看護師の採用環境も少しずつ変わってきている」と話す船井総研の北里さん
◆7対1からの移行を検討する病院の特徴◆
・看護師が集まらず、人員の採用・確保に苦心している
・「重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)を満たす患者の割合が基準ギリギリ
・2018改定で重視された認知症・せん妄の患者の受け入れが少ない
・平均在院日数を短縮してもベッドの稼働率を維持できるほどの集患力がない
急性期一般入院基本料を算定するのに必要な看護必要度の基準が、2018改定ではそこまで厳しくならなかったことから、北里さんは、「2018改定は7対1を一気に減らすというよりは、緩やかに転換を促すというメッセージ」と分析し、病院側も、まずは7対1で踏みとどまる方向に努力するだろうと見ています(ここが変わる「看護必要度」最速チェック! )。
それでも、7対1削減の大号令がかかっている以上、上の特徴に当てはまる病院が、この先もずっと7対1を維持し続けるのは容易ではありません。「この改定を機に、7対1からのダウンサイジングを検討する病院はかなりの数、出てくるのではないか」と予想します。
「完全な売り手市場」は間もなく終了?
そうすると、看護師の採用環境はどう変わるのでしょうか?
7対1(入院料1)から10対1(入院料2~7)に移行する病院が増えれば、当然、必要な看護職員数は減ります。
厚生労働省のデータによると、7対1病棟に配置されている看護職員は平均27.4人。一方、10対1病棟は22.6人でした。もちろん病棟のベッド数や重症患者の割合などによって変わりますが、ごくごく粗い計算だと、1つの病棟当たり約5人の看護職員が余ってしまうということになります。
人員整理をする場合、新規採用を原則ストップして自然減を目指すのが基本路線。つまり、「入院料2」や「入院料3」に移行する病院では、看護師の採用控えが起きる可能性が高くなります。
一方、「入院料1」を維持できる病院は体力のあるブランド病院が中心になり、急性期志向のナースが集中すれば、こちらも狭き門となるかもしれません。
全国の病院で“看護師争奪戦”を引き起こした7対1の看護配置が登場して12年――。
「現在のような完全な売り手市場から、状況は少しずつ変化していくと思います」(北里さん)。
これからの時代に求められる看護師のキャリアとは
急性期の代わりに注目されるのが、地域包括ケア病棟や回復期リハビリ病棟のほか、訪問看護ステーションなどの在宅分野です(『訪問看護師10年で倍増!追い風が吹く訪問看護、採用ニーズさらに拡大へ』)。
「これらは2025年に向けて充実が必要な分野だけに診療報酬も手厚く、病院経営者の関心が高まっています。訪問看護は依然として人手不足ですし、地域包括ケア病棟は一般病棟の13対1や15対1、療養病床からも転換するケースが出てきて、看護師の採用ニーズも生まれています」と北里さん。
さらには、「地域全体で看護師の異動を考える」という話が検討されている地域もあると言います。
たとえば、病床機能を変更したことで看護師が余剰になったA病院から、同じ地域で人手が足りない別法人のB病院に、看護師を出向させるというものです。
法人をまたいだ人材活用には給与や身分保障などのハードルがあるものの、地域包括ケアシステムの構築が進むにつれて、これまでにない勤務形態が出てくるのかもしれません。
「医療を取り巻く環境は大きく変わっています。病院経営の視点からは、変化に柔軟に対応できる人材が求められるでしょう。これからの看護師は、スペシャリストだけでなく、幅広く経験しているジェネラリストが評価される時代になるのではないかと思います」
***
7対1から移行する病院がどの程度あるかは、まだまだ不透明。1年ほどは様子見の状態が続くでしょうし、この春すぐにも看護師の採用を直撃するということはありません。ですが、看護師のキャリアや働き方にとって影響の大きい今回の再編、今後の動向に注目です。
看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko)
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▷『『「7対1看護」の病院が減る?|2018年度診療報酬改定』
▷『訪問看護師10年で倍増!追い風が吹く訪問看護、採用ニーズさらに拡大へ』
(参考)
答申について・個別改定項目・PDF(厚生労働省)
中央社会保険医療協議会総会(第347回)入院医療(その2)・PDF(厚生労働省)
中央社会保険医療協議会総会(第387回)入院医療(その11)・PDF(厚生労働省)
看護職員の需給に関する基礎資料・PDF(厚生労働省)
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