退院支援は「入院前から」にシフトする|ナースのための2018診療報酬・介護報酬改定【4】

看護師や医療ソーシャルワーカーが中心となって取り組む退院支援(関連記事『退院支援が事例でわかる【1】』)。2018年4月からの診療報酬改定では、この退院支援がさらに強化されます。

 

退院支援 2018改定のポイント

1)外来でのサポートなど「入院前から」の退院支援が推進される

2)「退院困難」の要因に「虐待」「生活困窮」が加わる

3)関係機関との連携がますます評価される

 

 

入院する前から退院に向けて支援する

退院支援は「入院前」からの説明図、退院支援に積極的に取り組む医療機関を評価する「退院支援加算」は「入退院支援加算」に名称が変更される

入院中だけでなく、退院後の生活まで考えて患者さんをサポートする退院支援。退院調整看護師や病棟の看護師を中心に、医療ソーシャルワーカー、地域の訪問看護師、ケアマネジャーなどが連携して取り組みます。患者サポートセンターや入退院支援室など、専門部署を置いて力を入れる病院も増えていますね。

 

こうした取り組みに対しては現在、「退院支援加算」という診療報酬で評価されていますが、2018改定では「入退院支援加算」に名称を変更。入院早期どころか、入院する前から退院に向けたサポートをスタートしようということになりました。

 

 

入院生活の説明やアセスメントは外来で

とは言え、大枠はそのままで診療報酬の名前だけ変えても、どうなるものでもありませんよね。そこでセットになるのが「入院時支援加算」の新設です。

 

「入院時支援加算」のイメージ図、これまで入院後に行っていた退院支援を外来での実施に前倒しする。具体的には、入院予定の患者に対して 1)患者情報の把握(身体的・社会的・精神的背景を含む)2)褥瘡に関するリスク評価 3)栄養状態の評価 4)持参薬の確認 5)入院中に行われる治療・検査の説明 6)入院生活のオリエンテーション 7)「退院困難な要因」のスクリーニング―を行い、入院中の療養支援計画を作成して患者と共有する

 

これまでは入院直後に行っていたアセスメントなどを入院前の外来の段階で行うというもの。支援のスタート位置をひとつ前倒しするイメージですね。入退院支援加算を算定する患者が対象です。

 

入院前に支援を開始することで、

「歩行に杖が必要な患者がトイレから遠いベッドになり、転倒リスクが高くなってしまった」

といったことなく、早期退院に向けて動けるだろうという狙いです。

 

 

誰が入院前の退院支援をするのか

ところで、この入院前の退院支援、誰が行うのでしょうか?

 

入院時支援加算を算定するには、「病床規模に応じて、入院前の支援を行う担当者を院内の入退院支援部門に配置すること」が必要とされています。この担当者について、病床が200床以上であれば「専従の看護師が1人以上」または「専任の看護師と専任の社会福祉士が1人以上」、200床未満であれば「専任の看護師が1人以上」という基準が設けられました。

 

これまでの退院支援加算の基準と同様、やはり看護師が中心となるようです。「専従」の場合、その担当者は他業務との兼務が認められていないので、場合によっては人手のやりくりが大変になる可能性もありそうです。

 

 

虐待や生活困窮も「退院困難な要因」に  

「退院困難な要因」の定義が広がったのも押さえておきたいポイントです。

 

入退院支援加算の対象患者に、「虐待を受けている・その疑いがある」と「医療保険未加入者・生活困窮者」が加わりました。未婚などの理由で子育てへのサポート体制が必要なケースも対象になります。

 

「退院困難な要因」の定義一覧。1)悪性腫瘍、認知症、誤嚥性肺炎などの急性呼吸器感染症 2)緊急入院 3)要介護認定が未申請 4)虐待を受けている、またはその疑いがある 5)医療保険に未加入、または生活困窮者 6)入院前に比べてADLが低下し、退院後の生活様式の再編が必要 7)排泄に解除が必要 8)必要な介護または療養の提供が不十分 9)退院後に医療処置が必要 10)入退院を繰り返している 11)その他、上記に準じると認められる。「4)虐待」と「5)医療保険未加入・生活困窮者」が追加された

 

きれいごとばかりではない医療の現場。介護だけでなく、福祉との連携が必要なケースは少なくありません。そうした患者のサポートには通常より時間も労力も要するだけに、現場の負担感に多少とも報いる見直しになればと期待されます。

 

 

小児患者もサポート、「高齢者向け」から充実

2018改定では、入退院支援加算に「小児加算」を新設。15歳未満の小児患者に対する退院支援の取り組みも診療報酬で評価されるようになります。

 

小児患者の退院後の生活をサポートするためには、学校や自治体、障害福祉サービスなど、連携が必要な関係機関も多岐にわたります。ところが、現行の退院支援加算は主に高齢者向けになっていて、小児患者は対象になりにくいという課題がありました。この点を解消する見直しとなります。


 

ますます注目される、退院支援スキル

このほかにも、2018改定では、早期の退院・在宅復帰を推し進めるための見直しがいくつか行われています。

とりわけ、今回は診療報酬と介護報酬のダブル改定でもあることから、「医療・介護の情報連携」が重視されているのが特徴的です。

 

例えば、病院の多職種と在宅チーム、ケアマネジャーなどが集まる「退院前カンファレンス」や「退院時共同指導」を実施したり、病院から介護施設や訪問看護ステーションに退院サマリーを送ったり―。こうした取り組みが、今までよりも診療報酬・介護報酬上で評価されやすくなるように、基準が見直されています。

 

入院期間が短くなって患者の入れ替わりが目まぐるしく、入退院に伴う業務が看護師の多忙の一因になっていますが、早期退院には、院内感染やADLの低下を防いだり、患者のQOLが向上したりといったメリットも指摘されています。地域包括ケアシステムの中で、「早期退院・在宅復帰」はさらに進められていくと考えられます。

 

退院後の療養生活まで意識して、多職種・機関と連携する退院支援・退院調整の能力が、これからますます注目されていくことは間違いないでしょう。

【烏美紀子(看護roo!編集部)】

 

注)入院時支援加算の人員配置の要件に関する記載について、厚生労働省の事務連絡(2018年3月30日付)に基づき、情報を更新しました(疑義解釈資料の送付について(その1))。

 

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(参考)

中央社会保険医療協議会総会(第376回)入院医療(その8)・PDF(厚生労働省)

中央社会保険医療協議会総会(第377回)入院医療(その9)・PDF(厚生労働省)

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