ヒアリの毒でアナフィラキシーのリスクあり|患者が来院したらハチ刺傷経験の確認を

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オオハリアリによる刺傷の除外も念頭に

毒針を持つアリ「ヒアリ」が兵庫県尼崎市、神戸市をはじめ、愛知県、大阪府、東京都と各地で発見されている。この事態を受け、厚生労働省健康局はこのほど、事務連絡「ヒアリに刺された場合の留意事項について」を発出し、医療関係者に対して注意を促している。

 

加納亜子=日経メディカル

 

ヒアリの写真

出典:環境省ウェブサイト

 

ヒアリ(学名:Solenopsis invicta)は、南米大陸原産のハチ目アリ科に分類されるアリの一種。赤茶色で腹部は濃く黒っぽく、体長は2.5~6mmとばらつきがある。非常に攻撃性が強く、毒性も強い。農耕地や公園などに巣(アリ塚)を作る習性があり、北米や中国、フィリピン、台湾などにも外来生物として侵入・定着していることが確認されている。

 

ヒアリの毒には、アルカロイド毒であるゾレノプシン(2-メチル-6-アルキルビペリディン)の他、ハチ毒にも含まれるホスホリパーゼやヒアルロニダーゼなどが含有される。そのため、「過去にヒアリに刺された経験がなくても、ヒアリ毒はハチ毒と交叉反応性があるため、ハチ刺傷を受けたことがある人や、ハチ毒アレルギーを持つ人がヒアリに刺されるとアナフィラキシーを生じる可能性がある」と兵庫医科大学皮膚科准教授の夏秋優氏は説明する。

 

ハチ毒へのIgE抗体の有無などにより、刺された後に生じる症状の程度は大きく異なる。

 

軽度であれば、刺された瞬間に熱感を生じ、やがて刺された痕に痒みが起き、半日~1日ほど経つと無菌性膿疱が生じる。

 

中程度では、刺されて数分から数十分後に刺された部分を中心に腫れが広がり、部分的、または全身に痒みを伴う発疹蕁麻疹)が現れる。

 

重度の症状を起こすケースではアナフィラキシーを来し、刺されてから数分から数十分後に息苦しさ、声がれ、激しい動悸めまいなどを生じる。「ヒアリが持つアルカロイドは致死性は高くない。だが、タンパク毒との交叉反応によりアナフィラキシーを起こした場合は処置が遅れると致命的になる可能性がある」と夏秋氏。

 

対処法はハチ刺傷と同等だ。刺された直後20~30分程度は安静にし、体調の変化がないかを確認する。軽症であれば、抗ヒスタミン軟膏を塗り、水で患部を冷やし、全身症状が見られれば医療機関を受診する。

 

医療機関に搬送された場合にはまず、呼吸循環管理を行う。局所症状のみであれば、アイスパックなどでの冷却やステロイド剤を用いて疼痛管理や腫脹対策を行う。中毒症状が強い場合やアナフィラキシーを生じている例では、気道の確保と酸素吸入、輸液を行いアドレナリン筋肉注射する。さらに、必要に応じて抗ヒスタミン剤、ステロイド剤、気管支拡張剤を投与する。

 

なお、咽頭刺傷の場合は浮腫により呼吸困難を生じるため、気管内挿管と呼吸の補助を行い、ジフェンヒドラミン、メチルプレドニゾロンを投与する。

 

前述した通り、「ヒアリの毒は致死性が高いものではない。そのため、世間で騒がれているほど過剰に心配する必要はない。国内にはオオハリアリという毒針を持つアリがいる。報道が過熱すると、オオハリアリに刺された患者がヒアリに刺されたと勘違いし、軽症でもあわてて救急車を呼ぶ可能性がある」と夏秋氏は懸念を示す。

 

オオハリアリ(学名:Pachycondyla chinensis)は、体長4mmで脚が明褐色でその他は黒色のアリの一種。ヒアリとの違いは「ヒアリは体幹の色が赤茶色だが、オオハリアリは黒色。また、刺されたときの痛みがオオハリアリではチクリとする程度の痛みだが、ヒアリでは灼熱感を伴う。また、オオハリアリの毒とハチ毒には交叉性はないと見られている」と夏秋氏は言う。

 

患者が来院した場合には、痛みの程度に加え、刺された場所の違いによりヒアリかどうかを疑うべきだという。「現時点では、人家の近くでガーデニングをしている際に刺されたと患者が訴えた場合にはオオハリアリによる刺傷と捉えてよいだろう。逆にコンテナターミナルなどで刺されていれば、ヒアリによる刺傷の可能性を考えたい」と夏秋氏。

 

また、何に刺されたのかはしっかりと確認すべき。「現実にはなかなか難しいが、潰した後でも構わないので、刺傷したムシを持参してもらえるのが理想だ」と夏秋氏は話している。

 

なお、環境省自然環境局の資料「ストップ・ザ・ヒアリ」には、セロテープに貼り付けて、テープ内に閉じ込めたり、ピンセットでつまんで小瓶やフィルムケースに入れるなどと採集する方法が記載されている。


【参考資料】
ヒアリ(Solenopsis invicta)の国内初確認について
大阪港におけるヒアリの確認について(女王アリの確認)
ヒアリの簡易的な見分け方 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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