医師・看護師等の「新しい働き方」を提言

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厚労省「医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」が報告書を厚労相に提出

医師・看護師等の「新しい働き方」を提言

 

厚生労働省の「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会」(座長:東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室教授・渋谷健司氏)は4月6日、報告書をまとめ、塩崎恭久厚生労働大臣に手渡した。短時間労働時差勤務の導入といった勤務体系の見直しや、偏在是正を目的とした外来医療の提供体制の最適化、医師の業務を他職種に移管する「タスク・シフティング」の推進など、医療従事者の働き方について多岐にわたる提言を行った。

 

二羽 はるな=日経ヘルスケア

 

報告書を手渡す検討会座長の渋谷健司氏(東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室教授、左)と受け取る塩崎恭久厚生労働大臣(右)

 

検討会は、医療を取り巻く環境の変化や患者・住民のニーズの増大、多様化を踏まえ、今後目指すべき医療のあり方と、それを踏まえた医師や看護師等の働き方・確保のあり方について検討するため、2016年10月に発足した。医師10万人を対象とした働き方や将来のキャリア選択に関するアンケート調査や、地域のニーズに合わせて様々な取り組みを行う医療従事者へのヒアリングなどを基に、医療を「高生産性・高付加価値」構造に変え、医師が高い専門性をもって本来行うべき業務に注力できる環境整備につなげるべきための提言をまとめた。

 

「調査によるエビデンスを基に、様々な観点から議論を重ねてきた。提言に盛り込んだ内容については、工程表を作成して短期的・中期的に取り組み、10年以内には実行されてほしい」と座長を務めた渋谷氏は話した。

 

短時間労働や時差勤務の導入など、勤務体系の見直し求める

報告書では、具体的な方策を(1)能力と意欲を最大限発揮できるキャリアと働き方をフル・サポートする、(2)地域の主導により、医療・介護人材を育み、住民の生活を支える、(3)高い生産性と付加価値を生み出す――の三つの観点から提示。全体を通した特徴として、都道府県に様々な機能を担わせるほか、医師から他職種への業務の移管を進める内容が多く盛り込まれた。

 

(1)では、様々な世代の医療従事者が意欲と能力を発揮できるよう、「多様な生き方・働き方の選択」と、「研鑽し続けるプロフェッショナリズムの追及」を両立できるようにすることを目指す。

 

具体的には、医療従事者の業務負担の軽減、育児や介護などにきめ細かく配慮するため、組織の管理者の意識改革やマネジメント能力の向上が重要だとした。そこで、医療機関の管理者になるためにマネジメントに関する研修の受講などを求めたり、管理者のマネジメントを補助するスタッフの配置を促したりする仕組みの導入を提案。さらに、性別を問わず、家族の育児や介護などを担う医療従事者に対して短時間労働、時差勤務の導入や兼業、在宅労働、施設内保育所の整備などの支援が必要だとした。夜勤に当たる医療従事者の負担軽減策としては、勤務後、次の勤務までに一定時間以上の休息時間を設ける「勤務間インターバル」などの配慮を図ることも求めた。

 

女性医師の出産、育児などのライフイベントに対応する観点からも、短時間労働などの柔軟な勤務体系の導入や復帰研修の実施、保育環境の整備などに重点的・積極的に取り組むべきとした。

 

医学生や若手医師などが自身のキャリアを描けるようにしたり、医療機関の働きやすさを改善する観点からは、各都道府県の地域医療支援センターや医療勤務環境改善支援センターの実効性を高めることを求めた。地域医療支援センターには、基幹病院において経験できる症例の種別・平均数やキャリア・トラックの典型例を示す役割を期待。医療勤務環境改善支援センターについては、人材・労務マネジメントに関するノウハウが不十分な医療機関を支援するため、抜本的強化が重要だとした。

 

看護師については、ニーズの多様化に合わせて多様で幅広く活躍できるよう、各看護師のキャリア選択に応じた複数の養成システムを維持・発展する必要があるとして、卒前教育のカリキュラム拡充を提案。准看護師についても教育カリキュラムを見直すとともに、通信制の看護師養成課程の入学要件である「実務経験10年(2018年度からは7年)」を「5年程度」に短縮することを検討すべきとした。

 

地域の医療・福祉人材不足を解消する観点からは、現在、へき地など一部の地域に限り認められている医師の派遣労働を認めることや、その対象を看護師に拡大することが必要だとした。

 

さらに、様々な理由で退職した医療・介護従事者が知識や経験に基づいて活躍できるよう、「医療・介護従事者シェアリング・バンク」(仮称)の整備を求めた。シェアリング・バンクの整備により、柔軟な勤務形態で比較的心身の負担が軽い業務に医療・介護従事者を紹介・派遣することなどが可能になるという。 

 

医師の偏在是正に向けた仕組みづくりを提案

(2)では、地域の実情に応じた医療・介護人材を確保する一方で、地域が目指すべき姿やその基盤を支える医療・介護について、医療・介護従事者とともに住民も主体的に参画し、協働することを目指す。

 

具体策として、各地域で必要な医療機能について、「身近で広範な医療」と「高度な医療」に分けた上で、医療機関や病床の最適化を進めることが重要だとした。各都道府県が策定する地域医療構想では、既に医療機関の集約化や機能分化・連携が進められているが、一定期間進捗した後は、高度急性期などの機能別の病床数だけでなく、提供される専門医療の内容や専門医、看護師の数、高度医療機器の配置などについてもニーズに適合した具体的な数値を設定し、推移を検証することを提案した。

 

医師の偏在是正に向けては、へき地などに勤務する医師の教育環境の整備を求めた。前出の調査では、地方での勤務について、全体では44%が「勤務意思あり」と答えており、特に20歳代では60%に勤務意思があった<関連記事:20代医師の6割が地方勤務の意思「あり」(全文を読むためには「日経メディカル」へのログインが必要です)>。一方、地方での勤務を躊躇する背景として、労働環境を不安に感じていたり、希望する内容の仕事ができないなど、診療・研修環境への懸念があることが分かった。そこで、地域枠の医師や自主的にへき地などで一定期間診療に従事する医師に対しては、地域医療支援センターが医師と医療機関のマッチングを支援したり、週3日を休暇・自己研鑽などに充てられる「週4日勤務制」の導入、休日を確実に取得するための休日代替医師の派遣、複数医師によるグループ診療、遠隔診療の支援などを行うことを提案した。

 

医師の養成では、都道府県の行政権限を拡大し、主体的に地域の医師養成にかかわれるようにすることの検討を求めた。具体的には、各都道府県が大学医学部に対して地元出身者枠の創設・拡大を要請できるようにしたり、地域の医療ニーズを踏まえて養成すべき診療科ごとの専門医の概数を定めることなどを挙げた。さらに、各診療科の専門医養成をどの施設でどの程度行うかについても、都道府県が主体的に決定すべきとした。

 

外来医療の提供体制を最適化する観点からは、プライマリ・ケアを担う医師の研修により人的資源を確保する一方で、入院医療における「基準病床数制度」のような仕組みを導入することを求めた。入院医療では、二次医療圏ごとに設置できる病床数の上限基準が各都道府県の医療計画に定められており、地域ごとの病床の偏在を防いでいる。

 

具体的には、地域医療構想に外来医療の要素を加えるなどして、外来医療の必要量に基づいた供給体制についての指針を各都道府県に策定させることを提案。その際には、診療科ごとの医師の配置などのデータや、需給ギャップも把握できるようにする。こうしたデータを踏まえ、各都道府県の一定の区域ごとに医療提供者、保険者、行政などによる協議体制を構築し、医療ニーズ・資源の分析と必要な診療科の方向付けなどを行う。地域の医療ニーズ・資源と整合的ではないと考えられる医療機関の開設には、「最適化する仕組みの導入が必要」としており、一定の制限を設けることを求めた。

 

自由標榜の仕組みについても、例えば日本専門医機構が認定する専門医と標榜を関連付けるなど、患者にとって分かりやすい標榜のあり方を検討すべきとした。

 

看護師の特定行為研修制度の対象となる医行為を拡大

(3)については、医療従事者の業務の生産性の向上を図りつつ、業務分担と協働を進め、専門職が専門性を発揮してそれぞれの業務に集中できる環境整備を目指す。

 

具体的な方策としては、医師間で行うグループ診療や、医師と他職種の間で行うタスク・シフティング(業務の移管)、タスク・シェアリング(業務の共同化)を提案。医師間のグループ診療の形としては、主治医・副主治医制などの担当制や、在宅医療における当直機能の委託など、地域の実情に応じた方法を選択すべきとした。

 

医師と他職種の間のタスク・シフティングやタスク・シェアリングの例としては、看護師の特定行為研修制度でカバーされている行為のほか、一部の病院では看護師が胸腔穿刺中心静脈カテーテル留置なども行っている実態を踏まえ、「こうした事例を積み重ねて定着させ、医師や看護師の意識そのものを変えていくべき」とした。特定行為研修制度の養成数を増やすために研修方法・体制を見直したり、研修制度の対象となる医行為を拡大することを求め、こうした業務を行える人材(例えば「診療看護師」[仮称])を養成する必要があるとした。

 

また、今後は在宅においても医療的なニーズが増大することを踏まえ、介護従事者についても簡易的な医療的ケアを行えるよう、研修制度を含めた環境整備を図ることの重要性を強調。具体的には、既に実施が認められている喀痰吸引、経管栄養などを着実に行えるよう、研修実施機関の拡大を検討するよう求めた。そのために、地域医療介護総合確保基金(介護分)を活用したり、キャリア形成促進助成金の要件緩和、助成額の引き上げなどが効果的だとしている。

 

薬剤師については、地域における薬局・薬剤師の機能を患者・住民とのコミュニケーションの側面を中心に変容させていくことを期待。そこで、時間的・物理的な余裕を創出するため、調剤業務の効率化の推進すべきとした。具体的には、調剤業務のうち機械化・自動化できる部分は効率化を図り、「処方箋40枚につき薬剤師1人」という処方箋の枚数に応じた薬剤師の配置基準を見直すよう要求。その際、欧米では主流となっている「箱出し調剤」の有用性の検討も求めた。

 

さらに、同じ薬剤処方で再度の診察や処方箋交付が不要と医師があらかじめ指示している場合には、医師との連携の下、薬剤師などによるリフィル処方での対応も検討すべきとした。

 

このほか、医師が高度な専門性を発揮して本来業務に注力できるよう、海外の事例を参考に「フィジシャン・アシスタント」資格の創設を検討することも求めた。フィジシャン・アシスタントは、簡単な診断や処方、外科手術の助手、術後管理などを担うことが期待されている。

 

検討会はこれらの提言内容について、「今後5~10年を基本軸として、すぐに着手できるものはただちに具体化を進め、さらなる議論が必要なものは順次実現に移すべき」としている。実現に向けては、厚労省内に「ビジョン実行推進本部」(仮称)を設置し、5~10年程度の政策工程表を作成した上で、内閣としての政府方針に位置付け、進捗管理を行うよう求めた。

 

<掲載元>

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