ママだけど、国境なき医師団でナースやってます。【1】出産すると胎盤を窓から投げられる!?

国境なき医師団ナースリレーコラム

ママだけど、国境なき医師団でナースやってます。

Vol.1 出産すると胎盤を窓から投げられる!?

 

【筆者】看護師 田岡佳子

ママだけど、国境なき医師団ナースやってます。―田岡佳子

 

「胎盤出てきましたよ。」

 

私は初めての出産を終え、元気に生まれた赤ちゃんを見て安堵していました。高齢出産もあってか、38週で妊娠高血圧症(いわゆる妊娠中毒症)と診断され、帝王切開の可能性も高いと医師からは言われていましたが、幸い自然分娩、それも安産で出産することができました。

 

「胎盤が出るときは痛みなんてないんだなー。」と思いながら、ふとインドで目にしたあの光景が頭の中によみがえりました。

 

村の子どもたち

村の子どもたち

 

2011年秋、私はインドの北西部にあるビハール州の診療所で、栄養失調児の治療を行う国境なき医師団(MSF)のプログラムで働いていました。

 

インドと聞くと経済成長著しく、既に発展している国とのイメージもあります。しかし貧富の差が激しく、特に私の活動していたビハール州は国内で一番貧しい州で、医療や福祉も遅れていました。

 

インドの田舎道で産気づいたお母さん

ある日、入院していた2歳の男の子に付き添い、1時間ほど離れた大きな街の総合病院に車で向かっていたときのこと。車には、彼のお母さんとスペイン人のドクターも一緒に乗り込んでいました。

 

町の総合病院までの道はガタガタの田舎道で、コンクリート舗装してある部分も所々穴が開いていて、ドライバーは穴を避けながらグネグネと運転します。

 

更に対向車、猛スピードのバイク、マイペースな自転車、牛やヤギの群れ、道路わきでしゃがみこんで用をたしている子どもを避けなければならず、ドライバーの運転技術は神業に近いものがありました。

縦揺れ、横揺れに加え、急ブレーキ。車に酔いやすいスペイン人のドクターは、町に行く時はいつも真っ青な顔をしてぐったりしてしまうような道でした。

 

牛で込みあう道―「胎盤を窓から投げられる」!?―国境なき医師団ナースがママになった瞬間

牛で込みあう道

 

「うっ~、産まれる~。」

 

突然、付き添っていた男の子のお母さんが苦悶の表情で声をあげました。お母さんは妊娠後期で、どうやら激しい揺れで産気づいてしまったようなのです。

 

20分後何とか病院に到着し、まずは男の子を小児科へ送り、その後お母さんを連れ産科へ。

 

ひと家族当たりの子供の数が8人という家も珍しくないこの地域では、産科病棟も賑わっていました。病院の看護師に状況を伝えると、人手が足りないためスペイン人の医師が取り上げることになりました。そして1時間もかからずに2000グラムちょっとの小さ目のかわいい女の子が無事産まれました。

 

MSFの栄養失調治療外来に来た親子

MSFの栄養失調治療外来に来た親子

 

胎盤を窓の外へポーン。待っていたのは…豚!?

その後出てきた胎盤をどこに処理してよいのかわからず、病院のナースに手渡しましたが、ここからが驚きでした。

ナースは胎盤の入ったトレーを持ってそのまま窓の方へ向かい、窓からポーンと胎盤を放り投げたのです。

 

「えっー!窓からそのまま捨てちゃうの?!この真下は焼却場?!」

と驚いて外を見てみると…下は原っぱ。

そして「ブヒ、ブヒ」とどこからともなく豚が数匹集まってきて胎盤を食べ始めたのです!

 

「胎盤は大事な栄養源なのよ」と病院ナース。

後日、私が働いていた病棟に隣接する診療所の産婦人科を訪れてみると、ここでも出産後、同じようにポーンと胎盤を窓から投げていました。

 

インドのMSF診療所入院病棟

インドのMSF診療所入院病棟

 

そんなわけで、日本の分娩室で自分の胎盤を見て「まさか窓から放り投げないだろうなー」と助産師さんの行方を目で追い、ちょっとニヤついた私でした。

ちなみにスペイン人医師が取り上げた赤ちゃんは、その医師と同じ名前がつけられました。

 

実は夫も国境なき医師団ナース

インドは私が看護師として国境なき医師団から派遣された3番目の国です。2008年に初めてアフリカのマラウイのHIV/エイズプログラムに派遣されてから、スリランカの内戦後の緊急援助、インドの感染症/栄養失調治療プログラムに参加してきました。

 

現在私は2歳の娘の母で、子育てに奮闘しながら看護師として日本の病院の外来でパート勤務しています。

夫も同じく看護師で、同じく国境なき医師団の活動に参加しています。

 

私達夫婦は少し遠回りしてから看護師になり、国際医療協力の分野でキャリアを積んできました。

 

次回以降、国境なき医師団の活動と子育ての両立をどのようにしているか、私たち夫婦がどのような経緯でこの世界に飛び込んだのか、また今後の目標など数回に渡ってお話していきたいと思います。

 

 


【筆者】田岡佳子(たおか・よしこ)

群馬県出身、看護師。
一般企業での勤務を経て、2004年、東京都立松沢看護専門学校卒業。2004年より看護師として働き、新天本病院勤務後、2008年、国境なき医師団(MSF)の活動でマラウイへ派遣。その後、2009年にはスリランカ、2011年にはインドで派遣活動に従事した。1970年6月14日生まれ。


 

【協力】国境なき医師団 日本

国境なき医師団(Médecins Sans Frontières=MSF)は、 中立・独立・公平な立場で医療・人道援助活動を行う民間・非営利の国際団体です。MSFの活動は、緊急性の高い医療ニーズに応えることを目的としています。紛争や自然災害の被害者や、貧困などさまざまな理由で保健医療サービスを受けられない人びとなど、その対象は多岐にわたります。

MSFでは、活動地へ派遣するスタッフの募集も通年で行っています。

(看護系の募集職種)正看護師手術室看護師助産師

 

看護roo!ポイントでも、国境なき医師団に寄付することができます。

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