子育てしながら国境なき医師団で活動ってできるの?―ママ兼国境なき医師団ナース

国境なき医師団ナースリレーコラム

ママだけど、国境なき医師団でナースやってます。

Vol.2 子育てしながら国境なき医師団で活動ってできるの?

 

【筆者】看護師 田岡佳子

一般企業を経て看護師に。1児の母。夫も看護師としてMSFで活動中。

国境なき医師団の「働くママナース」にとって、仕事と家庭の両立とは?これまでのあれこれをお伝えします。


 

【INDEX】

 

 

国境なき医師団の経験は、子育てにも役立ちます。(苦笑)

まさか自分の子が「栄養失調一歩手前」・・・?!

 

ある日、子どもの腕を見て驚いたことがあります。

 

「あれ、この腕の感じどっかでみたことある。あっ!インドでみていた栄養失調の子供の腕みたい!!」

 

重度の栄養失調児

 

前回お話しましたが、私は2011年にMSFの派遣でインドの栄養失調治療のプログラムに参加しました。しかし今見ている「この腕」はインドの子どもではなく、なんと10カ月になった私の娘の腕…看護師としては恥ずかしながら、日本にいる我が子を栄養失調児にしてしまったのです。

 

日本の我が子が「栄養失調児」になった理由

8ヶ月をすぎたころ、離乳食も順調に進み、1日3回「まだ食べるの?!」と言うくらいよく食べるようになり、一方、母乳の飲みっぷりが悪くなりました。

母子手帳に「離乳食が進んだら徐々に母乳の回数を減らしていく」と書いてあるのを見て、「これだけ食べているから」と9カ月で断乳。そこから1カ月、よく食べるのに体重が増えず、「元気があるからまあいいか」と様子をみていました。

 

栄養失調検査メジャー(MUAC)を娘に使う

しかしある日お風呂上がりに娘の上腕をふっと見て、その細さにびっくり!

私はすぐにMUAC(上腕周囲計測メジャー)という国際的に使われている栄養失調の簡易検査用のメジャーをさがし、娘の上腕を測定してみました。

メジャーのポイントが赤を指すと重度の栄養失調、オレンジは中等度の栄養失調、黄色は栄養失調のリスクあり、緑は正常値。

 

MUACで栄養状態を測定する

 

娘の腕を測定した結果、メジャーのポイントは黄色を指していたのです!

 

まさかここでインドの経験が役に立つとは

町の乳幼児相談がたまたまその次の日にあり、保健師さんに相談すると、9カ月から1歳までは母乳かミルクを1日500ccあげなくてはならないことを聞きました。いくら離乳食をたくさん食べても、まだ消化器官が十分発達しおらず栄養を吸収できないそうです。

 

重度の栄養失調児の治療は治療用の粉ミルクを3時間おきに飲ませます。

娘は重度ではありませんでしたが、眠い目をこすりながら夜中も3時間おきにミルクを飲ませ、1か月後にはしっかりした腕に戻りました。

看護師なのに恥ずかしいエピソードですが、まさかこんな身近なところでMSFの経験が役に立つとはという気持ちでした。

 

子育てしながら国境なき医師団で活動する方法―4つのかたち

出産したらやりたい仕事ができない…?

現在、私はこんな風に試行錯誤しながら、子育て中心の生活をおくっています。

出産後MSFの海外の活動には参加できていません。テレビや新聞のニュースで、エボラの流行やシリアなどの悲惨な状況をにすると、現地の活動に参加したいという気持ちが湧いてきます。

 

しかしほとんどの現場では家族同伴は無理なので、今はこの先の準備期間と考え、育児をしながらできることをしています。

これからのキャリアにとって、今必要なことをする―それも「仕事と家庭との両立」と呼べると思っています。

 

若い頃は、子育ての期間はやりたいこともできなくなるし、「自分を犠牲にする」というような感覚がありました。しかし実際経験してみて、子育てから多くのことを学び、一度立ち止まって将来のことを考えるいい機会になっています。

 

海がきれいな町に住んでいます

海がきれいな町に住んでいます

 

1.子育て経験を看護に活かす

今まで海外の活動で小児や母子保健に携わることが多かったのですが、子供の扱いやお母さんの気持ちがわからず、「寄り添う」という面では苦手としていました。子育ての経験は、今後の看護にも生きてくるだろうなと改めて感じています。

これはきっと、日本で看護師をしていても同じですね。

 

そう考えると、子育ての経験を積んでいることそれ自体が、これからのキャリアの一助になっていると思います。

 

2.子どもをおぶって会議に参加

とはいえ、日本にいて、子育てをしながら具体的にできることにはどんなことがあるでしょうか?

 

まず、今後も国際医療協力に参加していくというモチベーションを保つこと。

日本の生活にどっぷり浸かり、育児中心の生活をしていると、メディアやインターネットを介して情報を受けるだけになり、海外への関心も薄れてくることがあります。それを避けるために、MSFのミーティングや研修に参加し、他のスタッフの派遣報告を聞いたり、議論に参加したりしています。

 

このような機会は、これからどのように国際協力の現場に復帰していくか、どのような勉強が自分に必要かを改めて考えるきっかけとなり、自分の気持ちも高まります。

 

娘が1歳の頃はおんぶして会議やワークショップに参加したこともありました。この時は、日本や海外から来られた他の参加者の方々も温かい目でみてもらい、本当にありがたかったです。

 

2015年3月、国境なき医師団日本の総会にてグループディスカッション中

2015年3月、国境なき医師団日本の総会にてグループディスカッション中

 

また、会議や研修は英語で行われることが多いため、普段全く使うことのない英語に口を慣れさせるために、英語でニュースを聞いたり、ネットの英会話教室で話す機会を作ったりしています。公園や子育てセンターなどで、外国人の親子を見つけると積極的に話しかけることも。

 

3.子どもの時間に合わせるスキル=効率アップ!

次に、MSFから依頼があれば活動報告を発表したり、経験を原稿に書いたりしています。

パソコンにゆっくり向かう時間は娘が寝ている間に限られるため、早朝や昼寝の時間に「それー!」と気合を入れて書きます。逆に時間がない分効率が良くなったような気がします。

 

4.夫を心置きなくシリアに送り出す

そして、主人が昨年の夏から秋にかけてMSFでシリアでの活動に参加してきましたが、日本で留守を預かり、主人をMSFの活動に心置きなく参加してもらうことも、ちょっと古風な考えですが、今自分ができることかなと思っています。

将来は、私が海外、主人が留守番という現代風のケースもありえると思いますが、残念ながら今のところ予定はありません。

 

 

ここまでたどり着くのに沢山の葛藤がありました。

次回は「キャリアと家庭」をテーマに、これまで看護師、そして国際医療協力においてキャリアを積んできた中で、家族や家庭についてどのように考え、悩んできたかお話します。

 


【筆者】田岡佳子(たおか・よしこ)

群馬県出身、看護師。
一般企業での勤務を経て、2004年、東京都立松沢看護専門学校卒業。2004年より看護師として働き、新天本病院勤務後、2008年、国境なき医師団(MSF)の活動でマラウイへ派遣。その後、2009年にはスリランカ、2011年にはインドで派遣活動に従事した。1970年6月14日生まれ。


 

【協力】国境なき医師団 日本

国境なき医師団(Médecins Sans Frontières=MSF)は、 中立・独立・公平な立場で医療・人道援助活動を行う民間・非営利の国際団体です。MSFの活動は、緊急性の高い医療ニーズに応えることを目的としています。紛争や自然災害の被害者や、貧困などさまざまな理由で保健医療サービスを受けられない人びとなど、その対象は多岐にわたります。

MSFでは、活動地へ派遣するスタッフの募集も通年で行っています。

(看護系の募集職種)正看護師手術室看護師助産師

 

 

看護roo!ポイントでも、国境なき医師団に寄付することができます。

 

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