容態急変! そのときどうする!?|患者さまは外国人【7】

「インターナショナルクリニック」の看護師で「エスコートナース」でもある山本ルミが、患者さまとのドタバタな日常をお届けします!


 

私の空飛ぶナースの仕事の9割以上は、皆さんが旅行するときに乗るのと同じ飛行機を利用します。残りの1割で利用するのは小型の航空救急車(Air Ambulance 略してAA)。

 

どちらにするかは患者さんの状態を元に、主治医の意見や診断書、保険会社やアシスタント会社の医師と話し合って決められます。AAは基本的に緊急の場合です。

 

私がお迎えに行く場合の多くは、既に治療が始まり状態が安定していて、飛行機に乗って帰国してもいいというとき。

 

しかし、ときにはまだ治療の途中の人もいて、今まで入院していたのに急に車に乗って移動したり、空港の人ごみの中を移動したり、それに帰国の興奮や不安が加わって、途中で状態が悪くなる人もいます。

 

AAが空港に到着。海外の救急隊員が集まります

 

突然の土砂降りからの「ここで死にたくない!」

フランスのアシスタンス会社から、上海にいるニュージーランド人の60代の男性をお迎えに行ってほしいとの要請がありました。

 

患者さんはご夫婦で中国を旅行中、トイレで下血して倒れている所を発見され、救急車で地元の病院に運ばれました。搬送時はかなり危険な状態で、おまけに言葉の壁もあり、不安な時を過ごしたようです。

 

倒れてから一週間後、病状が改善したため上海の病院に転院することが決定。そこで私に依頼がきたのです。

 

上海の病院で申し送りを受け、いざ空港に向かう途中で急な土砂降り。順調に飛行機に搭乗はできましたが、なんとなくいやな予感…。

 

案の定、私達を乗せたまま飛行機は3時間も飛び立たず、予定よりもかなり遅れて乗り継ぎ先の香港に到着しました。そのときには、私達が乗る予定のニュージーランド行きの飛行機はもう飛び立った後だったのです…。

 

パスポートはスタンプを押す場所がなくなって、ページを増設しました

 

明日の朝一番の飛行機に乗せてほしいと交渉しましたが、どうしても夜の飛行機にしか乗れないとのこと。約24時間も待たなくてはいけなくなりました。

 

患者さんは精神的な落胆もあり、体調が悪化。血圧も下がってきてしまいました。その日は飛行機会社が準備してくれたホテルに泊まり、私は仮眠もそこそこに、点滴をして様子を見ました。

 

次の日、私のボスから電話があり『病状が心配なら、飛行機に乗らずに香港の病院に入院するように。でもルミの判断に任せる』と言われました。

 

実際、患者さんの状態は平行線。けれど意識もしっかりしていて、血圧も100以上あり、症状も中国でもらった薬が効果を発揮し軽減していました。

 

患者さんに相談したところ、

 

「ニュージーランドに向かう途中で死んだなら納得できるんだ、僕はここでは死にたくない! どうか帰国を手伝って欲しい、頑張るから絶対に大丈夫! もしも何かあっても、君と会社には絶対に迷惑かけないから!」

 

と必死の訴え。


私も患者さんの精神状態を考えて、これはGOだな!と判断しました。

 

昨夜もあまり眠っていませんが、飛行機の中でも私は緊張MAX! 1秒も気が抜けず、不眠不休でなんとかニュージーランドに到着しました。

 

飛行機が空港に降り立った瞬間、患者さんは私に向かって笑顔でVサイン。私もようやく安堵できました。とても疲れたけど、気分はやりきった感で一杯です!

 

一瞬の判断の遅れも許されない!

5年前、アメリカ人のある会社の重役を群馬までお迎えに行きました。

 

彼は脳梗塞を起こした後、他にもいろいろと問題がありましたが、ようやくアメリカの病院に転院できることに。私のミッションは、群馬の病院から成田空港まで救急車で搬送することでした。

 

救急車に乗って1時間もすると、なぜか急に患者さんの酸素濃度が90台から80台に! しかしバイタルサインの変動はなく、患者さん自身も苦しさや痛みといった症状は何もありません。

 

酸素吸入をしながら、救急車の中で東京のオフィスにいる医師や、フィラデルフィアの保険会社の医師とあ~だこ~だと会議しましたが、その間に群馬の病院ははるか遠く。成田の方が近くだったため、成田空港近郊の病院に急遽搬送しました。

 

医師からは、

 

「肺梗塞になってたらどうするつもりだ! どうしてすぐに群馬に戻らなかった!」

 

と怒鳴られてしまいました。

 

もちろん、「私もそう考えたけど、東京オフィスとフィラデルフィアの保険会社の医師が…」などと、こちらの事情を口にするわけにもいかず。ひたすら謝りましたが、とても情けない気分でした。

 

機内から救急車に移動。チームワークが重要です

 

成田空港で患者の到着を待っていた、アメリカ人の医師団も病院に駆けつけました。検査の結果は、新たな梗塞ではなく肺炎

 

一度はがっかりした患者さんですが、「1週間も抗生剤の点滴を受けてよくなれば帰国できる」という医師の言葉で、「早く始めて下さい!」と治療にやる気を見せていました。

 

この患者さんは予定通り、1週間後にアメリカ人の医療チームがお迎えに来て、無事に帰国できました。

 

この仕事では、毎回何かしらのトラブルがあります。
私達が不眠不休で働くのは、いつ何時でも患者さんが急変する可能性を秘めているから。

 

搬送中は持っている医療品も限られ、医者もいないことがほとんどです。そんな状況で患者さんを無事に送り届けるため、あらゆる経験や知識を絞り出さなければなりません。


求められるのは適格な判断と高い技術。この仕事を続けて行く限り、私もまだまだ勉強が必要です。

 


【山本ルミ】看護師・エスコートナース
大分県出身。93年より六本木のインターナショナルクリニックに勤務。98年よりエスコートナースとしても活躍している。著書に『患者さまは外国人』(山本ルミ・原案 世鳥アスカ・漫画)など。

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