日本と似てる? フランスの高齢介護 現地レポート|患者さまは外国人【8】
「インターナショナルクリニック」の看護師で「エスコートナース」でもある山本ルミが、患者さまとのドタバタな日常をお届けします!
日本のナースの皆さん、Bonjuor !!
空飛ぶナースはパリにいます。今回はちょっとだけパリジェンヌになった私が、フランス医療の生現場をレポートします!
パリに着いたらいつものように、大親友のエレンの家に直行。たいてい1~2泊の短期滞在ですが、今回は3週間の予定です。エレンの家には100歳になるおじいちゃんが一緒に生活していて、ちょっと遠くには、常に誰かの手助けが必要な高齢のお母さんも住んでいます。フランスも日本と同じ高齢者の問題を抱えているということですね。
せっかくの機会なので、おじいちゃんとお母さんの介護をしているエレンの後ろ姿を眺めながら、フランスの介護の現状について、何人かに話を聞いてみることにしました。
パリの街です!
フランスにもある高齢介護制度
フランスの社会保障制度は「社会扶助制度」と「社会保障制度」の2本柱。この中に医療制度の決まりがあり、必要に応じていろいろなサービスを受けられるようです。
健康保険にも全国民が加入。支払額は日本と一緒で、収入や扶養家族の有無で変わるそうです。
フランスにも高齢介護のための「高齢者自助手当」という制度があります。要介護認定を受けてから、ホームヘルパーなどの人的サービス、介護器械の購入、移動支援、自宅改造の支援などが行われます。
フランスの要介護認定は1~6まで。医療チームが申請者の自宅を訪問し、ニーズや自立能力、所得などの状況を確認し、最終的に国の施設が決定するという仕組みでした。
見知らぬ男がおじいちゃんのお世話を!?
最初の数日は時差ボケで、早朝5時近くには目が覚めてしまい、一人で起きてシャワーを浴びたり紅茶を飲んだりしていました。すると、朝の7時にドアのカギが開き「Bonjor!(おはよう!)」と見知らぬ男が! しかもそのままおじいちゃんの部屋に入っていく!
彼はおじいちゃんを起こして家の中を歩かせたり、手足を上げ下げする運動を20~30分程度したら、「Au revor!(さようなら!)」と帰っていきました。
その30分後には若い女性が来て、おじいちゃんの身体を拭いたり、トイレや洗面のお世話をしたりしています。
午後の14時頃にも違う女の人が来ました。歩行器でおじいちゃんをテーブルまで歩かせ、食事をとらせ、そのあいだにキッチンの洗い物や洗濯、掃除、買い物まで……。
月曜日から金曜日まで毎日こんな感じ(驚き!)。
週に3回行われるおじいちゃんのリハビリ風景
制度があるから一緒にいられる
週に1回は看護師さんも来ました。エレンに聞くと、内容によっては支払いもしているけれど、ほとんど高齢者介護や健康保険などの制度で人を雇っている、とのことでした。
おじいちゃんは歩行器があれば家の中を歩くことができます。食事は自分の好きな時間にとるらしく、準備しておけばあとは自分で食べていました。
「今のおじいちゃんの介護レベルは2。良くなることは期待していないけど、ここから悪くならないようにしたいと思っているの! だから、私はできるだけ手を出さないようにしてる」
エレンはできるだけ自宅での介護を望み、あらゆる制度を使っているようでした。
「問題はベッドで寝てる時間が増えたこと。私も一日中はおじいちゃんに構ってあげられないけれど、老人ホームに入ったら会いに行く時間も限られるし、良い老人ホームは高くて…。本人も家にいたいと言うから、できるだけ頑張りたいの」とのこと。
エレンは素晴らしい人だなあと思いました。
日本と同じ!フランスの介護用品
1週間前、エレンのお母さんが病院を退院しました。看護師さんや介護師さんと今後の話をしなくてはいけないため、私もエレンと一緒にお母さんのお迎えに行きました。
お母さんは長年一人暮らしをしていましたが、去年から体調を崩し、今は自分のことがほとんどできない状況。
フランスでは、医療や看護のヘルプが必要な人には1日1回医療者が様子を見に来て、与薬などの医療行為も行ってくれるようです。日本と同じで介護の会社があるらしく、そこに申し込むと人が送られてくるようでした。
お母さんのベッドサイドに置くテーブルを買いに介護用品専門店にも行きましたが、そこで売られていたのも日本とほぼ同じもの。フランスも長寿国のひとつだからか、高齢者が快適に過ごせるように、日々いろいろなものが開発されているように感じました。
お母さんを介護する訪問看護師。ユニフォームはないみたい
学校教育で生活習慣のお勉強を!
この記事を書くにあたってフランスの高齢者に関わる文献を眺めていたら、“ヘルシーエイジング”という言葉を見つけました。
そこには「今後、生涯にわたる健康増進や予防、生活習慣についての教育は、若い時期に始める必要がある」という旨の文章が。これは、子供の学校教育に「運動」や「正しい食生活」などを取り入れる必要がある、ということです。「他人事ではないなあ~」と感じました。
しかし、エレンのおじいちゃんやお母さんが「高齢」や「病気」という問題を抱えながらも元気でいるのは、毎食のワインとおいしいチーズやバターのおかげのような気もします。
なにせ、エレンのお母さんが救急隊員にベッドまで運ばれ、横になってすぐに言った言葉が「冷蔵庫にワインがあるから今すぐ取ってきて~」でしたから(笑)
【山本ルミ】看護師・エスコートナース
大分県出身。93年より六本木のインターナショナルクリニックに勤務。98年よりエスコートナースとしても活躍している。著書に『患者さまは外国人』(山本ルミ・原案 世鳥アスカ・漫画)など。
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