アレルギー患児と家族の生活の手助けを|小児アレルギーエデュケーター本間恵美さん
食物アレルギーや喘息などに代表される小児のアレルギー疾患は増加傾向にあります。
アレルギー疾患の多くは、自己管理が治療の大きな鍵を握ります。そのため、自己管理がうまくいくように、アドヒアランスを高めたり、周囲の理解を含め、治療環境を整えたりしていくことが大切です。
患者さんやご家族がきちんと自己管理できるように、患者教育を担ったり、周囲への啓発を促したりするのが「小児アレルギーエデュケーター」。日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会認定の、小児のアレルギー疾患を総合的に捉え患者教育を行う専任のコメディカルスタッフです。
今回は、小児アレルギーエデュケーターとして活躍する看護師の本間恵美さんにお話を伺いました。
米沢市立病院 小児アレルギーエデュケーター 本間恵美さん
小児アレルギーエデュケーター 本間恵美さんインタビュー
アレルギー外来で患児やご家族をサポート
山形県米沢市にある米沢市立病院の小児科で働く本間さん。アレルギー外来を担当し、アレルギーのお子さんとそのご家族に指導をしたり、相談を受けたりしています。
今日、相談のために来院したのは、小麦および乳製品にアレルギーを持つ患児と、そのお母さんのSさん。前回の来院時には、小麦の食べられる範囲での食事対応について困っていることを相談していました。
本間さんに、「小麦にだいぶ対処できるになりました!」と嬉しそうに報告するSさん。それを聞いて、本間さんも自分のことのように喜びます。
Sさんにはもうひとりお子さんがいますが、アレルギーは下のお子さんだけです。そのために、兄弟で食べられるものと食べられないものが分かれてしまうのが悩みとのこと。先日もお誕生日パーティーを開きましたが、乳製品アレルギーがある下の子は、生クリームのケーキを食べることができません。
それを聞いた本間さんは、「豆乳の生クリームなら食べられますし、○○というお店の豆乳生クリームケーキは味も良いですよ」とアドバイス。常にアンテナを張ってアレルギーに役立つ地域の情報を収集しているからこそ、すぐに役立つ助言をすることができます。
個別の事情に合わせた的確なアドバイスを心がけている
面談を終えたSさんにお話を伺うと、
「本間さんは、子どものことについて本当に真剣に向き合ってくれます。例えば、アレルギーを持っている子どもの食事は、結構お金がかかるんですね。それをどういう風に節約できるかも教えてくれますし、何より私たち保護者の気持ちを理解して、頑張っていることを認めて褒めてくれる。ここに来て、一番癒されているのは私かもしれません」
とのこと。
Sさんは笑顔で病院を後にしました。
患者さんとご家族の日常生活の手助けができる資格
アレルギー疾患の自己管理は、症状コントロールだけでなく、アレルゲン回避や悪化予防、症状が起きたときの対処など、日々の生活に大きく影響します。
「アレルギーを持つお子さんには毎日の生活にアレルギー対応がついてまわります。そうした中で、ストレスなく効果的な治療を受けられるように、困りごとのお役に立てるのが、私たち小児アレルギーエデュケーターなんです。
短い診察の中では医師の説明や意図がなかなか十分には伝わらず、そのために苦労をしている患者さん・ご家族は少なくありません。正しい知識や方法を取得し効果的に介入することで、不用意に難治化させない、そのタイミングを逃さないというのも私たちが入ることのメリットだと思います」
本間さんがタッグを組んでいる、アレルギー専門医の岡田昌彦先生は、小児アレルギーエデュケーターの役割についてこう分析します。
「小児アレルギーエデュケーターがきちんと病状やニーズを聞いてくれるおかげで、しっかりした予診ができています。ですから、私としても診察がしやすい。アレルギー疾患を持つ方が増えている昨今、小児アレルギーエデュケーターのスキルは、さまざまな場面で必要とされると思いますよ」
小児アレルギーエデュケーターとしての本間さんの活動は、アレルギー外来で患者さんの相談にのることだけではありません。米沢市医師会、米沢市教育委員会と協働して、院外の18カ所でアレルギーの知識の普及やアレルギー児への理解や支援のために出前講座を行っています。
「学校など子どもたちの生活の場に出向いて、アレルギーのお話をしています。学校で行う出前講座は、教員を対象としたもの。子どもたちが安全に生活できる環境を作ることが何よりも大切です。その第一段階として、学校の先生方の理解と協力が必要ですし、その手助けになればという思いで行っています」
出前講座でのエピペン使用方法の指導風景
適切なアドバイスをするために資格を取得
本間さんが小児アレルギーエデュケーターの資格を取得したのは、平成25年のこと。
「平成22年に小児科外来勤務になったのですが、長い期間アレルギーの治療をしている患者さんでも意外と知らないことが多かったんです。そうした患者さんたちに、ちょっとしたアドバイスをするとすごく楽になったり、良くなったりするんですね。そこで、アレルギーについて体系的に学び、指導スキルを身につけて効果的な指導ができるようになりたいと思いました。そのような勉強がどこでできるのか調べたら、この資格に行き当たったんです」
思いを行動に移した本間さんは東京へ。そこで講習と審査を受け小児アレルギーエデュケーターの資格を取得しました。
小児アレルギーエデュケーターの認定試験は年に1回。アレルギー専門医のもとでの2年以上の臨床経験が必要で、2段階の講習と試験を経て、ようやく小児アレルギーエデュケーターの認定資格を得ることができます。5年ごとに認定の更新が必要で、これにより有資格者の質が担保されています。
「試験ではアレルギー専門医並みの知識を問われます。そのため、とても難しく感じられました」
現在は、学習用の分かりやすいテキストも発売されている
適切な情報がなく途方に暮れるお母さん。その負担を軽減するには
小児アレルギーエデュケーターの資格を取得したことで、「活動の幅がとても広がった」という本間さん。
アレルギー外来を受け持つ経験の中で、最も印象に残っているケースについて伺いました。
「分かっているけどできない、行動変容ができずに症状が良くならない、という方に介入した事例が印象に残っています。時間はかかりましたけれども、結果的に症状が良くなって、お子さんが元気に学校に行けるようになったんですね。行動変容ができなかったことには、経済的な理由や、親の心理面または時間的な問題など、さまざまな阻害要因があります。
アレルギー児に症状改善がみられない場合、いろいろな問題が複雑に絡み合っていることがあります。そのため、患者さんとご家族が困っていることを、ひとつひとつ紐解いていくのが私の役割でもあります。とにかく私は、患者さんの負担をできるだけ増やさず、実行可能な方法を提案していきたいと思っています」
多くの保護者が、適切な情報や治療に出くわすことなく、混乱したまま、どうしていいか分からず途方に暮れている実情。本間さんは面談をしているとき、そのことを強く感じるのだそうです。
「さまざまな医療機関をまわって最終的に当院にたどり着いた、というお母さんはたくさんいます。みなさん、すごく頑張って、それでも良くならなくて、お話をするうちに、泣いてしまうお母さんがたくさんいらっしゃるんですよ」
医師・看護師・薬剤師・管理栄養士のチーム体制で患児とご家族をサポート
地方都市でも患児と家族の支援体制を整えたい
アレルギーの患児を抱えて悩む保護者が多い中、本間さんは支援体制の拡充についても意欲的です。
「患者会などのセルフヘルプグループがあると望ましいのですが、不適切な情報で結ばれている患者会も存在するので、難しいところです。地方によっては患者会と小児アレルギーエデュケーターが一緒に活動しているところもあります。米沢市はまだ小児アレルギーエデュケーターの人数も少なく基盤ができていません。いずれは、そうした取り組みをしていきたいと考えています」
本間さんは、米沢市市民公開講座や米沢市薬剤師生涯教育講座、米沢市保健担当者会などで講義を行い、アレルギー患児支援の輪の拡大に努めています。
「日本小児アレルギー学会や環境再生保全機構など、全国規模での講座では、小児アレルギーエデュケーターの仲間とともに活動しています。今年度からの約2年間は、小児アレルギーエデュケーターのマスター研修に参加し研鑽を積んでいるところです。医師会、教育委員会、そして学校や保育園をつないで、市民に対しても正しい知識を啓蒙できるような存在でありたいと思います」
講座などを通じて支援の輪の拡大に尽力
最後に、小児アレルギーエデュケーターの取得を考えている方に向けてのメッセージをいただきました。
「簡単な試験ではないと思います。そして、資格を取得して終わりではありません。ずっとずっと勉強し続けていかなくてはいけませんが、これからますます必要とされる資格だと思います。小児アレルギーエデュケーターがもっと増え、助けを必要とする患者さんとご家族の負担が減ればと思います」
すべては、子どもの安心、安全のために。そして、家族の心の安らぎのために。
本間さんの奮闘はまだまだ続きそうです。
<取材協力>
米沢市立病院
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