「口から食べる」にこだわる看護│日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士・小山珠美さん

摂食嚥下サポート担当の看護師として活動する、社会医療法人三思会の小山珠美さんへのインタビュー。後編では、小山さんが摂食嚥下リハビリテーションに関わるようになった経緯や、「口から食べること」にこだわった看護を続ける理由について伺います。
    

 

日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士・小山珠美さんインタビュー【後編】

 

【前編】 胃ろうから経口摂取復帰も実現。患者さんに口から食べる幸せを│日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士

 

食べる楽しみを簡単に奪ってしまう医療に疑問

日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士であり、この資格の立ち上げから準備委員として関わってきた小山さん。現在は、社会医療法人三思会での勤務のほかに、講演活動や研修などで摂食嚥下リハビリテーションの重要性や口から食べることの大切さを訴えています。こうした活動を始めてから20年近くになるそうです。

 

1995年頃、小山さんは脳卒中専門のリハビリテーション病院で看護師長として仕事をしていました。当時はちょうどろうが普及し始めた時期。口から食べられる可能性があり、食べたいという希望を持っていても、胃ろうを選択する医療関係者が増えていくことに疑問を持つようになります。

 

「リハビリ病院だったので、寝たきりで口から食べられない状態で転院してくる患者さんがたくさんいました。胃ろう栄養が普及する前は、後遺症で口に麻痺がある方でも、早く身体を起こして、口腔のケアを行い、口のマッサージをして安全なものから食べさせれば、早く食べられるようになっていたんです。

 

それなのに“胃ろうのほうがリスクも少ないし、誤嚥性肺炎になったら大変だから”と、簡単に口から食べることを禁止して、患者さんから食べる楽しみを奪ってしまう。“本来はリハビリによって、患者さんの持つ可能性を引き出していくことが私たち看護師の使命のはずだ”と憤りと情けなさを感じていました。過度な医療安全に走るあまり、口から食べさせることをやめさせてしまったことが、ひいては寝たきりを助長させ、食べたいという細やかな希望までも奪ってきたとも言えます」

 

 

摂食嚥下療法チームの取り組み

その後、同じ考えを持つ医師などとともに、口から食べるためのリハビリを進めていった小山さん。病院以外でも勉強会や研究会、学会の発表などを10年近く続けてきました。

 

「リハビリ専門病院では寝たきりで経口摂取は困難と診断された方が、段階的に摂食嚥下リハビリテーションを行った結果、食べられるようになり、歩いて退院される姿もたくさん見てきました。人間にとって“おいしく食べることがよりよく生きること”なのだと実感してきたからこそ、それを大切にした看護をしたいと思ってやってきました」

 

急性期の病院の患者さんも、より早く食べられるようにしてあげたいと考えていたとき、現在の社会医療法人三思会から声がかかり、2006年から東名厚木病院に勤務。寝たきりで食べていない入院患者さんが多かった状態から取り組み、小山さんを中心に看護師、歯科衛生士、ST(言語聴覚士)などによる摂食嚥下療法のチームを創設。昨年まで活動し、院内だけではなく、院外からの研修生の受け入れなども行ってきました(※現在は法人である社会医療法人三思会全体を担当)。


現在、このチームの看護師6名のうち2名と、歯科衛生士1名も日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士の資格を取得して活動しています。
 

研修生の言語聴覚士へ、気管カニューレ留置中の摂食訓練を指導している場面

研修生の言語聴覚士へ、気管カニューレ留置中の摂食訓練を指導している場面

 

「患者さん自身がどう生きたいのか」という視点の看護 

この4〜5年、「今は胃ろうを使っているが、口から食べられるようにしてあげられないか」という家族からの電話相談が増えているそうです。その相談件数が300件にもなったことから、小山さんは2013年6月、NPO法人「口から食べる幸せを守る会」を立ち上げました

 

「今はインターネットで情報を得られるので、“本当に食べられないのか?”とご家族が疑問を持って調べるようになったことも背景にあると思います。

 

やはり、自分だけ食べていてもおいしくないし、ご家族が食べられないとつらいんですね。お任せの医療、福祉ではなく、“自分たちがどう生きたいのか、家族をどう幸せにしてあげたいのか”と考える方が増えています。そうした状況だからこそ、看護師も“どうしたら安全においしく幸せに食べられるか”という視点に立って看護をしてほしいと思います。

 

看護師は患者さんの健康の担い手であり、幸せを守る責務があるのですから。そして、看護の技術として摂食嚥下リハビリテーション(特に口から食べるリハビリテーション)を自分でできるようになれば、目の前の患者さんを救うことができるのです」

 

 

仕事をしながら技術を習得「日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士」

その技術を学ぶ方法の1つが、「日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士」の修得。安全で豊かな食を取り戻すための摂食嚥下リハビリテーション、その発展と普及をめざす一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会の認定資格です。受験資格に必要なeラーニングのカリキュラムには78のコンテンツがあり、摂食嚥下リハビリテーションに必要な基礎知識を幅広く学ぶことができます。

 

「同様の知識を得られる日本看護協会の摂食・嚥下障害認定看護師との大きな違いは、eラーニングで仕事を続けながら勉強できる点です。今は口から食べることへの大切さが注目されるようになり、この資格取得を歓迎する職場も多いはずです」

 

資格取得を目指し、職場で実務を経験できない人のために、小山さんのNPO法人「口から食べる幸せを守る会」では、1日単位セミナーを開催。看護学校や病院などで実際に手を添えながら、リハビリの介助の技術を指導しています。指導は同NPO法人の実技認定者制度で認定されたアドバイザーが行います。

 

第20回日本摂食嚥下リハビリテーション学会食事介助スキルアップセミナーでの指導場面(2014.9.5)

第20回日本摂食嚥下リハビリテーション学会食事介助スキルアップセミナーでの指導場面(2014.9.5)


病院の外来をはじめ、訪問看護、NPO法人の活動、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の評議員・認定士としての活動、さらに講演、執筆などで休みなく走り回っている小山さん。最後に、小山さんが人一倍「口から食べること」にこだわった看護を続ける理由をお聞きしました。

 

看護とは相手の立場に立って想像し健康回復へと導くこと。私は“どうしたら患者さんやそのご家族の願い、希望を叶えられるか。そのために問題解決をして幸せに導いていきなさい”という看護教育を受けてきました。さらに、自分の子どもが母乳やミルクを飲んでどんどん成長していく姿、一方で身近な家族が食べられなくなって亡くなっていく姿も見てきました。

 

そんな中で、“口から食べることは人間にとって最も大事にしなければいけないことだ”と強く感じたんです。食べることは命の根幹そのものなんです。だからこそ、そこにこだわってやっていきたいという思いが原動力になっています。やはり皆さん、食べることは好きですよね? 自分の親、子ども、そして自分自身が、それをできなくなったら平気でいられないと思うんです。もし、目の前の患者さんが自分自身だったら?と想像して、食べる可能性を最大限に支援できる看護がしたいですね」

 

【看護roo!編集部】


<プロフィール>
小山珠美(こやまたまみ)さん

看護師歴36年

1978年 神奈川県総合リハビリテーション事業団 神奈川リハビリテーション病院 厚木看護専門学校

2005年 愛知県看護協会 認定看護師教育課程「摂食嚥下障害看護」分野 主任教員

2006年 社会医療法人社団 三思会 東名厚木病院に勤務し、2010年より摂食嚥下療法部課長、2013年より同部部長。2014年より2015年3月まで法人本部摂食嚥下サポート担当課長を務める。

2015年4月よりJA神奈川県厚生連 伊勢原協同病院に勤務。

2009年に日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士取得。

NPO法人口から食べる幸せを守る会

 

日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士について

SNSシェア

コメント

0/100

キャリア・働き方トップへ

掲示板でいま話題

他の話題を見る

アンケート受付中

他の本音アンケートを見る

今日の看護クイズ

本日の問題

◆脳・神経の問題◆ホルネル症候群の症状で、誤っているものはどれでしょうか?

  1. 病側の眼瞼下垂
  2. 病側の眼裂狭小
  3. 病側の散瞳
  4. 病側顔面の発汗低下

8222人が挑戦!

解答してポイントをGET

ナースの給料明細

8971人の年収・手当公開中!

給料明細を検索