そのサプリメント、本当に飲んで大丈夫?~飲んだ方が良いサプリ・無駄なサプリ

木下喬弘木下喬弘 / メディキューCEO / エピタップ代表

みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト副代表

サプリメントについて疑問を感じている女性のイラスト

2024年3月、健康食品として販売されていた「紅麹」の成分を含むサプリメントを内服していた人に健康被害の報告が出ているということで、販売元の企業が問題を公表し、大きな話題になりました。

 

厚生労働省と国立医薬品食品衛生研究所の約半年にわたる調査の結果、青カビから発生することがある「プベルル酸」という化合物が混入していたことが原因であることがほぼ確定しています。

 

今回は、健康志向の強い方がよく飲んでいるサプリメントについて、科学的な根拠がどれくらいあるのかを解説したいと思います。患者さんの健康を預かる看護師のみなさんには、ぜひ正確な知識を身に付けてほしいと思います。

 

ほとんどのサプリメントは無意味

まず結論から入ります。ほとんどのサプリメントは無意味です。わざわざ飲む必要はありません。本当に効果があるならとっくに医薬品になっていますし、そうでない成分は食事から摂ることができるからです。

 

これでは話が終わってしまいますので、いくつか具体例をみてみましょう。

 

そもそも、保健効果や健康効果を表示することができるものには、国の基準に基づき薬効が確認されている医薬品・医薬部外品と、特定保健用食品(いわゆるトクホ)、栄養機能食品、機能性表示食品などの保健機能食品があります。

 

サプリメントはこのいずれにも該当しない、いわゆる一般食品に該当します。その中で、通常の食品と紛らわしくない形をしているもの(錠剤とかカプセルとか)をサプリメントと呼ぶのが一般的です。保健機能食品の中でも少数例での研究しか行っていなかったり、効果が怪しいものも多数ありますが、サプリメントは保健機能食品にすら入らないカテゴリーだということです。

 

代表的なサプリメントに、オメガ-3脂肪酸があります。オメガ-3脂肪酸は魚や甲殻類、植物油などに多く含まれている成分で、実際に海産物を多く摂取する人は、死亡のリスクが7%少ないという研究結果が報告されています[1]。こうした研究結果から、オメガ-3脂肪酸を内服すると体に良いのではないかということが期待され、さまざまなサプリメントが販売されています。

 

しかし、25,871人の方を対象にオメガ-3脂肪酸のサプリメントが心疾患に与える影響を調べた大規模なランダム化比較試験では、オメガ-3脂肪酸の摂取をしても心血管イベントや癌の罹患を減らす効果は認められませんでした [2]

サプリメントのイメージ画像

なぜ食事だと効果があるのにサプリメントでは意味がないかについては、さまざまな原因が考えられます。海産物を多く摂取する人は他の健康行動も良いことを考慮できていない可能性もありますし、もっと他の影響もあるかもしれません。

 

ただ一つ言えることは、食品全体で良い効果があるとしても、その中の一つの成分だけを取り出して同じ効果が得られるとは限らないということです。

 

こういうことを書くと必ず「効果がないとは限らないじゃないか」という反論が返ってきます。わかります。枕の方角を変えると運気が引き寄せられるかもしれないし、玄関に塩を盛ると病気になりにくいかもしれません。朝の占いで勧められたラッキーアイテムを持ち歩くと恋人ができるかもしれないじゃないですか。

 

別にこうした考えを否定するつもりはありませんし、みなさんが効果を信じてサプリメントを飲むことは自由です。ただ、科学的な根拠に基づいて「効果がある」といえるサプリメントはほとんどない、ということを言っているだけです。

科学的根拠のイメージ画像

 

効かないだけでなく、有害なものも

サプリメントが「効果がない」だけでなく、有害な影響を及ぼす事例も少なくありません。特に米国では、サプリメント市場が規制の緩さゆえに急成長しており、サプリメント関連の健康被害で年間約2万3,000人が救急外来を受診しているとの報告があります[3]

 

「薬ほど強くない」というイメージを持っている人もいるかもしれませんが、一定の基準で効果と副作用が評価されてから市場に出る医薬品と違い、サプリメントには十分な安全性評価の仕組みがないのが実情です。

 

代表的な例はβカロテンでしょう。βカロテンはにんじんやほうれん草に多く含まれる物質で、抗酸化作用を有するとされ(このワードはトンデモ医療界隈で非常によく使われています)、癌や心血管イベントの発生を予防するのではないかと考えられてきました。

 

しかし、現在は複数の研究を統合したシステマティック・レビューにおいて、癌の罹患率を下げるエビデンスがないだけではなく、喫煙者ではむしろ肺癌癌の罹患率を上昇させてしまうという結果になっています[4]

 

他にもハーブ系のサプリメントで体重減少を謳っているものでは、精神疾患や自律神経失調症、消化器系の有害事象が報告されています[5]。特に有名なのはエフェドリンアルカロイドという成分を含むサプリメントで、脳梗塞不整脈、死亡にまで関連したということで、FDA(米国食品医薬局)が販売を禁止した経緯があります[6]

 

飲んだほうが良いサプリメントは

マル・バツの札を掲げる女性のイラスト

では、サプリメントは一切飲まないほうが良いのでしょうか。もちろんそんなことはなくて、サプリメントが必要なケースも存在します。ただし、基本的には医師や専門家が指導する明確な栄養不足がある場合に限られます。

 

代表的なのは、妊娠を計画している女性における葉酸の摂取です。葉酸はビタミンB群の一種で、DNAやRNA、タンパク質の生合成を促進し、細胞分裂に関わる栄養素です。妊娠初期に必要な葉酸が不足すると、胎児の脊髄の発達異常である神経管閉鎖障害のリスクが上がることが知られています。妊娠2週から6週の妊娠超初期に神経管を作るために葉酸が必要になりますので、妊娠を計画している人は、妊娠する前から葉酸を摂取することが推奨されています​

 

他にも、鉄分不足による貧血の診断がある人や、亜鉛不足による味覚障害のある人には、サプリメントでこれらの物質を補うことが合理的です。また、消化器系の病気や手術後などで栄養吸収障害がある場合にも、ビタミンB12やカルシウムの補充が必要になることがあります。

 

無駄な健康グッズにお金を使わないために

「健康」に対する不安は、サプリメントだけでなく、さまざまな健康グッズの市場を拡大させています。しかし、その多くは科学的根拠が薄く、気分的な満足に終わるものが多いのです。

 

私も含めて、多くの人は努力が嫌いで、楽に成果を得る方法を探してしまうものだと思います。広告業界はこの心理につけ込んで、「○○を飲むだけで痩せる」「××を飲むだけで骨が強くなる」といった謳い文句で、みなさんにサプリメントを勧めてきます。

 

しかし、健康はサプリメント一つで手に入るようなものではありません。日々の食事、運動、睡眠などの基本的な生活習慣を改善する以外に近道はないのです。

 

無駄なお金を使わないためには、安易に商品に飛びつく前に「このサプリメントで健康が改善するエビデンスはあるのだろうか?」と、ひと手間かけて調べてみるようにしてほしいと思います。

 

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執筆

木下喬弘

みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト副代表。こびナビ(CoV-Navi)副代表。外傷専門医、公衆衛生学修士。2010年大阪大医学部卒。大阪の救命救急センターで9年間勤務した後、2019年にハーバード公衆衛生大学院に入学。日本のHPVワクチンに関する医療政策研究で2020年同大学院卒業賞を受賞。『みんなで知ろう!新型コロナワクチンとHPVワクチンの大切な話』(ワニブックス)など。X(Twitter)InstagramYouTube

 

編集:烏 美紀子(看護roo!編集部)

 

 

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