リフィーディング症候群|“コレ何だっけ?”な医療コトバ
『エキスパートナース』2015年4月号(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
リフィーディング症候群について解説します。
織田 順
東京医科大学病院救命救急センター長/主任教授
〈目次〉
リフィーディング症候群(refeeding syndrome)とは?
リフィーディング症候群とは、慢性的な栄養障害がある状態に対して、急激に栄養補給を行うと発症する、代謝性の合併症です。
飢餓状態が長く続いたあとに急に栄養補給されると、心不全や呼吸不全、腎不全、肝機能障害ほか多彩な症状を呈することがあります。
リフィーディング症候群は、どんなとき起こる?
リフィーディング(refeeding)とは、re(再び)feeding(摂取)という言葉の意味からもわかる通り、急激な栄養補給による障害を広く指して使われます。
例えば絶食、るい瘻、低血糖の症例に対しては、適切なカロリーの投与を急ぎたくなりますが、飢餓状態では代謝に以下のような変化をきたしており、急速な栄養補給は危険です。
リフィーディング症候群は、なぜ起こる?(メカニズム)
飢餓に陥ると、エネルギー代謝の主体は、糖から、貯蔵された脂肪やタンパクを利用するように変わります。さらに飢餓が長期になると、脂肪が主役となります。主要なミネラルも枯渇します。
ここで急激に栄養補給されると、急な糖負荷によりインスリン分泌は増加し、グルカゴンは抑制されます。リン、マグネシウムなどのミネラルはグルコース利用(細胞内への移動)に伴って細胞内に移動し、血中濃度が低下します。
また、ビタミンBの利用が増加しますが、低栄養により枯れている状態なので、いよいよ完全な欠乏状態となってしまいます。
リフィーディング症候群ではどんな症状が出る?
リンは体のエネルギー・ATPの一部となり、また酸素運搬にも必須です。この欠乏により、心不全、不整脈、呼吸不全、意識障害、けいれん、四肢麻痺などの多彩な症状を生じます。
マグネシウムは、体内の反応の多くで補酵素としてはたらいているので、欠乏すると不整脈や神経筋の合併症をきたします。
また、ビタミンB1枯渇による、ウェルニッケ症候群(眼性異常、運動失調、錯乱状態、低体温、昏睡)や、コルサコフ症候群(逆行性健忘、作話症)などを生じます。
リフィーディング症候群のポイント
栄養補給の方法に注意
長らく糖代謝によるエネルギー代謝を行っていないところに、急に糖負荷を行うと、急激にインスリン分泌をきたし、糖代謝に必要な物質が欠乏してしまうところがポイントです。なかでも最も気をつけるべきものがリン・マグネシウム欠乏で、不整脈から死に至ることがしばしばです。
したがって、長期間の飢餓に対しては、栄養補給のペースに最大限配慮するとともに、これらのミネラルや電解質のモニタリングが非常に重要です。
また、高リスク患者のアセスメントが大切です。英国のNICEガイドラインには、リフィーディング症候群の高リスク患者が示されています(表1)(1)。
リフィーディング症候群にどう対応する?
まずは上記に沿ったアセスメントを行い、状態把握を行いましょう。高リスク患者であれば、再栄養に最大限の注意を払わなければなりません(図1)。栄養は、静脈栄養より経腸栄養のほうが適しているともいわれています。
なお、再栄養開始から1~2週間までは、リフィーディング症候群の発症リスクが続きます。
コラム:「ダンピング症候群」とは?
胃切除後の栄養投与の際には、胃に食物をプールできなくなるため小腸に急速に流れ込みます。すると急速に血糖が上昇します。
引き続き反応して分泌されるインスリンにより、今度は血糖の急降下が起こります。
これら血糖の急な変化により、おおむね食後2~3時間あたりで「震え、冷汗、めまい、脱力」などを生じるのが、「ダンピング症候群」です。少しずつ摂取することが大切です。
[引用文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社
P.32~「リフリーディング症候群」
[出典] 『エキスパートナース』 2015年4月号/ 照林社