酸塩基平衡|“コレ何だっけ?”な医療コトバ
『エキスパートナース』2015年4月号(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
酸塩基平衡について解説します。
島 惇
自治医科大学医学部麻酔科学・集中治療医学講座(集中治療医学部門)
布宮 伸
自治医科大学医学部麻酔科学・集中治療医学講座(集中治療医学部門) 教授
〈目次〉
酸塩基平衡とは?
酸塩基平衡とは、体内での酸と塩基のバランスを指し、主に肺と腎臓で調節されます。
酸塩基平衡のメカニズム
生体内では絶えず栄養素の代謝が行われ、その結果、酸が産生されています。産生される酸は「揮発酸」と「不揮発酸」に分けられます。
揮発酸は二酸化炭素であり、肺から呼吸により体外に排出されます。また不揮発酸には乳酸やリン酸、アセト酢酸があり、腎臓から尿として排出されます。このように体内で産生された酸を肺や腎臓を介して体外へ排出することで、体内のpHは適正に保たれます。
しかし病的状態に陥ると酸塩基平衡が崩れ、それを肺や腎臓により適切なpHになるように調節する機構、すなわち「代償機構」がはたらくようになります。このような酸塩基平衡の障害やその代償は4つに分類され、以下のように呼ばれます。
- ①呼吸性アシドーシス
- ②呼吸性アルカローシス
- ③代謝性アシドーシス
- ④代謝性アルカローシス
ここで注意したいのは、アシドーシス、アルカローシスという言葉は、体内の酸と塩基のバランスを“酸性側に傾ける”“塩基(アルカリ)性側に傾ける”という方向を表しているもの(図1-①)であり、動脈血液ガス分析のpHの値が酸性かアルカリ性かを指す言葉ではありません。動脈血液ガス分析のpHが酸性の場合(pH<7.35)はアシデミア、アルカリ性の場合(pH>7.45)はアルカレミアと呼び方が異なるので(図1-②)、間違えないようにしてください。
言葉の定義を理解したら、実際に動脈血液ガス分析の結果を解釈するのですが、アシドーシス、アルカローシスを判断するにはさまざまな計算式が必要であり、解説は成書に譲ることとします。
酸塩基平衡が崩れるとどんな症状が出る?
体内の酸塩基平衡が崩れると全身の臓器が障害され、さまざまな症状が出現します。
アシデミアが進行すると、意識障害、頻呼吸、肺水腫、不整脈、心収縮能の低下など、中枢神経、肺、心臓の症状が現れます。そのほかにも、悪心・嘔吐など消化器症状や腎機能障害をきたすこともあります。
アルカレミアが進行すると、低カルシウム血症となり、頭痛、傾眠、痙攣発作などの症状が出現します。また、低カリウム血症もきたし、脱力や不整脈といった症状が現れます。
酸塩基平衡について知りたいポイント
酸塩基平衡が崩れる疾患を覚えよう
アシドーシス、アルカローシスをきたす代表的な疾患を表1に挙げました。
では臨床ではどのような例があるか考えてみます。
ここに敗血症の患者がいるとします。
敗血症では末梢循環不全により嫌気性代謝が亢進し、不揮発酸である乳酸の産生が増加します。またさまざまな臓器障害を起こし、その1つとして腎機能障害を認め、不揮発酸の排出が低下するかもしれません。
この結果、体内に不揮発酸が蓄積し、代謝性アシドーシスとなります。そして、代謝性アシドーシスを代償する機構がはたらかなければ、pHはどんどんアシデミアに傾いてしまいます。
そこで、呼吸回数を増やすことで、CO2の体外への排出を増やし、呼吸性アルカローシスにより代償します。
このように、肺や腎臓が補い合いながら体内のpHを適正に保つようにはたらいています。
これらの疾患では臨床症状も観察
酸塩基平衡は動脈血液ガス分析で評価しますが、どのようなときに検査を行えばよいのでしょうか。
前述したように、酸塩基平衡が崩れると全身のさまざまな臓器で症状が出現します。特にアシデミア・アルカレミアに共通する、意識障害に早期に気づくことでさらなる重篤化を防ぐことができます。
また、酸塩基平衡が崩れると電解質異常をきたします。アシデミアでは高カリウム血症、アルカレミアでは低カルシウム血症となるため、ふだん行う血液検査でこれらK、Caなどの値に注意を払う必要があります。
酸塩基平衡の崩れにどう対応する?
原疾患の治療+呼吸管理や血液透析を
では、酸塩基平衡が崩れたときには、どのように治療を行えばよいでしょうか。
まず最も大切なのは原疾患の治療です。しかし、原疾患の治療のみではアシデミア・アルカレミアの進行を防げないこともしばしばあります。
そのような場合には、肺や腎臓の代わりとなる治療が必要になります。
肺を補助する治療としては、NPPVや挿管による人工呼吸管理があります。腎臓を補助する治療としては、血液透析やCRRT(continuous renal replacement therapy、持続緩徐式血液濾過)などの腎代替療法があります。
しかし、pHが正常範囲内であれば、CO2やHCO3-が異常値であったとしても、必ずしもこれらの治療は必要ありません。また、患者の状態によってはpHが7.2程度までならアシデミアを許容することもあります。
[参考文献]
- (1)清水敬樹編:ICU実践ハンドブック-病態ごとの治療・管理の進め方.羊土社,東京,2009:20-23.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有©2015照林社
P.40~「酸塩基平衡」
[出典] 『エキスパートナース』 2015年4月号/ 照林社