生体防御のしくみ|非特異的防御機構と特異的防御機構

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。

 

[前回の内容]

白血球の働き

 

今回は、生体防御のしくみについて解説します。

 

片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師

 

Summary

  • 1. 自己にとっての異物を「非自己」として識別し、排除するシステムを免疫という。免疫が正常に機能しないと、感染症・アレルギー疾患・自己免疫疾患・悪性腫瘍などの原因となり、ホメオスタシスに支障をきたす。
  • 2. 生体防御機構は、非特異的防御機構と特異的防御機構に大別できる。
  • 3. 非特異的防御機構に重要な役割を果たすのは、好中球、単球(マクロファージ)である。
  • 4. 特異的防御機構の中心的役割を果たすのが、リンパ球である。
  • 5. 免疫機構には、異物の攻撃、排除にあたる細胞性免疫(Tリンパ球が担う)と抗体を産生して抗原を攻撃する液性免疫(Bリンパ球が担う)がある。

 

〈目次〉

 

免疫

人体は、自分自身の細胞や組織以外のものを排除し、生体に危害を加えるものから防御する能力をもつ。この能力を免疫という。免疫を担う細胞には、好中球、単球(マクロファージ)、リンパ球などがある。

 

防御機構は、非特異的防御機構と特異的防御機構に大別できる。非特異的防御機構は、細菌や異物などを無差別に排除する機構で、異物侵入の初期に働く。

 

もう1つの特異的防御機構は、一度感染したら、同じ病原体には再び感染しないように働く機構で、侵入した病原体を認識して特異的に処理する。

 

非特異的防御機構

非特異的防御機構に重要な役割を果たすのは、好中球単球(マクロファージ)である。

 

好中球

好中球は、細菌などの体内異物に対する貪食作用がある(図1)。血液中に大量に存在し、血管外に出て細菌のいる場所に進んでいく(遊走図1)。

 

図1好中球の血管外遊走と食作用

好中球の血管外遊走と食作用

A 好中球は変形しながら血管壁を自由に通過(血管外遊走)し、化学走性源に接近する様子を示す。
B 好中球が細菌などの異物を貪食する様子を示す。好中球が異物を貪食し、食飽を形成する。食飽にリソソームが作用してプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)を放出し、異物は消化される。

 

いったん血管外に出た好中球は、血管内に戻ってこない。膿は、細菌を貪食した好中球の死骸や放出された酵素で融解された組織である。

 

単球(マクロファージ)

単球は、好中球より遅れて感染部位にかけつける。単球が血管外に出てマクロファージになる。

 

マクロファージは好中球よりもさらに強い貪食能をもっており、細菌ばかりでなく不要になった細胞も貪食する。このように大食い細胞なので大食細胞ともよばれる。マクロファージのなかには常に生体内の組織に定着している組織内マクロファージも存在し、中枢神経ではミクログリア、肝臓ではクッパー細胞、骨では破骨細胞、肺では肺胞マクロファージのように個別の名称がつけられている。

 

特異的防御機構

リンパ球がこの機構の中心的役割を果たす。免疫機構には異物の攻撃、排除にあたる細胞性免疫Tリンパ球が担う)と、抗体を産生して抗原を攻撃する液性免疫Bリンパ球が担う)に大別されるが、この両者の共同作用によって生体を防御している。

 

Tリンパ球(T細胞)の働き

T細胞は、免疫系全体の司令塔的な役割を果たしている。T細胞は、マクロファージが貪食した異物(抗原)の特徴を認識すると、感作リンパ球となってリンホカインサイトカインの一種)を産生する。

 

またヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞、細胞傷害性T細胞(キラーT細胞ともいう)、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)などそれぞれの役割をもったいくつかの細胞に分かれる。

 

ヘルパーT細胞は、B細胞が形質細胞へ分化するのを促進し、免疫に関与する細胞を活性化させる。

 

サプレッサーT細胞は、主としてヘルパーT細胞を抑制して抗体をつくりすぎたりしないよう抑制をかけるネガティブフィードバック機能を果たしている。

 

細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)は、細菌やがん細胞、移植された細胞等に打撃を与える。

 

ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は、ヒト血液中のリンパ球の2~10%を占め、ウイルス感染した細胞や腫瘍細胞を破壊する。ナチュラルキラー細胞の活性はストレスや加齢によって低下する。このため歳をとるとがんの発生率が高くなるとされる。

 

Bリンパ球(B細胞)の働き

B 細胞の主な働きは、T 細胞の指令により特定の抗体を産生することである。抗体は、免疫グロブリン(immunoglobulin:Ig)とよばれるタンパク質で、5種類(IgG、IgA、IgM、IgD、IgE)ある。抗体が抗原(細菌やウイルス等)と結合して抗原を攻撃する。

 

※編集部注※

当記事は、2016年6月26日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 

[次回]

免疫のしくみ

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版

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