自律神経系の機能|神経系の機能
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、自律神経系の機能について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師
Summary
- 1. 多くの臓器はお互い拮抗的に作用する交感神経と副交感神経の二重支配を受けている。
- 2. 交感神経は、闘争、興奮、逃げの体勢など、危機に直面したとき働く神経系といわれ、心拍数増加、心筋収縮力増大、呼吸数増加、散瞳、血圧上昇、血糖値上昇をもたらす。
- 3. 副交感神経は、休息、消化活動時に働く神経であり、消化運動・吸収促進、心拍数減少、呼吸数低下、縮瞳などをもたらす。
〈目次〉
自律神経系の機能
多くの臓器は、交感神経(アドレナリン作動性神経)と副交感神経(コリン作動性神経)の二重支配を受けている。交感神経(アドレナリン作動性神経)はNorを、副交感神経(コリン作動性神経)はAChを遊離し、それらが効果器の細胞膜上に存在する受容体に結合して、ほとんどの場合、拮抗する反応を引き起こすことにより機能調節を行っている。
交感神経系は闘争と逃走(fight and flight)のときに働く神経ともいわれ、興奮、怒り、逃走するとき、心臓をどきどきさせたり(心拍数増加、心筋収縮力増大)、呼吸を速めたり、血糖値を上昇させたり、手足に冷や汗をかくなど、危機に対処できる体勢を準備する。
このとき、消化活動は抑制されている。エネルギー消費を高める方向に働く神経系でもある(leading to energy expenditure)。交感神経系はまた、身体的なストレスに曝されたときにもフル回転する。
一方、副交感神経系は休息と消化活動(resting and digesting)を行う神経、あるいは成長(leading to growth)に向かうように働く神経であり、身体が睡眠時など安静状態にあるとき最も活発に活動している。
副交感神経の活動は、消化吸収を活発にし、心血管系は抑制され、心身を休めてエネルギーを蓄えるように働く。副交感神経が優位に働いているときは、血圧、心拍数、呼吸数は減少し、瞳孔は小さくなって網膜を保護し、水晶体は弛緩している。
ほとんどの場合で相反する反応をもたらす交感神経と副交感神経は、互いに絶妙なバランスを取り合って身体の状態を調節している。このような視点でそれぞれの反応(表1)をイメージすると理解しやすい。
副腎髄質の分泌顆粒中にはAdrが圧倒的に多い(AdrとNorの存在比は4:1)。交感神経活動が高まると交感神経節前線維からAChが遊離される。AChが副腎髄質のニコチン受容体に結合すると、Adrが血中に放出され、全身のアドレナリン作動性受容体に結合し、作用を発揮する。
表1自律神経系受容体の分布と反応
交感神経系の血圧調節
交感神経活動亢進が血圧上昇をもたらす一連の流れを図1に模式化した。
図1交感神経系の血圧調節
(血圧の神経性調節.メディカルトリビューン、1984より改変)
血管運動中枢(延髄にある)から交感神経にインパルスが送られてくると、神経終末からはNorが放出される。
Norは、①細動脈のα1受容体を活性化し、細動脈を収縮させる。②静脈のα1受容体を活性化し、細静脈を収縮させる。③心臓のβ1受容体を活性化し、心拍数増加、心筋収縮力増大をもたらす。④腎臓のα1とβ1受容体を活性化する。腎臓のα1受容体の活性化は、腎動脈収縮、腎血流減少をもたらす。
β1受容体の活性化は、昇圧性液性因子レニンの分泌を促進し、昇圧物質アンジオテンシンIIの生成を促進する。アンジオテンシンIIは、それ自体強力な血管収縮作用をもつと同時にアルドステロンの分泌を促進する。
アルドステロンは、Na+の再吸収を促進し、Na+貯留をもたらす。Na+の貯留は体液量増加をもたらし、これは静脈還流量増加、分時拍出量増大をもたらし、これらが血圧を上昇させる。
NursingEye
自律神経失調症(自律神経緊張異常症、自律神経不安定症)とは、さまざまな原因により交感神経と副交感神経による調節のバランスが崩れた状態をいう。思春期から40代の間に好発し、男性より女性に多い。症状は頭痛、めまい、疲労感、不眠、食欲不振、便秘など多彩である。
※編集部注※
当記事は、2016年6月2日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版