自律神経系の化学伝達物質と受容体|神経系の機能
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、自律神経系の化学伝達物質と受容体について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
Summary
- 自律神経節と副交感神経終末は伝達物質としてアセチルコリン(Ach)を、交感神経終末はノルアドレナリン(Nor)を放出する。
- 伝達物質としてAchを放出する神経をコリン作動性神経線維、Norを放出する神経をアドレナリン作動性神経線維という。 Norはアドレナリン(Adr)とともに、副腎髄質からも放出される(副腎から放出されるカテコールアミンの約80%は Adrである)。
- Achを結合する受容体をコリン作動性受容体という。
- コリン作動性受容体にはムスカリン受容体(M)とニコチン受容体(N)がある。
- M受容体は、M1、M2、M3のサブタイプに、N受容体は、NM、NNに分けられる。
- Norを結合する受容体をアドレナリン作動性受容体という。
- アドレナリン作動性受容体にはαとβ受容体がある。
- α受容体は、α1、α2に、β受容体は、β1、β2、β3のサブタイプに分類される。
- Norは、α1、α2、β1、β3受容体に結合し、活性化する(β2受容体には作用しない)。Adrは、α1、α2、β1、β2、β3受容体すべてに結合し、これらを活性化する。
〈目次〉
自律神経系の化学伝達物質
シナプス伝達で述べたように、神経線維内の興奮伝播は電気的(活動電位による)に行われるが、シナプス間隙の興奮の伝播は化学的に行われる。すなわち、神経線維の終末に活動電位が到達すると、終末からそれぞれ特定の化学物質が放出される。
放出された化学物質はシナプス間隙を拡散して、次の神経細胞あるいは効果器官の細胞膜にある受容体に結合し、興奮(情報)を伝える。神経線維内の興奮の伝播を伝導 conduction というのに対し、シナプス間の興奮伝播を伝達 transmission とよんで区別している。
興奮の伝播を担う化学物質を化学伝達物質 chemical transmitter、伝達物質あるいは神経伝達物質 neurotransmitter とよぶ。
自律神経系の化学伝達物質は、アセチルコリン acetylcholine(Ach)とノルアドレナリン noradrenarine(Nor)(ノルエピネフリン norepinephrine)である。
交感神経、副交感神経神経節の伝達物質はともにAchである。神経終末の伝達物質は交感神経終末では Nor、副交感神経終末では Achである(図1)。
(今井昭一:薬理学.標準看護学講座5、金原出版、1998より改変)
伝達物質の違いが情報の識別にとって重要である。Achを伝達物質とする神経をコリン作動性神経 cholinergic nerve とよび、Nor を伝達物質とする神経をアドレナリン作動性神経 adrenergic nerve とよぶ。コリン作動性、アドレナリン作動性神経という名称は機能を表すのに対し、交感神経、副交感神経という用語は、解剖学的用語である。
自律神経系の受容体
コリン作動性受容体
Achが結合する受容体をコリン作動性受容体 cholinergic receptor という。Achが結合できる受容体にはムスカリン受容体 muscarinic receptor とニコチン受容体 nicotinic receptor がある。
ムスカリン受容体
ベニテングダケという毒キノコに含まれる成分であるムスカリンに特異的に反応することをムスカリン様作用、その受容体をムスカリン受容体(M受容体)という。M受容体はGタンパク共役型である(受容体、細胞内情報伝達系と応答(1)参照)。M受容体は、薬物に対する親和性の違い等によりM1、M2、M3受容体の3種類のサブタイプに分類されている(表1)。
M受容体は、ムスカリン様作用の場である副交感神経効果器官に分布している。この他に、神経節や中枢神経にも多量に存在し、神経伝達に関与している。
M2受容体は主に心臓に分布し抑制的に働き、M3受容体は主に消化管平滑筋や腺に分布し、消化管活動を活発にするように働く。
ニコチン受容体
タバコの葉に含まれる成分であるニコチンに特異的に反応することをニコチン様作用とよび、その受容体をニコチン受容体(N受容体)という。N受容体は、イオンチャネル内蔵型であり(骨格筋収縮のメカニズム(1)参照)、Na+を通す。N受容体は、NNと NMに分けられている。
NN受容体は、自律神経節と中枢神経系に存在するタイプで、NM受容体は、運動神経によって支配される骨格筋に存在するタイプである(表1)。NM受容体は、骨格筋の収縮に関与する。
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代表的なカテコールアミンにアドレナリン、ノルアドレナリン、イソプロテレノール、ドーパミンがある。アドレナリンは、副腎髄質ホルモンであり、高峰譲吉によって初めて単離・結晶化(1901年)されて命名された。アメリカでは、エピネフリン、ノルエピネフリン、日本薬局方(2006年改正)とヨーロッパでは、アドレナリン、ノルアドレナリンとよばれている。
アドレナリン作動性受容体
ノルアドレナリン(Nor)が結合する受容体をアドレナリン作動性受容体 adrenergic receptor という。
アドレナリン作動性受容体は、すべてGタンパク共役型である(受容体、細胞内情報伝達系と応答(1)参照)。アドレナリン作動性受容体は、α受容体とβ受容体に大別され、α受容体はさらにα1とα2の2種類、β受容体はβ1、β2、β3の3種類のサブタイプに分類されている。
アルキスト Ahlquist(1948年)は、血管平滑筋や心筋などに対する主に3つのカテコールアミン(ノルアドレナリンNor、アドレナリンAdr、イソプロテレノールIsp)の反応の強さの違いに基づいて、反応の強さがAdr>Nor>Ispの順である受容体をα受容体、Isp>Adr>Norの順である受容体をβ受容体と名付けた。
その後αとβの2種類だけでは説明できないことがみつかり、ついにα1とα2に、β1、β2、β3のサブタイプに分類されるに至った。
アドレナリン作動性受容体は、交感神経支配臓器の細胞膜上や交感神経終末に分布している(表1、表2)。
α1受容体は、主として血管平滑筋に存在し、血管の収縮に関与している。α2受容体は、主に交感神経終末に存在し、Norの過剰遊離を抑制するネガティブフィードバックをかける自己受容体である。
β1受容体は主に心臓の機能亢進に、β2受容体は血管や気管支平滑筋に分布し、それらの拡張作用に関与している。β3受容体(感受性はNor>Adr)は主に脂肪分解促進に関与している。最近、β3受容体を刺激する作用薬は体重減少をもたらす薬物として期待されている。
Nor、Adr、Ispは代表的なカテコールアミンである。このうち、Norはα1、α2、β1、β3受容体に結合し活性化するが、β2受容体には結合しないので平滑筋拡張作用を生じない。Adrは、α1、α2、β1、β2、β3すべての受容体に結合し活性化する。Ispはβ1、β2受容体に結合し活性化する。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版