子宮頸がんワクチンは安全なの?危ないの?結局どっちなの|私たちが知りたいHPVワクチンのこと(3)
2013年4月に定期予防接種となってから、わずか2か月で接種勧奨が取りやめになったHPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)。その理由は、副反応とされる症状が多数報告されたためでした。
医療者であり、若い女性でもある看護師だからこそ、きちんと知りたい子宮頸がんとHPVワクチンのこと。3回目のテーマは「副反応が怖い…HPVワクチンは安全なの?」です。
【宮城悦子先生/横浜市立大学医学部 産婦人科学教室 主任教授】
産婦人科の医師として、子宮頸がんで亡くなる女性を一人でも減らしたい! YOKOHAMA HPV PROJECTを立ち上げるなど、子宮頸がんに関する情報発信にも力を入れています。
ワクチンのことは特に詳しくないです。子宮頸がんも心配だけど、HPVワクチンも不安…。「HPVワクチンって結局どうなの?」と思っています。
HPVワクチンについて取材したことがあるので、ちょっとだけ知識があります。HPVワクチンの議論は「むずかしいなー」と思っています。
HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)
▼2010年11月、小学6年~高校1年の女性に無料接種がスタート(任意予防接種)。半年間で3回接種する。
▼2013年4月には定期予防接種になったものの、副反応とされる症状が相次ぎ報告され、わずか2か月で「積極的な接種勧奨」中止。
▼現在の接種率はほぼ0%。接種率が高い世代は1994~2000年度生まれ(2018年時点で18~24歳前後)。
リスクが大きいなら接種したくないけれど…
前回、前々回と子宮頸がんがどんな病気なのか、HPVワクチンはどんな効果があるのかを見てきましたが、今回はHPVワクチンの安全性のお話ですね。
ここが一番気になるところだと思います。
この問題が報道され始めたころ、接種後の症状で苦しんでいる若い女性のニュース映像を見て「HPVワクチンで、こんなことが!?」とショックを受けた方も多かったと思いますし、やっぱり怖いですよね。
私もニュース映像の印象が強いです。
HPVワクチンに子宮頸がんを予防できる効果があっても、副作用のリスクが大きいなら、私はやっぱり接種したくないって思っちゃう…。
リスクとベネフィットを比べてみて「接種しない」と決めるのも個人の判断だと思いますよ。だからこそ正しい情報が大切ですね。
HPVワクチンの副反応は本当に多いの?
HPVワクチンの副作用? 副反応? ってどんな症状が、どのくらいあるんですか。
ちなみに一般の薬品の場合は「副作用」、ワクチンの場合は「副反応」という用語を使います。基本的な意味は同じです!
まず「どのくらいあるか」から行きますね。
厚生労働省によると、「HPVワクチンの副反応かもしれない症状」として報告されたのはこの表のようになります。
(厚生労働省リーフレットをもとに作成)
この表からは、ワクチンを打った1000人中1人弱くらいの割合で副反応が疑われる症状が起きた、そのうち半分ちょっとが重い症状だった、ということになりますね。
うーーん、それって多いのか少ないのか…。
ほかのワクチンと比べて報告数は多いと言えますね。
やっぱり多いんですか!
ただし、それは単純に危険を意味するのではなくて、現場の医師たちに「とにかく報告しておこう」という意識が働いたという側面が大きいと思います。
HPVワクチンに限らず、どんなワクチンも導入して初めのうちは報告数が多いものなんですよ。
特にHPVワクチンは副反応を心配する報道がたくさん出て注目されましたから、「自分の症状も…?」と不安になって受診した方も多かったと思います。
ああ、なるほど。新しいワクチンだから、みんな注意深くなるわけですね。
それと、報告された症状が必ずしもワクチンとの因果関係があるわけではないという点も見落とされがちですよね。
え? そうなんですか?
そう、この報告の中には接種してから数年経って出た症状など「因果関係が乏しそうなもの」も含まれています。副反応の報告制度は、情報を漏れなく集めることが目的なので、因果関係は問われていないんですよ。
本来は、ワクチンを打った後の好ましくない反応は「有害事象」、そのうちの因果関係が否定できないものだけを「副反応」と、用語を分けて言うべきなですが…。
日本のワクチン行政では、なぜか、おんなじ言葉を使っちゃってますよね。
それと、この報告には、すぐ回復したケースもかなり含まれていますね。
報告された症状がその後どうなったか、厚労省が追跡調査したところ、約89%は回復していて、ほとんどが7日以内の回復でした。
どんな症状が報告されているの?
「どんな症状があるか」はどうですか?
まず多いのは、接種部位の痛みや腫れ、赤みですね。
これはまあ、そうだろうなというやつですね。
ほかのワクチンでもよくあるやつですね。
ほかには、頭痛、めまい、筋肉痛、関節痛、吐き気、腹痛、蕁麻疹、倦怠感があります。
重い副反応としては、頻度は少ないですが、アナフィラキシー、ギラン・バレー症候群、急性散在性脳骨髄炎(ADEM)もあります。これらの副反応はほかのワクチンでも起こるもので、HPVワクチンで特別に多いわけではありません。
(厚生労働省リーフレットをもとに作成)
失神は、HPVワクチンにちょっと特徴的な点と言えるかもしれませんね。
失神? ワクチンを打った後、バターッと倒れちゃうんですか?
ええ。ただ、これは血管迷走神経反射という、強い痛みやストレスなどが原因で急激に血圧が低下したりして起こる生理反応です。
看護師の皆さんはよくご存知ですよね。
でもワクチンを打って失神するなんて、HPVワクチン以外ではあんまり聞きませんけど…。
それは、このワクチンの接種対象が思春期の女の子だということが影響してるんですよ。
そもそも迷走神経反射は、ワクチン接種に限らず、採血や献血、点滴なんかの針を刺す行為でも起きる反応ですよね。そして、思春期は迷走神経反射が起きやすいとされています。多感というか、痛みや恐怖への感受性がもともと強いんですね。
あっ、確かに! ほかの定期接種のワクチンは乳幼児に打つものが多いですもんね。
あと、「HPVワクチンは筋肉注射で、すごく痛いらしい」みたいな話も、けっこう恐怖感が増強されました。
あった、あった、HPVワクチン痛い話! 打つ前から怖い。
「だったら、そんな多感な年代に接種しなきゃいいじゃん?」と言いたいところですが、HPVワクチンはHPV(ヒトパピローマウイルス)に感染する前、つまり初めての性交年齢の前に接種するのが最も効果的だから、ここはジレンマですねえ。
HPVワクチンの接種が始まった当初、この迷走神経反射への配慮が足りなかったのは大きな反省点です。
- 迷走神経反射が起こるかもしれないことを医師や看護師が丁寧に伝える
- 寝かせた状態で接種する
- 接種後30分くらいは座らせて様子を見る
といった基本的な注意が大切ですね。
予防接種で失神したら、やっぱりビックリするし、不安になりますものね。
HPVワクチンは「原因」じゃないけど「きっかけ」かもしれない?
でも先生、HPVワクチン接種後に起きて問題になった症状って、失神とかだけじゃなくて、もっと大変な感じの症状でしたよね?
身体がけいれんしたり、歩けなくなったり。学校に通えなくなった人もいると聞きますし…。
厚労省では「多様な症状」と表現しているようです。HPVワクチン接種後にこうした症状が複数重なって苦しんでいる方も間違いなくいらっしゃいます。
(子宮頸がんワクチンの有効性と安全性の評価に関する疫学研究などをもとに作成)
そうですね。まさに問題になっている症状です。
ですが、結論から言うと、こうした症状がHPVワクチンそのものが原因で起きているというエビデンスはありません。
国の研究班(祖父江班)が大規模な全国疫学調査を行いましたが、その結論は「HPVワクチンを接種した人も、接種していない人も、同じような症状は起きる」でした。
名古屋市による大規模調査(名古屋スタディ)でも「接種後の症状とHPVワクチンに因果関係なし」という同様の結論が出ています。
それとWHOが、日本での副反応問題も踏まえて定期的にHPVワクチンの安全性をレビューしているんですが、こちらでも「安全性に懸念を示すデータはない」と結論づけられています。
え~、でもHPVワクチンを打っていない人でも、こんな症状が出るなんて本当ですか?
にわかには信じられないです。
だって、もしそうなら、ほかのワクチンでも話題になるはずなのに、なぜHPVワクチンの接種後だけ問題になったんですか?
これも、HPVワクチンが思春期の女子に接種するワクチンだということが影響しているんです。
厚労省の検討会では、HPVワクチン接種後に報告された多様な症状は「機能性身体症状」だとしています。
そして、その機能性身体症状が、HPVワクチンを打つときの痛みや不安などのストレスをきっかけに引き起こされた可能性は否定できないという見解も示しています。
え? それは「HPVワクチンが原因」とは違うんですか? どういうこと??
つまりですね、
HPVワクチンの成分が直接、多様な症状を起こすわけではない、
けれども、ワクチンを打って痛かったり怖かったりしたことが引き金になって、いろんな症状につながっていく可能性はある
ということです。
痛かったり怖かったりが引き金に…。
「痛みや恐怖に感受性の強い思春期の女子」…!
そうです。
そして、機能性身体症状が、もともとこの年代に一定の割合で生じるものだということもわかっています。HPVワクチンを接種していようがいまいがです。
何かしらの症状が出るに当たって、「HPVワクチンを接種したこと」がトリガーになってしまうかもしれないということなんですね。
痛みやストレスがこんな症状につながるなんて…、そんなことがあるのか~…。
私も、そんなことがあるのかと思って、小児科や精神科の複数の医師に「本当にあるんですか?」って取材で聞いたことがあって。
そしたら皆さん、「あるよ」「そういう思春期の患者さんはいるよ」というお答えでした。
症状が起こるきっかけは、たとえば学校生活の悩みだったり、本人もはっきりと自覚していないような心配事だったり、いろいろだそうですが、注目されてなかっただけで、あったんですね。驚きでした。
そうすると、接種後のいろいろな症状は心因性、こころや気持ちの問題だということなんですか?
いえ、ここが難しいところなんですが、
機能性身体症状は「気のせいだ」とか「本当は痛くない」とか、症状を否定するものでは絶対にありません。
痛みやけいれんといった症状は、本人の身体に確かに起きている現実です。
しかし、検査しても「ここに炎症がある、組織の損傷がある」といった原因は見つからない。かといって、必ずしも心因性とは限りません。
ただ、その症状が悪化したり慢性化したりするのには、心理的・社会的な要素や初期の対応も影響しているようなんです。
たとえば、誰でも緊張すると、動悸がしたり冷や汗が出たりしますよね?
反対に、体に痛みがあると精神的にも悪い影響が出てきて、それがまた身体に悪い影響を及ぼす。
こんなふうに、心と身体は、私たちが思っている以上に不可分なものなんです。
厚労省の検討会では、わかりやすく伝えようとして「心身の反応」という言葉を使ったんですけど、かえって誤解を招いてしまったところがあります。
「心理的なものだと言って、被害をごまかそうとしている」という反発もありましたし、逆に「本当は痛くないんだろう」といった誤解も招いて、症状に苦しんでいる方たちを追い詰めるような雰囲気が生まれてしまったと思います。
機能性身体症状は比較的、新しい疾患概念で、わたしたち産婦人科の医師も含めて、医療者の間でも正しく理解されていないんですね。
何を専門とする医師かによって「起立性調節障害(OD)」「線維筋痛症」「慢性疲労症候群」「複合性局所疼痛症候群(CRPS)」と、いろいろな診断名になったりもするようです。
いったん、ここまでの話を整理すると、
- HPVワクチンの成分について、安全性を否定するエビデンスはない
- 問題になっている多様な症状(機能性身体症状)は、HPVワクチン接種がきっかけで起きる可能性はある
- ただし、多様な症状(機能性身体症状)はHPVワクチンを接種していない人も出るし、接種した人に多く出るわけでもない
となりますね。
今まで「ワクチンの成分との因果関係はない」と言われても、だったらなぜHPVワクチンでだけ、こういう症状が問題になるのか、納得できなかったんです。
「思春期に打つワクチン」というのが、かなり重要なカギになってるんですねえ。
それから、筋肉注射で痛いワクチン・怖いワクチンと言われていたこと、新しいワクチンは安全性を疑う方向に傾きやすいことも「なぜHPVワクチンだけ?」の背景にあるんだとわかって、スッキリしました。
もしも接種後に「多様な症状」が出たら…?
でも、ワクチンの成分が原因ではないけれど、HPVワクチン接種がきっかけで機能性身体症状が出るかもしれないリスクはある、ということですよね。
もし症状が出たら治療法はあるんですか?
私は産婦人科の医師なので専門ではないんですが、認知行動療法のアプローチで治療効果が出ているという報告があります。
HPVワクチン接種後に起きた症状の診療体制について研究している厚労省の研究班(牛田班)によると、継続的に受診・治療を受けた人(156人)のうち、約74%は痛みがなくなった・軽くなったそうです。
各都道府県には、HPVワクチン接種後の症状の診療を行う医療機関があります。厚労省の相談窓口もあるので、もしも心配な症状が出たらまずは相談してみてください。
症状がよくなった方もちゃんといるんですね!
一方で、治療を受けても症状が変わらなかった方、悪化してしまった方もいる。
認知行動療法のアプローチは、「症状に対する考え方を変えて、生活に支障がないようにコントロールしていこう」という方法なので、このやり方では難しいこともあるのかもですね。
HPVワクチンの効果やリスクを理解しておくと、接種時の緊張や不安も減ると思います。
HPVワクチンに限らずですが、ワクチンは、きちんと理解して接種するのがやっぱり大切なんですよね。
知らないとただただ怖いけど、知ることで接種のストレスを軽減できれば、痛みや不安感もやわらぎそうですもんね!
なお、予防接種後の健康被害には救済制度(予防接種法に基づく救済制度とPMDA(医薬品医療機器総合機構)法に基づく救済制度)があって、ワクチンとの因果関係がそこまで厳密でなくても救済の対象になります。
HPVワクチンの場合、2017年9月末までに審査された計472人のうち295人が医療費や医療手当の支給を受けているそうです。
HPVワクチン接種するかしないか
子宮頸がんとHPVワクチンについて、3回にわたって質問にお答えしてきましたが、いかがでした?
第1回では「前がん病変や子宮頸がんになると、どんなリスクがあるか」を理解できましたし、第2回では、HPVワクチンには子宮頸がんの予防効果があることもわかりました。
そして何よりHPVワクチンの副反応とされている症状について、いろいろ疑問に思っていたことが納得できました!
個人的には、HPVワクチンを打って得られるベネフィットを選んだ方がいいというのが今の気持ちです。
よかったです!
ただ、HPVワクチンが思春期の女の子に打つワクチンで痛い・怖いと言われている以上、原因ではないにしろ、機能性身体症状が出てしまう恐れはやっぱりあるんだなと。
確かに。それに、添付文書に書かれている副反応の症状も当然、ゼロリスクではないです。
なので、もしも知り合いや家族がHPVワクチンを接種するかどうか迷うようなときは、
ワクチンの効果やリスクをきちんと知ることと、
できるだけ「痛くない注射」をしてくれる先生を探すこととセットで接種を薦めるのがいいのかもしれないと思ってます。
安心できる接種という意味では、信頼しているかかりつけの医師がいれば、基本的にはそこがいいと思いますよ。
HPVワクチンの接種勧奨は再開されていませんが、今現在も、小学6年生~高校1年生の女子は、定期接種として自己負担ゼロで接種を受けられます。
医療者として、若い女性として、看護師の皆さんからもぜひ正しい理解を広げていってもらえたらと思います。
今回のまとめ
看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko)
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(参考)
子宮頸がんワクチンの有効性と安全性の評価に関する疫学研究・PDF(厚生労働省)
WHO(GACVS)HPVワクチンの安全性に関する声明(2015年12月17日)・PDF(厚生労働省)
副反応追跡調査結果について・PDF(厚生労働省)
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