浮腫のある患者の褥瘡予防のためのポジショニング

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『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は浮腫のある患者の褥瘡予防のためのポジショニングを解説します。

 

栁井幸恵
綜合病院山口赤十字病院/皮膚・排泄ケア認定看護師

 

 

浮腫のある患者の褥瘡予防のためのポジショニング

 

ポジショニングのポイント

  • 循環を促す目的で、浮腫部位を軽度挙上する。
  • 創傷を作らないよう、使用する物品の硬さや柔軟性に配慮する。
  • 下肢の浮腫の場合、下肢挙上の程度によっては仙骨部・尾骨部に下肢の重さがかかり体圧が上昇することがあるので、角度に注意する。
  • 支える面積は広くし、部分圧が高くならないように配慮する。

 

浮腫のケアの基本

●浮腫の原因は、全身性では心原性や腎機能低下、栄養障害、薬物の影響など、局所性では静脈性やリンパ性浮腫などがある。

 

●浮腫のある部位の皮膚は、薄く引き伸ばされ弾力性に乏しく乾燥している。

 

●そのため外的刺激で容易に皮膚の損傷を引き起こし、いったん生じた創はなかなか治癒しない。

 

●循環も悪く、免疫能も低下しているため感染の影響も受けやすい。

 

●浮腫のある患者には外傷を起こさない、感染を起こさないケアが重要である。

 

 

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圧分散の器具の選択

1 圧分散のためのマットレスの選定

浮腫は褥瘡発生の原因の一つであるため、褥瘡防止のために圧分散を行う必要がある。

 

エアーマットレスを使用する際は、圧管理に配慮する。エアーマットレスの圧が高いと浮腫部にエアーマットレスのセルの圧痕が残ってしまう場合がある。この場合は、セルの頂点の部分で体重を支えているため、局所圧が上昇して褥瘡が発生しやすい。

 

そこで、圧分散ができる圧設定やマットレスの種類を選択する必要がある。

 

2 ポジショニングで使用するピローの材質

浮腫部の挙上や良肢位を保つためのピローは、その材質、硬さや柔軟性、さらに大きさに注意する。

 

四肢の浮腫の場合、浮腫を起こしている四肢全体を支えられる程度の大きなピローで支え、軽度挙上ができる程度の厚さをもたせる(図1)。

 

図1 四肢の浮腫の場合

四肢全体を支えられる大きなピローを当てて接触面積を広くし、軽度挙上できるようにする

四肢の浮腫の場合

 

浮腫の下肢を包み込むような(接皮面積を広くできるような)形状や柔軟性があることが望ましい。材質では、通気性や圧分散性のあるクッションビーズ、極小ビーズ等がよいとされる(図2)。

 

図2 通気性や圧分散性のあるクッションビーズ、極小ビーズを用いたピロー

クッションビーズ、極小ビーズを用いたピロー

 

ピローの形状を有効利用し、浮腫部に部分的に圧がかからないようにする(図3)。

 

図3 ピローの形状と下肢の置き方

ピローの形状と下肢の置き方

 

3 ベッドシーツ、ピローカバー

除湿効果のあるものが望ましい。加えてしわになりにくい加工がしてあるものを選択するとよい。

 

特に、シーツのしわは圧迫になり、そのまま浮腫部の皮膚に圧痕を残し、それが外傷のきっかけになるからである(図4)。

 

図4 シーツのしわによって浮腫部の皮膚に圧痕が残る

シーツのしわによって浮腫部の皮膚に圧痕が残る様子

 


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ポジショニングの進め方

1 浮腫部の挙上

挙上角度は、高く上げすぎるとその重みが他の部位にかかってしまうため低めにする(図5)。

 

図5 浮腫部の挙上角度が高すぎる場合

浮腫部の挙上角度が高すぎる場合

 

浮腫の移動や圧痕の状態を観察し、本人の訴え等も聞きながら角度を決定する。

 

ピローの位置が決定したら、ピローと殿部の間の圧抜きを行う(図6)。

 

図6 ピローと殿部(皮膚)の間の圧抜き

ピローと殿部(皮膚)の間の圧抜き方法

 

2 皮膚の密着を避けて皮膚の浸軟を予防する

浮腫のある部位は皮膚が密着しやすいので、不感蒸泄に伴う皮膚の浸軟が起こりやすい。そのため、新たな損傷を起こす危険性を伴うとともに感染のリスクも上がる。

 

皮膚の密着を避けられるように小さ目のピローを挟んだり、ピローの形状を工夫して対処する(図7)。または、ピローカバーに除湿効果のあるものを選択するとよい。

 

図7 皮膚の密着を避けられるようにピローの形状を利用

皮膚の密着を避けられるようにピローの形状を利用する

 

3 体位変換の工夫

体位変換や移動の際、直接皮膚に触れると損傷を起こしやすいため、寝衣の上から、もしくは滑り効果のあるグローブ等を用いて行う。

 

殿部から下肢にかけて浮腫のある症例の場合、大きなピロー等で下半身を支えると、その安定性がよすぎて体位変換時に上半身のみで体位変換が行われてしまうことがある。

 

浮腫部位は循環不良があるため、少しずつでも向きを変え、同一部位の圧迫が持続しないよう配慮する必要がある(図8)。

 

図8 浮腫のある下肢の体位変換

浮腫のある下肢の体位変換手順

 

4ポジショニング終了後

浮腫があり、自分での体動がままならない患者は、ポジショニング後体位保持ができずにずれてしまうことがある。

 

訪室ごとに体位の確認を行い、ずれを生じるようであれば体位変換の間隔を短くすることも考慮する。

 

5 痛みや呼吸苦などで体位変換が困難な場合

緩和ケア期など痛みや呼吸苦で浮腫部の向きを変えることが困難な場合は、滑り効果のあるグローブ等を用いて浮腫のある四肢全体の圧抜きを行い、圧分散を促す(図9)。

 

図9 ポジショニング・グローブの使用による四肢の圧抜き

ポジショニング・グローブの使用による四肢の圧抜き方法

 

浮腫部位は、持続する圧迫を避けるなど、機械的刺激の予防に細心の注意が必要である。

 

ポジショニングと同時に、ベッド柵のカバー等環境整備や、スキンケア、機械的刺激を避けるためのルーズソックス等の着用を行うとよい(図10)。

 

図10 機械的刺激を避ける工夫

機械的刺激を避ける工夫

 

 

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浮腫のある部位のスキンケア

浮腫部は、皮膚が薄く引き伸ばされて菲薄化し、弾力性に乏しく乾燥しています。また、循環も悪く、外的刺激で容易に皮膚の損傷を引き起こします。

 

そこで、創傷・褥瘡予防のためには、ポジショニングに加えてスキンケアを行う必要があります。その方法をいくつか紹介します。

 

予防的スキンケア

①清潔の保持

浮腫部の皮膚は感染の影響も受けやすいため清潔の保持が重要です。乾燥や皮膚の菲薄化を考慮し、ぬるめの温湯で機械的刺激を避けた洗浄方法を用います。

 

具体的には、泡の洗浄剤で泡をのせるように使用し、汚れを浮き上がらせた後、たっぷりの温湯で洗浄剤成分が残らないように洗い流します。

 

②保湿

乾燥を防ぎ、皮膚のひび割れや摩擦等の機械的刺激から皮膚を保護します。また、皮膚本来のバリア機能を保持するためにも保湿剤の塗布で皮膚を乾燥から守ります。

 

保湿剤はローション系のものは皮膚への浸透は早いのですが、水分の蒸発の際に乾燥を強めてしまう可能性があるため、クリーム基材や軟膏基材を用います。

 

ただし、硬めの軟膏基材は保湿剤の塗布の際に浮腫部に機械的刺激を及ぼす可能性があるため優しく塗るように心がける必要があります。

 

③皮膚の保護

機械的刺激から皮膚を保護する目的で、ルーズソックスの使用(図10)やベッド環境の整えを行います。また、褥瘡好発部位にフィルムドレッシングで皮膚を保護する方法がありますが、浮腫部は粘着剤を使用する際には細心の注意が必要になります。フィルム材等を剥がす際の剥離刺激で、皮膚を障害してしまう危険性があるためです。

 

筆者は浮腫部には粘着剤を使用しないようにしており、例えばガーゼ等での固定の際にも創傷用ネット等を用いるようにしています。

 

しかし、最近シリコーン粘着剤を用いたフィルム材が開発され、浮腫部にも使用可能になっています。これは、シリコーンゲルが皮膚の凹凸に追従し、皮膚を包み込みように密着するため、従来のフィルム材の粘着剤より粘着力が弱くても固定性が確保されており、かつシリコーンゲルがやわらかく伸張して皮膚から離れるため、剥離時の皮膚の損傷リスクを軽減するものです(図11)。

 

また、フィルム材表面の滑りもよく、摩擦の影響を受けにくいのです。これを用いて、踵部や仙骨部など浮腫部の皮膚保護を行います。

 

図11 浮腫部に発生した水疱に貼付したシリコーン製粘着剤のフィルム材

浮腫部に発生した水疱に貼付したシリコーン製粘着剤のフィルム材

 

 

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参考文献

1)日本看護協会認定看護師制度委員会創傷ケア検討基準会 編著:スキンケアガイダンス.日本看護協会出版会,東京,2002.

2)祖父江正代,近藤まゆみ 編:がん患者の褥瘡ケア.日本看護協会出版会,東京,2009.

3)内藤亜由美,安部正敏 編:Nursing Mook46 病態・処置別スキントラブルガイド.学研メディカル秀潤社,東京,2008.


 

本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』 編著/田中マキ子/2014年8月刊行/ 照林社

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