頭低位|手術室で多くとられるポジショニング①
『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は手術室で多くとられる頭低位のポジショニングについて解説します。
山中直樹
綜合病院山口赤十字病院内視鏡外科部長
頭低位のポジショニングのポイント
- 頭低位にする場合は、下肢は下肢挙上器具に載せ、上肢は腕神経叢損傷を予防するため両上肢ともに体側につけて固定したほうがよい。
- 肩関節を外転する場合は90度以下にして肩支持器を用いない。肩関節にかかる圧を一定にするため除圧固定具(マジックベッド®、図1)を使用したほうがよい。 除圧固定具を用いるときは、低反発ウレタンフォームなどの圧分散用具を上に置いて身体に直接除圧固定具が当たらないようにする(図2)。
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頭低位のポジショニングの進め方
1 手術台の準備
①除圧用マットを敷く
手術台の上半身部分に「滑り止めシート」「除圧固定具(ここではマジックベッド®)」「低反発ウレタンフォーム(ここではソフトナース®)」を置く(図3)。
下肢部分は下肢挙上器具(レビテーター)を取り付け、「下肢用ジェルマット」を置く。
②ディスポシーツをかける
上から全体に汚染防止用の「ディスポシーツ」をかけ、「上肢固定用の布」を置く(図4)。
2 仮の体位決め
①仮の体位をとる
患者の身体に合わせた「ディスポシーツ」をもう1枚敷く(図5)。
その上に麻酔導入後の患者を移動させ、仮の体位をとる。
このとき、身体を持ち上げて足側に移動し、下肢部分が外れる部位に殿部を合わせる。
会陰部操作が必要な場合は、尾骨先端がベッドの下端になるように合わせる。
②両下肢を置く(図6)
両下肢を挙上器具に載せる。片脚ずつ載せると坐骨神経の過伸展を招く恐れがあるため、両脚を同時にゆっくりと載せたほうがよい3)。
心疾患がある場合は、静脈還流の急激な増加を防ぐため、片脚ずつゆっくりと挙上器に載せる。
3 下肢固定
踵部をブーツの踵部分に合わせる。
このとき下腿後面に圧がかからないようにする。腓骨小頭部を圧迫すると腓骨神経麻痺をきたす恐れがあるため、腓骨小頭部への接触を避けるよう固定する。
②開脚位をとる(図8)
レビテーターの固定を確認し、開脚位をとる。
レビテーターの位置は、股関節の屈曲角度10度程度(鉗子操作に支障のない位置)、膝関節の屈曲角度10度程度とする。足関節は0度~軽度の尖足となるようにする。
膝関節の伸展と股関節の屈曲を同時に行うと坐骨神経に牽引負荷がかかるため、膝関節、股関節ともに屈曲させる。
左右対称に開脚させ、股関節の外転は45度以下にする。
下腿挙上で下腿の動脈圧が低下するため足背動脈の血流を確認し、下腿血流障害の有無を確認しておく。
4 上肢固定(図9)
①両上肢を体側固定する
腕神経叢損傷を予防するために行う。
上肢固定用の布と「ディスポシーツ」を巻き込む。手掌は回内、手関節の背屈・掌屈は20度以内にする。
体幹と上肢は密着しないようにし、左右に回転させたときに体幹で上肢を圧迫しないようにする。
上腕を90度以上外転した場合、頭低位を30~40分継続するだけで神経損傷の原因になるとの報告がある4)。上腕を外転する場合は90度以下にする。
転落防止のため、「上肢保護板」などを使用する場合もある(図10)。上肢保護板を使用する場合は、上肢が保護でき、なおかつ鉗子操作に支障のない高さとする。
5 肩・頭固定
①最後に肩と頭を固定する
アメリカ麻酔学会の末梢神経障害予防におけるコンセンサスによると、急峻な頭低位で肩支持器を使用すると腕神経叢障害の危険性があるため「肩支持器」の使用を可能な限り避けるべきとされている5)。そのため、肩支持器に加えて除圧固定具(マジックベッド®)を使用したほうがよい。
低反発ウレタンフォーム(ここではソフトナース®)などの圧分散用具を上に置いて、肩などに直接除圧固定具が当たらないようにする(図11-①)。
肩支持器のみで支持する場合には、両上肢を外転せずに必ず体側固定して支持器を肩鎖関節上に正確に置く。
肩鎖関節より内側に肩支持器を置くと腕神経叢は鎖骨と第一肋骨との間で圧迫され、肩鎖関節より外側に置くと上腕骨骨頭が押し下げられる方向に力がかかり、腕神経叢は過伸展を起こす6)。
②肩と頭の固定を確認する(図11-②)
頭側から、「除圧固定具」「低反発ウレタンフォーム」により両肩が包み込むように覆われていることを確認する。
両側ともに固定すると、同時に頭部も安定する。回転時に側屈しないよう、頭部が低反発ウレタンフォームで保護されていることを確認する。
低反発ウレタンフォームで耳介を圧迫しないようにする。
6 除圧固定具を吸引して固定(図12)
マジックベッド®に陰圧をかけたのち、十分な硬さが保持できているか確認する。
固定後に除圧固定具や体側支持器が皮膚と接触していないか確認する。
体側支持器の固定状況も確認する。手術前にあらかじめ頭低位をとり、ずれや不十分な固定がないか確認する。
殿部の“圧抜き”を行う(ここでは「ポジショニンググローブ」を使用)。
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引用文献
1)大塚幸喜,秋山有史,若林剛,他:結腸癌に対する安全な腹腔鏡下手術.手術2007;61:1239-1244.
2)Milsom JW, Ludwig KA, Church JM, Garcia-Ruiz A. Laparoscopic total abdominal colectomy with ileorectal anastomosis for familial adenomatous polyposis. Dis Colon Rectum. 1997;40(6):675-678.
3)田中マキ子,中村義徳 編著:動画でわかる手術患者のポジショニング.中山書店,東京,2007:74-77.
4)Romanowski L, Reich H, Taylor PJ, et al.Brachial plexus neuropathies after advanced laparoscopic surgery.Fertil Steril 1993;60:729-732
5)Warner MA.Practice advisory for the prevention of perioperative peripheral neuropathies: a report by the American Society of Anesthesiologists Task Force on Prevention of Perioperative Peripheral Neuropathies.Anesthesiology 2000;92:1168-1182
6)Coppieters MW, Van de Velde M, Stappaerts KH.Positioning in anesthesiology:toward a better understanding of stretch-induced perioperative neuropathies. Anesthesiology 2002; 97:75-81
参考文献
1)山本 徹,百留亮治,矢野誠司,他:チームで作る手術体位─合併症を防ぐには―チームで取り組む手術体位シミュレーションの効果.日本手術医学会誌2012(1340-8593);33(3):232-236.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『写真でわかる看護技術 日常ケア場面でのポジショニング』 編著/田中マキ子/2014年8月刊行/ 照林社