「腹部大動脈瘤」と「腹部大動脈解離」。フィジカルアセスメントだけで見抜けるの?
『いまさら聞けない!急変対応Q&A』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は腹部大動脈瘤と腹部大動脈解離をフィジカルアセスメントのみで見抜けるかについて解説します。
成田亜紀子
弘前大学医学部附属病院 高度救命救急センター 副看護師長/救急看護認定看護師
「腹部大動脈瘤」と「腹部大動脈解離」。フィジカルアセスメントだけで見抜けるの?
かなりの精度で見抜けます。急激な激しい腹痛や腰背部痛では、腹部大動脈疾患を疑います。ショック状態なら腹部大動脈瘤破裂、血圧が高ければ腹部大動脈解離の可能性が高いです。
腹部大動脈の病変で、早急な対応を要する代表的な疾患は、大動脈瘤と大動脈解離です。
腹部大動脈瘤でも、非破裂性であれば無症状のことが多いです。しかし、破裂した場合は出血性ショックに陥り、救命が難しくなってしまいます。そのため、患者が急に激しい腹痛や腰背部痛を訴え、ショック状態であれば、まず腹部大動脈瘤破裂を疑って対応しましょう。
腹部大動脈解離の場合は、血圧が高いことが多いです。腹部大動脈は、腹腔動脈や上・下腸間膜動脈、腎動脈を分枝し総腸骨動脈に分かれるため、大動脈瘤や大動脈解離の部位や進行状況により、多彩な虚血症状を示します(図1)。
図1 腹部大動脈の血流障害による部位別症状
ただし、腹痛や腰痛、背部痛を呈する疾患は、消化器疾患、整形外科疾患、泌尿器疾患など多岐にわたります。そのため、これらの症状を患者が訴えた場合、まずはバイタルサインを測定し、異常があれば応援を呼びましょう。その後、問診・視診・聴診・打診・触診を行って、患者の状態をアセスメントしていきます。
アセスメントの進め方
1 問診
腹部大動脈瘤のリスクファクターは、①男性、②65歳以上、③喫煙歴、④高血圧、⑤家族歴です1)。大動脈解離は、本態性(動脈硬化や高血圧)が大半を占めますが、まれに先天異常や外傷などが原因となる場合もあります。腹部大動脈瘤で現れる症状は、腹部膨満感や便秘、非特異的な腰痛などです。
一方、腹部大動脈解離は、腹痛だけではなく腰背部痛を訴えることが多いです。多くの場合、「引き裂かれるような痛み」「刺されるような鋭い痛み」ではじまり、「これまで経験したことのないような痛み」と表現されます2)。腹部大動脈解離による痛みは、発症時が最強で徐々に軽減することや、解離の方向に疼痛が移動することもあります。
問診時には、これまでに大動脈瘤を指摘されていないか確認することも重要です。さらに、痛みのある部位や、発症様式なども確認しましょう(表1)。大動脈解離に伴う虚血症状として、下肢のしびれ感を呈することもあるため、併せて確認する必要があります。
2 視診
腹部の視診では、拍動性腫瘤があるか確認します。拍動性腫瘤があれば、腹部大動脈瘤の可能性が高いです。
また、腹部大動脈瘤破裂では、後腹膜を中心に出血をきたし、腹部膨隆を引き起こすため、腹部の観察が重要となります。
下肢への血流障害の有無は、皮膚や爪床色のほか、末梢冷感の有無や毛細血管再充満時間を観察することで判断できます。
3 聴診
腹部の聴診では、腸蠕動音と異常音の有無を確認します。
腸蠕動音の減弱は、腹部大動脈瘤破裂によって腸管運動が低下することで生じます。
一方、血管の拍動音がより明白に聴かれる場合は、腹部大動脈瘤を疑います。
4 打診・触診
腹部の打診・触診を行うときは、痛みのない部分からやさしく触れることが原則です。
腹部の臍周囲に手掌を置き、拍動を感じた場合は、腹部大動脈瘤を疑います。拍動性腫瘤を認めた場合は、打診は控えたほうがよいでしょう。
また、足背動脈や後脛骨動脈などに触れ、下肢末梢動脈が左右差なく触知できるかを確認してください。
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引用・参考文献
1)日本循環器学会,日本医学放射線学会,日本胸部外科学会,他:大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2011年改訂版).[2018.7.2アクセス]
2)藤田広峰:急性大動脈解離.救急医学 2009;33(10);1235‐1239.
3)宮原聡子,奥谷龍:胸痛・胃痛・背部痛への早期介入.救急看護トリアージのスキル強化2014;4(3):11‐17.
4)押川麻美:腰部・背部痛.道又元裕 監修,佐藤麻美 編,先輩教えて!ICUナースの検査値の読み方.日総研出版,愛知,2014:87‐91.
5)医療情報科学研究所 編:病気がみえるvol.2循環器 第3版.メディックメディア,東京,2015:245‐255.
6)霧生信明,小井土雄一:腹部大動脈瘤破裂.救急医学 2009;33(10):1245‐1249.
本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『いまさら聞けない!急変対応Q&A』 編著/道又元裕ほか/2018年9月刊行/ 照林社